↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/36

りーぷ

(プツン!!)


誰(だれ)かが切迫危機(せっぱくきき)に陥(おちい)った。脚(あし)に激痛(げきつう)が走(はし)る。


すぐにあかねに脳侵(のうしん)しているのがわかった。


目前(もくぜん)には破壊(はかい)されたアーケードが見(み)える。


かなり長距離(ちょうきょり)を走(はし)っているはずなのに、いまだ鈍痛(どんつう)で済(す)んでいるというのが驚異的(きょういてき)だ。


ただ、本気(ほんき)で脚(あし)だけで脱出(だっしゅつ)するのならあと20km(にじゅっきろ)は走破(そうは)せねばならない。


無茶(むちゃ)と思(おも)いつつも頼(たよ)れるのは自分(じぶん)の身体(からだ)だけだ。


アーケード街(がい)にたどり着(つ)くとそこは滅茶苦茶(めちゃくちゃ)に破壊(はかい)されていた。


道路(どうろ)は激(はげ)しく陥没(かんぼつ)しており、南口(みなみぐち)から北口(きたぐち)に抜(ぬ)けるのは不可能(ふかのう)だった。


「これは……菜穂子(なほこ)とやりあった後(あと)か。となると、アサカさんは近(ちか)いかも知(し)れない!! うまく合流(ごうりゅう)できれば……!! でもこの穴(あな)じゃなぁ……」


その時(とき)、背後(はいご)から嫌(いや)な音(おと)が立(た)ち、ガソリンのような臭(にお)いが充満(じゅうまん)した。


「ドルン!! ドルンドルン!!」


無数(むすう)のオウガーがタイヤのように連(つら)なったバケモノが現(あらわ)れたのだ。


表面(ひょうめん)には巨大(きょだい)なスパイクがびっしりとついている。


サイズは軽(かる)く自分(じぶん)の2倍(にばい)以上(いじょう)。


こんなものに轢(に)かれればミンチなって即死(そくし)だ。


かなり速(はや)そうでもある。まともにスピード勝負(しょうぶ)をしたら勝(か)てなさそうだった。


タイヤのオウガーはジリジリとあかねににじり寄(よ)ってくる。


「いやぁっ……来(こ)ないでぇ!!」


思(おも)わず少女(しょうじょ)の声(こえ)が上(あ)がった。


後(うし)ろを見(み)るとそこにはポッカリと開(あ)いた陥没(かんぼつ)が待(ま)ち受(う)けていた。


「うそ……ウソでしょ!?」


あかねは足場(あしば)を踏(ふ)み外(はず)して底知(そこし)れぬ高(たか)さから落下(らっか)した。


「きゃああああああッッッ!!」


高所(こうしょ)から落(お)ちた先(さき)には折(おれ)れたパイプがキラリと突(つ)っ立(た)っていた。


「ザクッ……」


鉄(てつ)の棒(ぼう)はあかねの腹部(ふくぶ)を貫(つらぬ)いた。


「ううううううつつつつッッッ!!」


激痛(げきつう)に身悶(みもだえ)えする。


必至(ひっし)に抜(ぬ)こうとするが身体深(からだふか)く突(つ)き刺(さ)さっていて、抜(ぬ)けることがない。


真(ま)っ赤(か)なジャージの腹部(ふくぶ)はドス黒(くろ)く染(そ)まった。


「うう、うげぇっ、げぇっ……痛(いた)いよぉ……怖(こわ)いよぉ……」


そのままあかねは拷問(ごうもん)のように長(なが)い間(あいだ)、苦痛(くつう)を味(あじ)わい続(つづ)けた。


「うう、ひっく……ひっぐ………。ごぼっ」


やがて彼女(かのじょ)は大量(たいりょう)の血(ち)を吐(は)くと絶命(ぜつめい)した。


(プツン!!)


樹(いつき)は切迫危機(くりてぃかる)を確(たし)かに確認(かくにん)した。


前方(ぜんぽう)からタイヤの形(かたち)をした巨大(きょだい)なバケモノがやってくる。


樹(いつき)は振(ふ)り向(む)くと思(おも)いっきり助走(じょそう)をつけた。


陥没(かんぼつ)した穴(あな)は4m(よんメートル)はある。絶対(ぜったい)に樹(いつき)には越(こ)えられない距離(きょり)だ。


だが、少年(しょうねん)は陸上部(りくじょうぶ)の少女(しょうじょ)を信(しん)じ、跳(と)んだ。


「うおおおおおぉぉぉぉ!!!!」


あかねは鮮(あざ)やかに跳(と)んだ。そして、見事(みごと)に穴(あな)を飛(と)び越(こ)え、着地(ちゃくち)すると転(ころ)がった。


「や、やった!?」


「ドルン……ドルンドルン……」


穴(あな)の向(む)かい側(がわ)のオウガーは手(て)を出(だ)せず、諦(あきらめて)めて去(さ)っていった。


「はぁ、はぁ。これで北口(きたぐち)から抜(ぬ)けられる。アサカさんは″足(あし)″を探(さが)すって言ってたな。もしかすると車(くるま)に乗(の)せてもらえるかも知(し)れない!!」


(プツン!!)


あかねの脳侵(はっく)が続(つづ)く。まだ彼女(かのじょ)を危機(きき)が襲(おそ)う。


汚染(おせん)からか、樹(いつき)の視界(しかい)は赤白赤白(あかしろあかしろ)と交互(こうご)にチカチカと点滅(てんめつ)した。


あかねは身体(からだ)にムチをうってペースを上(あ)げて走(はし)り出(だ)した。


そしてなんとかバイパスに乗(の)ることに成功した。


少年(しょうねん)が路肩(ろかた)を走(はし)っていると不思議(ふしぎ)と車(くるま)は突(つ)っ込(こ)んでこなかった。


ほとんどのオウガー達(たち)は交通(こうつう)マナーを守(まも)っているらしい。


バイパスに乗(の)ってしばらくして、前方(ぜんぽう)で爆発(ばくはつ)が起(お)こったのが見えた。


「あれは……アサカさんとベルか!! 近(ちか)いぞ!!」


更(さら)に樹(いつき)は走(はし)るペースを上(あ)げた。


だが、気(き)になる点(てん)があった。脳侵(はっく)が切(き)れないのである。


またもや切迫危機(くりてぃかる)が来(く)ると樹(いつき)は身構(まがま)えた。


すると、ずぶ濡(ぬ)れの何(なに)かが行方(ゆくえ)を塞(ふさ)いだ。


警察官(けいさつかん)のような服装(ふくそう)をしている。


「アサカいねぇじゃねぇかよぉ。ジュー、じゅっじをためっしぶち、させ……てくだしあ」


真(ま)っ青(さお)な顔(かお)をした警官(けいかん)はニタリニタリと笑(わら)った。


そして警官(けいかん)は拳銃(けんじゅう)の引(ひ)き金(がね)を引(ひ)いた。


「パンパンパンパンパン!!」


乾(かわ)いた銃声(じゅうせい)がバイパスに響(ひび)いた。


装填(そうてん)された4発(よんはつ)は全弾命中(ぜんだんめいちゅう)した。


頭(あたま)、胸(むね)、頭(あたま)、胸(むね)……情(なさ)け容赦(ようしゃ)なく。


「う……うそよね?」


あかねは前(まえ)のめりに倒(たお)れ込(こ)んだ。


(プツン!!)


なんとかしてあかねを生(い)かさねばならない。


だが、拳銃(けんじゅう)を構(かま)えられた状態(じょうたい)だ。しかも恐(おそ)ろしく精度(せいど)が高(たか)い。


人外(じんがい)であるので当然(とうぜん)と言(い)えば当然(とうぜん)だ。


「どうする!! どうする!? ええい!! ままよ!!」


樹(いつき)は親指(おやゆび)を高(たか)く突(つ)き上(あ)げた。


ヒッチハイクのサインである。


すると四方八方(しほうはっぽう)から車(くるま)が突(つ)っ込(こ)んできた。


ヒッチハイクに反応(はんのう)してくれるのはありがたいが、対向車線(たいこうしゃせん)からも突(つ)っ込(こ)んでくる。


「!?」


オウガーに一瞬(いっしゅん)のスキか出来(でき)た。


あかねは指(ゆび)を立(た)てたまま全力疾走(ぜんりょくしっそう)した。


次(つぎ)から次(つぎ)へと車(くるま)がやってきてガシャンガシャンと衝突(しょうとつ)していく。


「あ、まちなさい。おまわりさんはね……ぐみゅっ!! ぶちっ!!」


警官(けいかん)のオウガーはヒッチハイクに巻(ま)き込(こ)まれてぺしゃんこになってしまった。


脚(あし)は激痛(げきつう)、足(あし)の裏(うら)はマメがつぶれて靴下(くつした)は真(ま)っ赤(か)。


切迫危機(くりてぃかる)が去(さ)って脳侵(はっく)が切れそうになった。


しかし、もう少(すこ)し粘(ねば)ればアサカ達(たち)と合流(ごうりゅう)できるかもしれない。


樹(いつき)は脳侵(はっく)の時間(じかん)を引(に)き伸(の)ばし、拡張(かくちょう)した。


激(はげ)しい吐(は)き気(け)が樹(いつき)を襲(おそ)った。


長時間(ちょうじかん)の脳侵(はっく)は″汚染(おせん)″を加速(かそく)させるという遊鬼(ゆうき)の話(はなし)が脳裏(のうり)をよぎった。


だが、今(いま)はそれどころではない。


少年(しょうねん)は爆発(ばくはつ)を起(お)こすトラックめがけて走(はし)った。


一方(いっぽう)のアサカは無人(むじん)だらけになった車(くるま)を物色(ぶっしょく)しはじめた。


「お巡(まわ)りさんが車(くるま)ドロねぇ。笑(わら)えねぇな」


アサカはスピードが出(で)そうなタイプの車(くるま)を見繕(みつくろ)った。


「サンルーフに……後部座席(こうぶざせき)には色々(いろいろ)と積(つ)んであるな。まぁ脱出(だっしゅつ)には問題(もんだい)ないだろ。こいつで行(い)くぞ!!」


アサカとベルは車(くるま)に乗(の)った。


そしてささったままのカギを回(まわ)し、エンジンをふかした。


「ドルルルルル……」


問題(もんだい)なく走行(そうこう)できそうだった。


(プツン!!)


その直後(ちょくご)、あかねの切迫危機(くりてぃかる)が見えた。


「お〜い!! お〜い!! 私(わたし)も、私(わたし)も乗(の)せてくださ〜〜い!! え……ウソでしょ……いっちゃった……」


あかねは膝(ひざ)をついて崩(くず)れ落(お)ちた。


(プツン!!)


これが彼女(かのじょ)の命運(めいうん)を左右(さゆう)する。今度(こんど)、脳侵(はっく)したのはベルだ。


樹(いつき)は思(おも)い切(き)りアサカの腕(うで)を噛(か)んで注意(ちゅうい)を促(うなが)した。


「痛(いて)ぇな!! 本気(ほんき)で噛(か)むんじゃ……ん?」


バックミラーを見(み)るとズタボロの少女(しょうじょ)が走(はし)ってくる。


アサカはオウガーでないかと身構(みがま)えた。


だが、近(ちか)づくに連(つ)れ、彼女(かのじょ)が生身(なまみ)の人間(にんげん)であるのがわかった。


「おーい!! お〜い!!!!」


アサカは何度(なんど)も目(め)をこすった。


「生存者(せいぞんしゃ)!? しかもあんな女(おんな)の子(こ)が!?」


あかねは車(くるま)に追(お)いつくと無言(むごん)のまま後部座席(こうぶざせき)に倒れ込んだ。


疲労(ひろう)と安堵(あんど)のあまり、気(き)を失っただけのようだった。


少女(しょうじょ)の無事(ぶじ)を確認(かくにん)したアサカは車(くるま)のエンジンを掛(か)け直(なお)し、発車(はっしゃ)させた。


そのまま彼(かれ)ら彼女(かのじょ)らは問題(もんだい)なく染井(そめい)ハイウェイに乗(の)ることに成功(せいこう)した。


「ふぅ……。やったか。どうなることかと思(おも)ったが……」


アサカはなんとなくハイウェイラジオをかけた。


しかし、あまりにも狂(くる)った内容(ないよう)で聞(き)くに耐(た)えなかった。


だが気(き)になる話題(わだい)が耳(みみ)に入った。


「は〜い。今日(きょう)はイカしたタイヤ野郎(ヤロー)の紹介(しょうかい)だよぉ!! 簡単(かんたん)にそめ、そめそめから出(で)られると思(おも)うにゃよォ!!」


後方(こうほう)からバイクをふかすような爆音(ばくおん)が響(ひび)いた。


「ドルン!! ドゥルルルオン!!!!」


警官(けいかん)は異常(いじょう)を感(かん)じ取(と)ってバックミラーを覗(のぞ)き込(こ)んだ。


「バウ!! バウバウ!!」


ベルも警戒(けいかい)して吠(ほ)えた。


「チッ。バケモノが!! 飛(と)ばすぞ!! つかまれ!!」


そしてあまりの騒(さわ)ぎに満身創痍(まんしんそうい)のあかねも目(め)を覚(さ)ますのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。