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森の賢者の優しい恋のお話  作者: テディ
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第38話 変化

 第38話  変化


 アリシアがシャアルと食事をして帰ってきてから

2日後、マリーがリリアーナの部屋を訪ねた。

まだお昼少し前の時間で、普段ならあり得ないことだ。

この時間、マリーは色々な仕事の指示を出すので

とても忙しいはずなのだ。


「マリー? どうしたの? 何かあった?」

部屋へ来たマリーに、リリアーナはおっとりと尋ねた。

マリーは、深刻な表情をしていた。

「はい、奥様。申し訳ありません。ご相談できるのが

奥様しかいないのです」

その様子に、リリアーナは座り直した。

「まあ、こちらにいらっしゃい。近くで話を聞きたいわ。

いったいどうしたの?」

「アリシア様の事なんです……」

「アリー?」

「デヴォン辺境伯とお食事して帰ってきてから、

ご様子が……」

それを聞いたリリアーナは、ため息をついて答えた。

「そうね、アリーはちょっと様子を見る必要があるわね」

マリーは、アリシアの様子を説明しだした。

「奥様、アリシア様は食事の量が、半分に減っております。

あのお嬢様が、デザートを食べないなんて……!!

それから本を手にしているのに、外を眺めていらっしゃいます。

奥様、お医者様を呼んだ方が……」


それを聞いたリリアーナは、キョトンとした後、

朗らかに笑い出した。

「やあね、マリー。あなたともあろう人が……。

大丈夫よ、アリーは病気じゃないわ。少なくとも

身体の病気ではないわよ」

「でも奥様、アリシア様はただでさえ、あんなに細い腰で

折れそうなのに、これ以上細くなったら倒れてしまいますよ」

マリーの鼻息は荒くなる一方だった。

リリアーナは笑いながら、マリーをなだめた。

「まあまあ、マリー。私に考えがあるのよ。

今からデヴォン辺境伯にお手紙を書くわ。

王宮に届けてもらってちょうだい。

それから、今日の晩餐は辺境伯もご招待するわ。

急で悪いんだけど、準備をお願い。

その後、サロンで少しお話をするわ。お茶の準備もお願いね」

「かしこまりました、奥様。……辺境伯とお話なさるのですか?」

「ええ、そうよマリー」

マリーは疑問を持ちながらも、指示を素早く出すため、

リリアーナの部屋を辞した。

奥様に任せておけば大丈夫。

これは、この家に支える者たちの合言葉の様になっていた。

マリーは食後のお茶を何にするか、シェフに相談しなければと、

厨房に向かうのだった。


 リリアーナの手配した通り、魔法の稽古を終えたシャアルも共に

晩餐の席についた。カルロスとグラントも帰っており、

フィルだけが夜警で留守だった。

なごやかに食事は進んだ。シャアルはアリシアから

もらった万年筆を皆に見せ、感謝の言葉を口にした。

先日見た観劇の話、アリシアの古文書の話、アリシアの部署が、

どの様な雰囲気なのか。アリシアの同僚と友人になれた話。

普段アリシアが口にしないことを、シャアルは嬉しそうに皆に話した。

マリーが心配していた通り、アリシアは食が進まなかったが、

シャアルに小声で何か言われると、ボンッと音が立ちそうなくらい真っ赤になり、

猛然と食事をしだした。その様子を見て、リリアーナはナプキンで顔を隠し

こらえる様に笑っていた。


グラントは、そんなシャアルを見て唖然としていた。

しばらく会わないうちに、何だか様子がすっかり変わっている。

毎日会っていたはずのアリシアも、シャアルの前だと

雰囲気が全く違うことが、驚愕の一言だった。

食事が終わると、両親とシャアルはサロンでくつろぐらしい。

こりゃぁ、母上が動いたな……?

勘のいいグラントは、すぐに思いついた。

シャアルにお休みと告げるアリシアは、

自分の知らない、たおやかな女性の様に見えた。

兄様が荒れるな……。

そう思いながらも、初めてみるアリシアの様子に

とてもショックを受けていた。


フィルとグラントにとって、アリシアは生まれてきた時から

何よりも大切な宝物だった。リリアーナは根気よく力加減を教え、

2人も幼いながらに、とても気をつけていた。

それでも子供は子供だ。とっさの時に加減ができず

アリシアの腕を掴んだら、赤く腫れ上がってしまったりした。

グラントは自分のしたことにショックを受け、

部屋にこもって、泣いたりしたものだ。

そうするとリリアーナが必ずやってきて、グラントを慰めた。

あなたに悪気があったのではないと、皆 分かっている。

次から気をつけるようにしましょう、そうすれば良いだけよと。

リリアーナが慰めると、その後 アリシアも必ずやってきて

庭で摘んだ1輪の花を、グラントに差し出すのだ。

お兄ちゃま……早く元気になってと言って、

アリシアはグラントに抱きつく。

フィルもグラントも、そんな経験があったからか

人一倍、弱き者を守るという信念が育った。


グラントは、アリシアが一足先に大人になっていくようで

寂しかった。置いてけぼりにされた気分だ。

アリシアの望みは、シャアルが恐ろしいほどの速さで叶えていく。


僕たちだけが、アリーを守れると思っていたのに……。

何だか寂しいな……。


グラントは、はにかんで自室に下がるアリシアを見るのだった。

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