ゆにばーす
救助に来たヘリは無惨にもぷらんたぁの母艦に迎撃されてしまった。
爆発を起こしたヘリはそのままヘリポートの外に墜落していった。
無数の火器やミサイル類がバラバラとヘリポートに散乱している。
これだけの武装だ。救助は建前で、染井の異常事態を鎮圧するためのヘリだったのだろう。
しかし、このままではいくら助けを呼んでも赤い月に撃墜されるだけだ。
なんとかしてこちらから攻撃できればいいのだが。
だが、樹には武器の知識など無い。
発射のしかたどころか、何に使うかもわらない。
「くそぉッ!! なんとか、なんとかならないのか!? あんな、あんなバケモノに…人類は侵略……いや、ジェノサイドされちまうってのか!!」
だが、次の瞬間、樹の脳が勝手にありとあらゆるものに脳侵しはじめた。
様々(さまざま)な人々(ひとびと)の力、技術、知識などに次々(つぎつぎ)と脳侵していく。
惨たらしく死んでいった染井の人々(ひとびと)の思念が呼び水となって、樹は″ゆにばーす″を脳侵した。
(プツン!!)
樹はヘリポートに落ちている中で、使えそうなものを素早く拾った。
そして彼は手持ちロケットを持ち上げて構えた。
まるで毎日、使っているかのように手に馴染む。
「地対空ロケットランチャー、スティンガーだ!!」
頭に使い方が響いてくる。
そして少年は赤い月の母艦めがけてスティンガーを撃ち込んだ。
「うあああああぁぁぁぁ!!!!」
ミサイルは発射された。
「ドシュウウウウウ!!!!」
激しい音を立てながら弾頭は赤い月に直撃した。
「ズガアアアァァン!!!!!!」
赤い月が激しく揺れる。
月……天体に見えるからして破壊は不可能に思われた。
だが、よくよく考えれば宇宙人の母艦に過ぎない。
未知のバリアかなにかが張られていないのは僥倖だった。
「にっ!!」
「ズガアアアァァン!!」
今度は赤い月にヒビがいった。
「さんっ!!
「バアアアァァン!!」
月のかけらがバラバラと落ちていく。
「よんっ!!」
「ドガアアアァァン!!」
容赦ない攻撃が続く。
ミサイルは百発百中だ。
おそらくこのミサイルはこんな風に連射は出来ないし、こんな使い方も出来ないはずだ。
だが、なぜだか連射が止むことはなかった。
「これが″ゆにばーす″……″万物ノ脳ヲ侵セシ者″なのか……」
樹は無意識のうちにそう呟いた。
少年は戸惑いを隠せなかったが攻撃の手を緩めることは無かった。
「ふざけるなよ!! どれだけ染井の人達が怖い思いをして、苦しんで死んでいったかを!! ジェノサイドされるのはお前らの方だッッ!!」
樹はまたスティンガーを拾い上げて連射し始めた。
「ごっ!!」
「ボガアアアァァン!!!!」
「ろくっ!!」
「ドドガアアアァァン!!!!」
「ななっ!!」
「バリババアアァァン!!!!
もはや樹には微塵も情け容赦というものがなかった。
ありったけミサイルを撃ちまくると、赤い月にバキッと大きなヒビが入った。
その後も樹はぷらんたぁの母艦にありとあらゆるミサイルを撃ち込みまくった。
そして少年の執拗な攻撃の結果、赤い月は再びガタガタと揺れだした。
すると異星人のまざー・しっぷは大爆発を起こして綺麗なまでに雲散霧消した。
おそらく装甲の弱りきった母艦の動力源に、ミサイルが直撃したのだろう。
あまりの大爆発で染井全体は熱を帯び、昼のように明るくなった。
母艦のマスデストラクション、エイリアンのジェノサイド……。
これなら間違いなくぷらんたぁは絶滅し、研究施設も破壊できただろう。
(プツン!!)
樹は膝をついてつんのめった。
赤い月が崩壊したことによって、本来の明るい陽光がさしてきた。
ようやく昼間が戻ってきたのである。
これを見て″終わり″感じ、樹はオウガーになった家族、友人や知り合いのことを思い出した。
「うう……みんな……みんなやったぞ。みんな……みんな……うっ、うっ……」
少年は制服の袖で何度もゴシゴシと涙を拭った。
残った喰人鬼が問題になりそうだったが、バケモノは思ったより異星人に依存していた。
母艦が無くなったことにより、赤い涙と″しーど″のバランスが崩れた。
それによって、オウガーは脳のバランスを保てなくなり、全員が頭から溶けだした。
そして赤いゲル状の素と肉塊を残すだけになってしまった。
人の脳に巣食っていたオウガーの素だけが残ったのである。
だが、それ自体は何か出来るわけもなく、ぐちゃりと溶けて消滅していった。
こんな連中に命を付け狙われていたのだから悲しくもなる。
こうして染井市の悪夢は終結した。
一説によると全市民の八割五分が行方不明になったとされる。
当初はワイドショーなどで染井神隠しなど頻繁に取り上げられた。
しかし箝口令が敷かれ、いつしか誰も話題に出さなくなっていった。
これはぷらんたぁに関する研究機関の手によるところも大きい。
彼等は今回の事件を極秘裏に分析し、異星人とオウガーに関する研究を進めているのだ。
しかし、研究員からしてもこのエイリアンは異質であり、にわかには信じがたい存在だった。
恐ろしい怪力、優れた科学技術、残忍性……。
それらを一般人に知られるのは都合が悪いわけであるし。
今回の騒動があっても染井市に残る人は居たが、あまりにも街は寂れてしまった。
それに街に染み付いた腐肉の臭いが抜けることはなく、それが余計に移住に拍車をかけた。
今では市の一部が荒廃し、心霊スポットと化してしまっている。
特に市外の者が面白がってやってくるが、住民はそれを嫌悪している。
話の内容は夜な夜な人の肉を喰らい、血を吸うバケモノが徘徊しているらしいと。
これはあながち与太話というわけでもなく、本当に喰われた者がいるとかいないとか。
そんな中、樹は研究機関から呼び出しを受けた。
そこで彼は、この染井でのサバイバルゲーム、生存遊戯のことを包み隠さず話した。
バカにされて終わるだろうと思っていた少年だったが、思いの外、真面目に話を聞いてもらえた。
1人で抱え込むにはあまりにも重い出来事だっただけに、気持ちが楽になったというのはある。
樹は聞き取りの後にふと思い出した。枝垂高校はどうなっているのかと。
てくてくと母校に歩いくとなんだか校舎が懐かしく思えた。
赤い月のせいでよくわからなかったが、そう時間は経っていないはずなのだが。
校舎を見ておもわず涙が浮かんだ。
校内に入ると無数の肉塊が転がっていた。
誰も掃除する者はいないのだろう。腐臭がより強かった。
ゴーストタウンの学校に来るものは居ない。致し方のないことだ。
苛烈極めたサバイバルゲームで、すっかり忘れていたが、春己はどうなったのだろうか。
きっと肉塊へと変わっているだろう。
そう思って樹は屋上へ行った。
そこには人間の形をした春己が倒れ込んでいた。
思わず樹は彼のもとに駆け寄った。
次の瞬間、いきなり春己が起き上がってきて、樹の首をギリギリと締め出した。
そして春己はドラムロールのように首を回転させ始めた。
どろどろと両目と口から粘着質な血を垂らしている。
「なぁ、いっきぃ、いっきぃ、ひでえよなぁ?自分だけ生き残ってよぉ。俺も生存遊戯、参加したかったんだぜぇ……。女の子に脳侵してぇじゃん?」
オウガーになる前と思考回路が同じなのが不気味さをあおる。
ギリギリと首を絞める力はどんどん強くなっていく。
迂闊だった。
ここまで生き延びたのにこんなところで死ぬのかと樹は悔いた。




