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森の賢者の優しい恋のお話  作者: テディ
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第40話 夢の中

 第40話  夢の中


 シャアルと食事に行ってからの自分は何だかおかしい。

アリシアにも、その自覚があった。

起きていても寝ていても、フワフワしたベットの上にいるようだ。

ふと気がつけば、ぼんやりしていてデザートもあまりワクワクしない。

何より、あまり物を食べたくないのだ。具合が悪いわけではない。

何というか、胸がいっぱいで食べ物が喉を通らない。


友人も同僚も、そして家族も、そんなアリシアを見て

驚いたり心配したりしたが、シャアルの説明を受けて

見守ることにしていた。


幸い、アリシアは古文書を前にすると人が変わったかのように

書物に意識を埋没させていく。仕事の出来に変わりはなかった。


周りの者が、1つだけ困ったことがあった。

見守るのは良いとして、アリシアの食が細くなったのだ。

昼休憩はシャアルが、まるで親鳥のように

せっせと食べさせているから良いが、朝、晩が問題だった。

さすがに家族が口に運んでやるわけにもいかない。

無意識であろうにアリシアも、食べさせてもらうのを

よしとするのはシャアルだけだった。

そして1週間たった頃には、アリシアは細っそりしたように見えた。


心配したニコラが、とうとう腰を上げた。

アリシアの両親は、王宮内の事はニコラに全てを任せると言った。

シャアルは、一日の食事は全て自分が面倒を見ると言ったが、

ニコラは笑って却下した。

だいたい昼休憩を庭や部署内でとっているとは言え、

シャアルが、アリシアの口に、せっせと食べ物を運ぶのを見られるのは、

アリシアにとっても良くない。それは婚約してから

2人っきりの時にして欲しいが、今は背に腹は変えられない。

かろうじて昼休憩だけ食べさせる事を許可しているのだ。

そんな周りの様子に気がつかないくらい、アリシアはボンヤリとしていた。

ニコラは、シャアルにアリシアが友達からの助言を受ける必要があると話し、

今週末はロゼッタの所に泊まりにいくように手配した。

今回は自分も顔を出そう。ニコラは決めていたのだった。


 週末の休みに入る前日、仕事を終えたアリシアはシャアルに送られて

ロゼッタの屋敷に着いた。ロゼッタと、その兄弟、両親は

喜んでアリシアを迎えた。

ロゼッタは朗らかにシャアルに話した。

「デヴォン辺境伯、どうぞご心配なさらないで。

無理に話をさせたりは、いたしません。

アリーが少し、リラックスできれば良いのです」

ロゼッタはアリシアより落ち着いていて、大人びて見えた。

シャアルはくれぐれもよろしくと言い、屋敷をあとにした。


ロゼッタは、アリシアを自分の部屋へ連れて行った。

何を話すわけでもなく、ボンヤリしているアリシアの横で

レース編みを始めた。ロゼッタは手先が器用で、

刺繍の展覧会で賞をとったこともある。

レースを編むロゼッタの横で、アリシアはロゼッタの手先を

眺めていた。レースが色々な模様を作っていく。

何もない空間に模様が浮かび上がってくるのが、楽しかった。

アリシアはポツリと話し出した。

「……ロゼッタ……?」

ロゼッタは、ゆっくりと手を止めアリシアを見た。

「なあに、アリー?」

「私ね……私、シャアル様とお食事に行ってから

なんだか変なの」

ロゼッタは、ただ相槌をうった。

「そうなの」

「……何だかフワフワしているの。……何だか胸がいっぱいで

お食事が食べられないの……」

「そう。そうなの」

ロゼッタはアリシアを見て、優しく相槌をうった。

「……私、……私……気がつくと、シャアル様の事と、

お食事の帰り道を思い出してしまうの……とても……とても綺麗だったから……」

いつもであれば、身悶えして話をせがみそうなロゼッタだが、

今日は暖かい眼差しで、アリシアを見ていた。

アリシアは小さな声で、言葉があふれ出すように話し続けた。

「シャアル様……私のお気に入りの魔法を、覚えていてくださったの……。

それを帰り道で見せてくださって……嬉しかったの。

嬉しかったんだけど、涙が止まらなくなって……。

……心の中に灯りが灯ったように、暖かなものが出てきたの……。

でも、それをシャアル様に見せてあげる事はできなくて……。

心の中で起きたから……」

それを聞いていたロゼッタは、アリシアの思考の邪魔をしないように

ゆっくりと穏やかに尋ねた。

「アリーは心の中で起きたことを、シャアル様に見せたかったの?」

アリシアは、ゆっくりと答えた。

「……ええ……私、この暖かな幸せに感じるものを

シャアル様に分けたかったの……分けたかったのよ……」

ロゼッタはアリシアに優しく言った。

「アリー、その暖かで幸せな心に、名前をつけられる?」

「……名前……?」

「ええ、名前。でも思いつかなければ、名前を付けなくていいわ」

「……考えてみるわ……」

「明日、お昼ころにニコラも来るって。楽しみに待ちましょう?

アリーには考える時間が必要だわ。好きなだけ考えていいのよ」

ロゼッタは、アリシアを抱きしめると、またレース編みを始めた。

アリシアはボンヤリと眺めながら、考えているようだった。


ロゼッタは食事から、湯浴みの指示、眠りにつくまで

自分の妹と同じようにアリシアの世話をやいた。

優しく髪をとかし、寝かしつける。


「おやすみ、アリー。また明日」

アリシアは考えすぎて疲れたのか、すぐに目を閉じた。

「おやすみ……ロゼッタ。……ありがとう……」

アリシアは幸せな夢の中に、とけるように落ちていったのだった。

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