さいこきねしす
非常電源で動いたエレベーターに乗ったジンだったが、切迫危機が彼を襲っていた。
(プツン!!)
ジンはガタガタという音を聞いて頭上を見上げた。
すると釘バットのような鉄塊が降ってきたのである。
公園で遭った皮膚のただれたハンマーを持ったバケモノだった。
エレベーター内は樹のミンチをぶちまけたようになり、血が箱に並々(なみなみ)と注がれていった。
(プツン!!)
少年は最寄りの階で止めようとガチャガチャとフロアのボタンを押しまくった。
すると攻撃が来る前にエレベーターが止まった。
あと少しで扉が開くはずである。
だが、全くその気配はない。
こじ開けようとしてもびくともしないのである。
その時、樹の目に挟まったままの腕4本が目に止まった。
さきほどもげたオウガーの腕である。
もしやと思い、それを叩いたり、蹴ったりして刺激してみた。
すると、腕はもがいて無理やり扉をこじ開けた。
チャンスとばかりに樹はエレベーターを飛び出した。
すれ違いでハンマーのオウガーは昇降機をぶち破って落下していった。
「おおおおお!! ぐがおおおおお!!!!!!」
バケモノは鈍い叫び声を上げていった。
「ガシャーーーーーンッッッ!!」
3階くらいの高さから落ちていったのである。
少年が転げ出た先には最低限の避難階段があった。
染井市立病院は3F建てだ。
あと一階を登りきれば屋上のヘリポートに出られるはずだ。
あらゆる危機を想定している施設だ。
衛星通信を備えた機器もあるだろう。
激しい運動によって爆発しそうな心臓を押さえて、樹は非常階段を駆け上がった。
脳侵しているものの、身体能力は老人のそれだ。
このショックで死んでしまうのではないか。そう思いながらも樹は這い上がった。
そして、少年は屋上へとたどり着いた。
空には真っ赤な月が上がっている。
足元を確認すると確かにヘリポートのHの文字が描かれている。
あたりを見回すと通信ボックスが見えた。
電灯が消えたり着いたりしているが、なんとか非常電源で生きているように見えた。
樹はヨロヨロしながらボックスに倒れ込むと無線を手に取った。
「ハァッ……ハァッ……。こちら染井市立病院。救急につき、ドクターヘリ、頼みます……」
少しすると応答があった。無線の(むせん)相手はひどく驚いた様子だった。
「染井!? 確かに染井市立病院ですか!?」
市内からのほ一切の通信が途絶えていたのに、突然として連絡があったらそんな反応にもなる。
「りょ、了解しました。到着までしばらくかかりますが、待っていてください!!」
ともかく、無事に救助要請が伝わってジンはへたり込んでしまった。
冗談ではなく、何年か寿命が縮んだ。
思わず乾いた笑いが漏れた。それはジンでもあり、樹でもあった。
だが、事はそう簡単にはいかなかった。
「ドガシャアアアア!!!!」
3階から落ちたはずのハンマーのオウガーはエレベーターを突き破って高く跳躍した。
そして、ヘリポートに着地した。
あれだけ高所から落ちたにも関わらず、ダメージがみてとれない。
今度こそ逃げる場所はない。
「学ランの仏様……学ランの仏様……」
するとジンは再び祈り始めた。
そしてジンは語気を強めた。
「ここまで助けてくだすった仏様を死なすわけにはいかん!!わしはどうでもええ!!仏様はなんとしてでも!!」
意識は混濁しているようだが、ジンの強い思いがビリビリと伝わってくる。
「俺だけ諦めるのも腰抜けだな。いいだろう。あがいてやろうじゃないか!!」
今まで一番、オカルトチックな能力を発揮できたのは樹ジンとの組み合わせだ。
やりようによっては想像以上の現象が起こるかもしれない。
超能力というやつである。
樹とジンは無意識に両手を突き出していた。
するとハンマーのバケモノはジリジリと後ろに後退し始めた。
自分で、下がっていると言うよりはこちらがプレッシャーを与えている。
「これは……サイコキネシスだ!!」
2人が更に力を込めると目に見えてオウガーは押し出されていく。
無抵抗なところを見ると未知の力をはねのけることが出来ないらしい。
手応えを感じた樹だったが、このまま病院の縁から落とした程度ではハンマーを巻けない。
3階くらいから落ちて無傷だったのだ。屋上でも大差無いだろう。
なにか手はないかとトゲトゲのハンマーを中心にして屋上をぐるりと回った。
そして樹は閃いた。
「コイツ、確か公園のお掘りから逃げ出してたな。もしかして、水が苦手なのか……?」
すぐに少年は強烈な圧をかけはじめた。
ジリジリと押していくとその先の1Fには大きな貯水槽が設置してあった。
「グガォッ!?」
赤茶けてただれたバケモノは柵を破って落下していった。
そして頭から貯水槽に突っ込んだ。
「ぐがああああごぼ、ごぼごぼ!!」
うまい具合に頭部が水に浸されているが、このままだと暴れられて貯水槽を破壊されてしまう。
樹とジンは2人揃って集中した。
より強力なサイコキネシスがオウガーを襲う。
クリーチャーだけあって、水中でも10分以上は耐えるかと思えた。
しかし、本当に水が苦手だったのか、3分ほどで溺れてしまった。
ただ、活動停止しているだけでそのうちまた動き出すだろうが。
状況が状況だけに、やってきたのはドクターヘリではなく、自衛隊らしきヘリだった。
戦闘も想定してのことだろう。
ぐったりとして意識を失いかけていたジンは、やってきた隊員に手早く回収された。
そしてヘリが離陸した時、ハンマーのオウガーが目を覚ましたのである。
すさまじいジャンプ力と鈍器でヘリを叩き落としにきた。
絶体絶命。
ジンは最後の力を振り絞ってヘリに搭載された散水装置を起動させた。
最近、流行っている山火事の鎮火を想定しての装備だ。
大量の水は飛びかかってきた赤茶けて爛れたオウガーを直撃した。
たまらないとばかりにバケモノは全身をよじりながら落下していった。
そのスキを突いて自衛隊のヘリは空高く上昇した。
さすがにこの高度まで上がってくれば、いくらあのオウガーでも届くことはない。
「こちらS-81。要請のあった老人を無事確保。なお、市街地には未知の危険なクリーチャーが徘徊している模様。不用意な探索は危険と判断。地上部隊の派遣は見送られたし」
その時、後部の担架から警報音が鳴り始めた。
「ピッ、ピッ、ピッ、ピッ!!」
若い樹にはともかく、年老いたジンにサイコキネシスの負荷は高すぎたのだ。
「救助者の脈拍低下!! 心機能も落ちています!!」
(おい、じいさん!! 冗談はやめろよ!! せっかく、生き延びたんじゃないか!! おい!!)
「ピーッ!!ピーッ!!ピーッ!!ピーッ!!」
「心臓マッサージ、急げ!!」
「ピーッ!!ピーッ!!ピーッ!!ピーッ!!」
「電気ショックだ!!」
「ドスン!! ドスン!! ドスン!!」
「ピーッ!!ピーッ!!ピーッ!!ピーッ!!」
「ピーッ!!ピーッ!!ピーッ!!ピーッ!!」




