↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/36

ぷれい

樹(いつき)があてもなく歩(ある)き出(だ)そうとすると、向(む)こうから路線(ろせん)バスがやってきた。


バスは樹(いつき)の前(まえ)に停車(ていしゃ)した。


もしやと思(おも)い、息(いき)を殺(ころ)して運転席(うんてんせき)に声をかけた。


「こっ、このバス、どこへ行(い)きますか?」


会話(かいわ)を試(こころ)みると運転席(うんてんせき)のバケモノは答(こた)えた。


「エーッ、そめいこうえんでぇ〜す」


早(はや)くも老人(ろうじん)と合流(ごうりゅう)するチャンスだ。


樹(いつき)は意(い)を決(けっ)してオウガーだらけのバスに乗(の)り込(こ)んだ。


バスに乗(の)り込(こ)んでも意外(いがい)となんとかなった。


周(まわ)りのオウガーには気(き)づかれていないようだった。


スーツのサラリーマンらしき人(ひと)や買(か)い物袋(ものぶくろ)の主婦(しゅふ)、セーラー服(ふく)の女子高生(じょしこうせい)など普通(ふつう)のバスと何(なん)らかわらない。


見(み)た目(め)も普通(ふつう)の人間(にんげん)である。


彼(かれ)らの″巣(す)″をつっつかなければ、案外(あんがい)こういった平和(へいわ)な社会生活(しゃかいせいかつ)を送(おく)っているのかもしれない。


もしかしたら自分(じぶん)たちのほうが異端分子(いたんぶんし)なのではないかと樹(いつき)は思(おも)った。


「エェー、そめいこうえん、そめいこうえんでぇす」


バスは公園入口(こうえんいりくち)で止まった。


ソロリと降(お)りると運転手(うんてんしゅ)が声(こえ)をかけてきた。


「お客(きゃく)サァン。次(つぎ)に乗(の)る時(とき)は乗車賃(じょうしゃちん)、はらってくださぁいねェ」


その時(とき)だった。少年(しょうねん)は頭(あたま)が割(わ)れるような頭痛(ずつう)に襲(おそ)われた。


そして樹(いつき)は無防備(むぼうび)なまま、意識(いしき)を失(うしな)ってしまった。


染井公園(そめいこうえん)のバス停前(ていまえ)で気絶(きぜつ)した少年(しょうねん)だったが、バスの乗客(じょうきゃく)が救護措置(きゅうごそち)をし始(はじ)めのである。


すぐに無事(ぶじ)を確認(かくにん)すると喰人達(オウガーたち)は樹(いつき)をバスに乗(の)せた。


そしてバスはそのまま発車(はっしゃ)してしまった。


この事(こと)を彼(かれ)は知(し)らないままバスで市内(しない)を巡回(じゅんかん)し始(はじ)めてしまったのだ。


なんとまあ、ありがた迷惑(めいわく)な話(はなし)である。


(プツン!!)


そんな事(こと)を知(し)ってかしらずか。


誰(だれ)かに脳侵(はっく)したのを感(かん)じた少年(しょうねん)はすぐにあたりを警戒(けいかい)した。


「ゴグああああ!!!!」


聞(き)いたこともないような咆哮(ほうこう)が背後(はいご)から聞(き)こえた。


「ドグシャアアアッッッ!!!!」


繋人(つなんちゅ)は振(ふ)り向(む)く間(ま)もなく、元(もと)の形(かたち)を止(とど)めないほどにグチャグチャになってしまった。


(プツン!!)


樹(いつき)に意識(いしき)が戻(もど)ってきた。だが、考(かんが)えている時間(じかん)がない。


「ズドンッッ!! メリメリメリ……」


少年(しょうねん)はイスの下(した)から転(ころ)げ出(で)て強烈(きょうれつ)な一撃(いちげき)をなんとか避(さ)けた。


同時(どうじ)にハァハァと息(いき)があがる。


(この感覚(かんかく)……じいさんだな!!)


さきほど殴(なぐ)りつけてきたオウガーは今(いま)までのものと異(こと)なっていた。


3mほどの全身(ぜんしん)が焼(や)けただれたような筋肉質(きんにくしつ)のバケモノだったのだ。


鼻(はな)が曲(ま)がるような酷(ひど)い腐敗臭(ふはいしゅう)を漂(ただよ)わせている。


「ごアアア!! ゴグアアアアッッ!!!!」


それはただひたすら絶叫(ぜっきょう)していた。


片手(かたて)には巨大(きょだい)な金属製(きんぞくせい)のハンマーを持(も)っていた。


これで殴(なぐ)られたらミンチになるのも無理(むり)はない。


「ンンン!! フーーーーンッッ!!」


樹(いつき)はまた転(ころ)げてハンマーの一振(ひとふ)りをよけた。


(しめた。こいつ、動(うご)きは鈍(にぶ)いぞ!!)


しかし、老人(ろうじん)の体力(たいりょく)には限界(げんかい)があった。


数回(すうかい)避(よ)けると息(いき)が切(き)れて、回避行動(かいひこうどう)が出来(でき)なくなったのである。

 

少年(しょうねん)は腕(うで)をついてヨロリと立(た)ち上(あ)がった。


いつの間(ま)にか背後(はいご)にはお掘(ほ)りがあり、追(お)い詰(つ)められる形(かたち)となった。


だが、なぜかだハンマーのオウガーは背(せ)を向(む)けて逃(に)げ出(だ)した。


(プツン!!)


巨大(きょだい)なハンマーオウガーをやりすごしたはずが、再(ふたた)び老人(ろうじん)に切迫危機(クリティカル)がかかったのである。


脳侵(はっく)の多用(たよう)は樹(いつき)の脳(のう)に多大(ただい)なる負荷(ふか)を与(あた)える。


もっとも、発動制限(はつどうせいげん)できない以上(いじょう)、彼(かれ)にはどうすることもできないのだが。


突然(とつぜん)、背後(はいご)から紐(ひも)のようなもので首(くび)を巻(ま)かれた。


「おじぃチャアッ!!」


少女(しょうじょ)のオウガーがお掘(ほ)りのこちらに1人(ひとり)、向(む)こうに1人(ひとり)居(い)る。


「しねしねしねしねしねしねしねしね」


予想通(よそうどお)り、腸(ちょう)のバケモノたちだった。


「いっくよ〜。人間(にんげん)ロープウェイだ〜!!」


少女2人組(しょうじょふたりぐみ)は巻(ま)き付(つ)けた″紐(ひも)″を両(りょう)サイドから全力(ぜんりょく)で引(ひ)っ張(ぱ)った。


「ぐっびゅうッッ……!!」


あまりの怪力(かいりき)で老人(ろうじん)の首(くび)はねじ切(き)れてお掘(ほ)りにドポンと着水(ちゃくすい)し、沈んでいった。


「あはは!! おもしろーーーい!!」


「しねしねしねしねしねしねしねしね」


「プツン!!」


切迫危機(くりてぃかる)を見(み)た樹(いつき)は老人(ろうじん)に脳侵(はっく)した。


なんとかしてこの悪趣味(あくしゅみ)な″人間(にんげん)ロープウェイ″を回避(かいひ)せねばならない。


樹(いつき)は腸(ちょう)を首(くび)に巻(ま)かれる寸前(すんぜん)に両腕(りょうて)をグーにして首元(くびもと)に挟(はさ)んだ。


縄(なわ)などで拘束(こうそく)されたときにこうすれば隙間(すきま)ができるとネットで見たことがあった。


「いっくよ〜。人間(にんげん)ロープウェイだ〜!!」


少女(しょうじょ)たちは怪力(かいりき)で腸(ちょう)を引(ひ)っ張(ぱ)ったが、お掘(ほ)りの真(ま)ん中(なか)で緩(ゆる)んだ″紐(ひも)″は外(はず)れた。


当時(どうじ)に思(おも)い切(き)り両方(りょうほう)を引(ひ)っ張(ぱ)ると油断(ゆだん)していた少女達(しょうじょたち)はまたお掘(ほ)りに落ちた。


「やった!! これであのハンマーのバケモノからも逃げられる!!」


しかし、脳侵(はっく)は解除(かいじょ)されない。樹(いつき)の嫌(いや)な予感(よかん)は的中(てきちゅう)した。


着水(ちゃくすい)した老人(ろうじん)はもがいたが、身体(からだ)は沈(しず)む一方(いっぽう)だ。


「ごぼっ!! ごぼごぼッッ!! しまった!! じいさん、泳(およ)げなかったか……」


水中(すいちゅう)でがぶがぶと水(みず)を飲(の)み始(はじ)めた。死(し)を確信(かくしん)したときだった。


(学(がく)ランの仏(ほとけ)さま、学(がく)ランの仏(ほとけ)さま。わしはいいから、仏(ほとけ)さまは助(たす)けてやってくだせぇ)


すると老人(ろうじん)の暖(あたた)かな祈(いの)りが公園(こうえん)に響(ひび)いた。


そして誰(だれ)かが小舟(こぶね)をこいでやってきたのである。


ぐいっと手(て)を引(ひ)き上(あ)げられて目(め)を開(あ)けるとそこにはオウガーが2人(ふたり)居(い)た。


樹(いつき)は思(おも)わず飛(と)び退(の)いたが、喰人鬼(オウガー)に笑(わら)われてしまった。


「はっは。″ジン″さん阿呆(アホ)だべなぁ。まだ新緑(しんりょく)の季節(きせつ)だで。水遊(みずあそ)びにははやすぎるでな!!」


「うわ言(ごと)で学(がく)ラン学(がく)ランてなぁ。いまさら青春(せいしゅん)の夢(ゆめ)でも見(み)とったんかのぉ?」


それを聞(き)いて堀(ほり)の縁(ふち)にいるオウガーたちは揃(そろ)って笑(わら)い出(だ)した。


皆(みんな)、おぞましい姿(すがた)に変(か)わってはいつつも、人(ひと)の本質(ほんしつ)は失(うしな)っていなかったのだ。


もちろん、容赦(ようしゃ)なく殺(ころ)しに来(く)る者(もの)もいるので、そんな悠長(ゆうちょう)なことは言(い)っていられないのだが。


樹(いつき)やジンのような能力(のうりょく)がなければこうはいかないわけであるし。


堀(ほり)の上(うえ)を見上(みあ)げると全身(ぜんしん)が爛(ただ)れて筋張(すじば)った赤茶色(あかちゃいろ)のバケモノはいなくなっていた。


殺(ころ)す気(き)になれば殺(や)れたはずなのに、なぜ姿(すがた)を消(け)したのだろうか?

 

それはともかく、この″ジン″という老人(ろうじん)の脱出経路(だっしゅつけいろ)を確保(かくほ)しなければならない。


オウガーたちに聞(き)くと次(つぎ)の停車駅(ていしゃえき)は染井市立病院(そめいしりつびょういん)らしかった。


ジンはそれを聞(き)いてコッソリと市営(しえい)バスに乗(の)り込(こ)んだ。


脱出(だっしゅつ)ルートもわからないが何(なに)かに縋(すが)るように。


バスに揺(ゆ)られること10分(じゅっぷん)。


″ジン″は病院(びょういん)に到着(とうちゃく)した。


その時(とき)、例(れい)のバケモノの咆哮(ほうこう)があたりに響(ひび)いた。


「グアがおおおおおおおーーーーンンン!!!!」


(プツン!!)


切迫危機(くりてぃかる)だ。樹(いつき)はジンに脳侵(はっく)した。


少年(しょうねん)は巨大(きょだい)な病院(びょういん)を見上(みあ)げた。


彼(かれ)の父(ちち)が勤(つと)めていた職場(しょくば)である。


「いまとなっては……か」


そういえば父(ちち)の話題(わだい)に″ドクターヘリ″というものがあった。


急病人(きゅうびょうにん)をヘリコプターで搬送(はんそう)するアレである。


「父(とう)さん、染井市立(そめいしりつ)の屋上(おくじょう)にはヘリポートがあるっていってたな。もしかすると、脱出手段(だっしゅつしゅだん)になるかもしれない!!」


先程(さきほど)から航空機(こうくうき)の類(たぐい)は全(まった)く見(み)かけないが、こちらから呼(よ)ぶのはあながち不可能(ふかのう)でないと思(おも)えた。


樹(いつき)はこの御老体(ごろうたい)を引(ひ)きずって屋上(おくじょう)のヘリポートに上(あ)がることを決(き)めた。


うまく行(い)けばジンを染井(そめい)から逃(に)がせるかも知(し)れない。


学(がく)ランの仏様(ほとけさま)の死闘(しとう)が始(はじ)まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。