ぷろみす
(プツン!!)
樹はまた誰かと繋がった。
あたりを見回すとアサカとミサキが居る。
おそらくこれはシンヤへの脳侵だ。
場所はアーケード街のど真ん中だ。まだ崩落していない。
しかし、切迫危機が迫っている。
この調子ではアサカとミサキの2人を救わねばならない。
「メリッ!! メリッメリッメリッ!!!!」
頭上から金属を曲げるような嫌な音がした。
菜穂子が鉄筋を捻じ曲げている音だった。
3人が上を見上げると、無数の鉄塊が落下してきた。
「避けて!!」
シンヤの叫びで3人は各々(おのおの)の方向へ飛び込んで回直撃から回避した。
その結果、ミサキをかばったシンヤと、アサカが離れ離れになってしまった。
3人の間にはぽっかりと陥没した穴が開いており、合流できそうになかった。
シンヤ達が逃げた南側は未開拓地が広がっている。
故に脱出経路の確保が絶望的だった。
だが、青年には心当たりがあるようだった。
「染井の地下には本土最終決戦を想定した地下壕があるんです。そこを抜ければ海岸線まで脱出できるはず。僕はミサキちゃんを連れて、そっちを目指します!!」
勇ましくそう答えたシンヤだったが、脚はガクガクと震えていた。
オウガーに食い殺されるか、学ランの男に祟り殺されるか。
どっちが先かと怯えていたからだ。
もっとも呪い殺されるというのは勝手な勘違いに過ぎなかったが。
樹はやりようによってはこの誤解を解くことも出来たのだが、追い詰められた人間ほど強いものはない。
シンヤには気の毒だが、命を懸けて切り抜けてもらうことにした。
老人のジンが″学ランの仏様″というのと真逆な存在である。
それを聞いたアサカはシンヤのプランに賭けてみることにした。
「わかった。くれぐれも無理するんじゃないぞ。生きて染井の外で会おう!! 俺も必ず合流するからな!!」
場所もわからないのに本当に再会できるのかという疑問はあったが、思わず口をついて出た言葉だった。
シンヤと正反対に勇ましく振る舞ったアサカだったが、シンヤとミサキと離れたことによって完全に無防備になってしまった。
このままでは切迫危機は起こらず、死因が特定できない。
それに巻き戻しも出来ない。
まさに絶命必至である。
だが、彼の危機に誰かが反応した。
(プツン!!)
突如、視界の色彩が鈍くなった。嗅覚や聴覚が研ぎ澄まされる。
そして後ろ足もくっついているようだ。
(やったぜ!!ベルだ!!)
完全にアサカとは距離があるが、嗅覚のおかげで彼の場所が手に取るようにわかった。
(そう遠くはない!! 間に合えッ!!)
脚が風のように速い。
ベルは急いでアサカが居るアーケード街に出た。
完全に崩壊しきってしまっている。
そしてアサカの姿を確認できた。
彼は北口に歩みを進めていたが、不運にも陥没が広がり、落下していってしまった。
「ーーーーーーーーッッッ!!!!」
あまりにも突然のことにアサカは声さえ上げられなかった。
「ばちゅうッッッ!!!!」
果物を床に叩きつけたような嫌な音がした。
(プツン!!)
何としてもアサカを救わねばならない。
樹は全力で走った。人間(人間)と比べるのも的はずれだが、あかねとは比べ物にならない。
しかもまったくバテることがない。鍛えられた警察犬の成せる業だった。
嗅覚を頼りに走る。走る。その速さには爽快感を覚えた。
滑り込むように樹はアーケード街に出た。
商店街はネジ曲がった鉄骨だらけだ。
(アサカさんは……。いた!!)
次の瞬間、彼の足元は崩れ落ちた。
奈落のように深い割れ目が開いた時、アサカの腕を樹が噛んだ。
「おわっ……!! あ、危ないところだった……。おお、ベル!! ベルじゃないか!! 来てくれたんだな!! 助かったぞ!!」
バディとの無事の再会で1人と1匹は喜び合った。
警官は縁に腕かけると懸垂で這い上がった。
「はは……。脱出の足を引っ張っちまったな。お前一匹なら逃げ切れたろうに」
「くぅん、くぅん……」
樹はアサカを慰めた。
「さ、こんなところに長居は無用だ。さぁ、ベル。行こう。足を調達してさっさとおさらばだ」
アサカはアーケードの北口を見上げた。
「やはり、ここからなら染井バイパスを抜けて、インターから染井ハイウェイに乗って市外に出るのがいいだろうな。もっとも、動く車が調達できればの話だが……」
樹は同意して鳴いた。
「ワフッ!! ワフッ!!」
アサカはベルを撫でると歩いて目的地へ向った。
染井バイパスは混雑しがちな都心の渋滞、混雑を減らすために作られた道路だ。
YAEビルや高層マンションを周るように走っている。
更にその道は高速道路の染井ハイウェイに繋がっている。
バイパスから距離を数えると、ここからおよそ20kmで市外へ脱出できる。
流石にいくら足腰を鍛えているアサカにも無理だった。
「脚で行くのは絶望的だ。やはりここは車を調達して……」
その絶望と闘っている少女が居るともしらず。
そして、なんとかアサカはバイパスにたどり着いた。
多くの車が規則正しく走っている。
オウガーは意外と交通マナーを守るようだ。
そのせいか、バイパスで停車している車は見かけることが出来なかった。
「まいったな。走っている車を拝借するわけにもいかんんしな……」
(プツン!!)
これはアサカの切迫危機だ。ベルに脳侵が移る。
「なんとかして車を停められないか? ヒッチハイク? いや、それはないな」
すると背を向けたアサカに後ろから大型トラックが突っ込んできたのである。
道路端に避難しているにもかかわらずだ。
アサカが振り向いたときにはもう遅い。
運転手は居眠りしているようだった。こんな時に限っていやに人間臭いのだ。
アサカは大型トラックのフロントに張り付かされたまま、トップスピードで橋架に突っ込んだ。
「ぶちゃあ!!!!」
トマトケチャップの容器を潰したようにネトネトとした血飛沫があがった。
トラックがバックすると無惨にも柱には朱肉のような跡が残った。
(プツン!!)
これではベルがタックルした程度では回避できそうもない。
アサカを衝突から守るにはどうするか。
今の樹は犬であるからして車で当たるわけには行かない。
そんな時、またもや樹は悪ガキのように閃いた。
彼は道路脇の土手を駆け上がった。
途中で、できるだけ大きい石をくわえる。
そして橋架の上に登りきると、走ってくるトラックのフロントガラスめがけて石を落とした。
「ガシャッ!!」
視界を遮られた運転手オウガーはハンドルを切りそこねて脇道にそれた。
これによってアサカへの車両の直撃は回避された。
そして、大型トラックは道路端からコケると大爆発した。
アサカは唖然としていたが、気を取られている場合ではないとベルを呼んだ。
この大爆発によって、ドライブをしていたオウガー達は慄き、各々(おのおのの)の車から逃げ出した。
その結果、数台の車が乗り捨てられることとなった。
「″僥倖″……だな」
(プツン!!)
こうしてアサカとベルの切迫危機は去ったようだった。




