でゅえる
遊鬼は格闘の構えをとった。
相手は武器の類は持ち合わせていない。
「おいおい。忘れちゃいないだろうなぁ? あたいらにとって人間を殺すのは造作もないことなんだぞ? オウガー以上の怪力があるからな。うっかり近づくと肢体が吹っ飛ぶぞ?」
だが、樹はひるまずに異星人に斬りかかった。
「うおあああぁぁぁぁ!!!!」
(キイィィィィン!!)
悦は指と指の間で受け止められてしまった。
そのまま少女は刀を折ろうと左右に力を込めたが、折れはしなかった。
「我ながら質のいい刀だ。はぁッッッ!!」
樹はローリングして受け身を取った。
同時に全力で地を蹴り、突きの姿勢で突進した。
すると少女は高く高くジャンプしてそれをひらりとかわした。
(プツン!!)
突然、脳侵が起こった。
菜穂子の時と同じで
、樹自身へのものだ。
なにかしら切迫危機が来る。
次の瞬間、背後から飛んできた下駄が樹の頭に直撃した。
そのキックは少年の頭をサッカーボールのようにぶっ飛ばした。
(プツン!!)
切迫危機を読んだ樹は素早く振り向くと刀で下駄をガードした。
「ギリギリギリギリ……」
何で出来ているのかわからないが、重く、硬い下駄だ。
それを見た異星人は満足げだ。
「そうか。自分への脳侵も制御するか!!ますます面白い!!」
(プツン!!)
今度は遊鬼が宙から飛び蹴りを放ってきた。
硬い下駄を軸にコマのようにして猛回転しながら突っ込んでくる。
刀で防ごうと思ったが、強固な下駄にかなうはずもなく、両手が巻き込まれてグチャグチャにちぎれてしまった。
そのまま上半身も引き込まれて挽肉になってしまった。
(プツン!!)
このままでは回転に巻き込まれてしまう。
少年も対抗しようとひねりを入れて猛回転を起こした。
そのままジャンプしながら遊鬼に突っ込む。
「ギャリギャリギャリ……ギィん!!!!」
なんとか下駄の威力を相殺して樹は着地した。
しかし、切迫危機は死亡の巻き戻りのみなので、樹は攻めあぐねていた。
それでも仕掛けなければ勝機はない。
少年は少女めがけて思い切り振りかぶった。
だが、真剣白刃取りで止められてしまった。
小娘はニヤニヤ笑っている。
「バカにしてッ!!」
ギリギリと刀に力を込める。
(プツン!!)
樹は悦を振り下ろした。
手応えがあったような気がしたが、完全な空振りだった。
いつの間にか背後に遊鬼が回り込んでいた。
「ズビシュッ!!」
そして樹は後ろから心臓を貫かれてしまった。
「ゴボッ……」
(プツン!!)
少年は敵の貫きを妨害するため、振り向きざまに切り上げた。
「おおっとぉ!!」
腕を切り落とされるすんでのところで小娘は斬撃を避けた。
攻撃は当たらないが、当てることも出来ない。
このままのペースで戦い続けるとおそらく精神汚染が進む。
そうなったら戦いどころではない。
精神がイカれた時点で敗北は確定する。
樹には時間か残されていなかった。
(プツン!!)
少年の目前に蹴りつけられた下駄が飛んできた。
それを悦で必死に受けるが、ジリジリとビルのフチへと追いやられていく。
「うっ、ぐぐっ、うっ、ウソだろ!?」
下駄に弾かれた樹は高層ビルの屋上から転落してしまった。
「うわああああぁぁぁぁぁーーーー!!」
プチッ。
屋上から覗くとミニトマトが潰れたように見えた。
(プツン!!)
樹は屋上から弾き飛ばされた。
しかし、切迫危機のおかげで高速で反応し、壁面に刀を突き刺して踏みとどまった。
そして刀を軸にぐるりと回ってヘリポートに戻ってきた。
遊鬼は恍惚の表情を浮かべている。
「あぁ、たまらない。どんどん良くなって洗練されていく。美味いぞ……美味いぞいっき!! もっと美味くなってくれ!!」
相手の攻撃は苛烈を極めている。
いつまでも自分への脳侵で耐えきれるかわからない。
なにより防戦一方なわけであるし。
そんな樹はある策を閃いた。だが、それは諸刃の刃だった。。
それでも、もうもったいぶっている段階ではなかった。
(プツン!!)
視界が遊鬼のそれに移った。無理やり相手に脳侵したのである。
タンタンタンタン!!
樹が接近してくるのが見える。
逆である。こちらが駆け寄っているのである。
どうやって、どの角度でキックするしてくるか。
その動作が手に取るようにわかった。
(プツン!!)
うまい具合に下駄を刀でいなす。
(プツン!!)
またもや一瞬だけ遊鬼を脳侵して相手の先を読んだ。
樹の脇腹を蹴りつける。
(プツン!!)
少年はそれを見逃さなかった。
すかさず悦で脚部をバッサリと斬りはらったのだ。
敵の肢体が吹っ飛んでいった。
(プツン!!)
また脳侵する。樹の身体を真っ赤な爪で切り裂いた。
(プツン!!)
遊鬼を先読みして少年は爪を弾き飛ばした。
そして彼は明鏡止水の境地に達した。
(プツン!!)
勢いをつけた樹はエイリアンを滅多斬りにした。
(プツン!!)
深い傷を負った異星人は大量に出血した。
すると急に遊鬼は真っ黒に変色し始めた。
そしてメキメキと変形していく。
肋骨のようにせり出す歯に、グリグリした1つ目、植物の根ような脚に頭。
そして中央のキラキラ赤く光る核。
これはまぶたのような機構に護られている。
遊鬼はそんな悍ましい怪物へと化した。
「こ、これがぷらんたぁの正体か。完全にエイリアンだ。反則だろ……」
樹は力を使い果たしており、もう脳侵は使えなかった。
手元に悦はあるが、力が入らない。
「ふぉ、ふぉふぉおお〜いつきくんいつきくんいつきくん。た〜べちゃお♪」
敵には全くダメージが見て取れない。
肋骨がせり出して少年に迫った。
ザクザクと身体のあちこちを貫いていく。
「ぐっ、まずい、意識が遠のく……」
樹は歯を食いしばって踏みとどまり、立ち上がった。
これは残りの力で刺し違えるしかないと少年は覚悟した。
ぷらんたぁの姿を確認するにキラキラとした赤い核が目立つ。
それを覆う瞼はほとんど開かず、姿を現すにしても人間の瞬きより短い。
ますます弱点に違いないと思えた。
しかし、それを突く手はもはや思いつかなかった。
体力の限界で樹はよろけて尻餅をついた。
「パンッ!!」
何かの破裂音がした。
尻のポケットをまさぐると学食のミニメロンパンが入っていた。
この袋が破けた音だった。
「あ……う……う、メロンパンだぁ……」
食に貪欲なやつだ。急に香った好物に気をとられてもおかしくはない。
反射的に樹はミニメロンパンを投げつけた。
これによってまぶたは開ききって核が露出した。
「くたばれえええぇぇぇッッッ!!!!」
そして樹は悦で異星人の弱点を突いた。
この一撃はクリティカル・ヒットした。




