↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/36

じょいん

(プツン!!)


誰(だれ)に脳侵(はっく)したのか。雰囲気(ふんいき)からしてメガネの青年(せいねん)のようだった。


(う、うう〜〜〜ん)


身体(からだ)を仰向(あおむ)けに横(よこ)たえている。指先一(ゆびさきひと)つ動(うご)かない。


(う、ううう、ううう………)


(コンコン……コンコン……も……し……さ……)


そして、足元(あしもと)から胴(どう)へと人間(にんげん)の重(おも)みらしい圧迫感(あっぱくかん)が来(く)る。


「ひいいいっ!! 息(いき)がっ!! 息(いき)がぁっ!!」


そして青年(せいねん)は何者(なにもの)かに真綿(まわた)で首(くび)を絞(し)めるようにジワジワと縊(くび)り殺(ころ)されてしまった。


(プツン!!)


樹(いつき)が脳侵(はっく)してみるとそこには見覚(みおぼ)えのある紫(むらさき)のモヤが居(い)た。


金縛(かなしば)りにまぎれて、人を殺(ころ)しまくっているタチの悪(わる)い霊体(れいたい)である。


「よぉ、兄(ニイ)ちゃん、また会(あ)ったな」


樹(いつき)は紫(むらさき)のモヤを睨(にら)みつけた。


「しつこい奴(やつ)だ。まだ消滅(しょうめつ)してなかったのか」


霊体(れいたい)はゆらゆらと揺(ゆ)れた。


「あらまぁツれないの。言(い)ったろ。脳侵(はっく)はあんたの専売特許(せんばいとっきょ)じゃねぇって!!今度(こんど)は負(ま)けねえぞ!!」


すると霊体(れいたい)は寺(てら)の鐘(かね)のようなものを取(と)り出(だ)してきた。


モヤは恐(おそ)ろしい速(はや)さで丸太(まるた)を振(ふ)り下(お)ろした。


鐘(かね)の音(おと)は樹(いつき)の脳内(のうない)に響(ひび)いた。


「ぼおおおーーーーーん!!!!」


爆音(ばくおん)と振動(しんどう)が少年(しょうねん)の脳(のう)を激(はげ)しく揺らした。


「うおわああ、あ、あああーーーーッッッ!!」


脳味噌(のうみそ)が弾(はじ)けそうになった。


「うっす、もいっちょ!!」


こうして何度(なんど)も樹(いつき)の額(ひたい)に音(おと)の衝撃(しょうげき)が打(う)ち付(つ)けられた。


そして少年(しょうねん)はなんの反応(はんのう)もなくなってしまった。


「おーッ!? よく耐(た)えたほうじゃねぇの!? 今度(こんど)、消滅(しょうめつ)するのはおめぇさんだよ!!」


全力(ぜんりょく)で霊体(れいたい)は棒(ぼう)を振(ふ)り下(お)ろした。


その時(とき)、樹(いつき)は目(め)をカッと見開(みひら)いた。


そして頭突(ずつ)きで鐘(かね)を打(う)ち返(かえ)したのだ。


「うっ……ウソだろ……」


跳(は)ね返(かえ)った衝撃(しょうげき)で紫(むらさき)の霊体(れいたい)はもがいた。


うめく殺人鬼(さつじんき)を樹(いつき)は見下(みおろ)ろした。


「あれ? 言(い)ってなかったか? 俺(おれ)、石頭(いしあたま)には自信(じしん)があるんだよね。自信(じしん)が」


樹(いつき)は肩(かた)を回(まわ)してほぐした。


「そ、そんなの……初耳(はつみみ)だぜ……。げぼげぼげぼ……」


今度(こんど)こそ霊体(れいたい)は滅(ほろ)びたようだった。


「ハッタリだよハッタリ。そもそもあんたの精神攻撃は大してくらってないんだ。俺のほうが格上なんでね」


そしてメガネの青年(せいねん)は跳(は)ね起(お)きた。


「はぁ、はぁ、また金縛(かなしば)りのお化(ば)けか……。奴(やつ)はさぞかし僕(ぼく)を祟(たた)り殺(ころ)したくてしかたないらしい。は、早(はや)く染井(そめい)から逃(に)げないと……!!」


オカルトのビビリが余計(よけい)に彼(かれ)を駆(か)り立(た)てた。


一段落(ひとだんらく)したように思えたが、まだ脳侵(はっく)が切(き)れない。


立(た)て続(つづ)けに切迫危機(くりてぃかる)がくるようだ。


樹(いつき)の精神(せいしん)のテンションが突(つ)っ張(ぱ)る!!


玄関(げんかん)の向(む)こうから柔(やわ)らかな声(こえ)が聞(き)こえてきた。


「しんやくん。しんやくん。大丈夫(だいじょうぶ)? 様子(ようす)を見(み)に来(き)たのよ」


それはシンヤと呼(よ)ばれた青年(せいねん)が慕(した)っているらしき人物(じんぶつ)だった。


「あぁ、大家(おおや)さん、外(そと)は危(あぶ)ないよ!! 早(はや)く入(はい)って!!」


″シンヤ″は玄関(げんかん)へ急(いそ)ぎ、古(ふる)びたドアを開けた。


「お、大家(おおや)さん!! ぐびゅッ!!」


入口(いりぐち)を開(あ)けたと同時(どうじ)にシンヤは凄(すさ)まじいパワーで顔面(がんめん)を殴(なぐ)りつけられてしまった。


頭蓋骨(ずがいこつ)が変形(へんけい)するほどのダメージで、シンヤの顔(かお)はグシャグシャになった。


もはや、部位(ぶい)の判別(はんべつ)さえ困難(こんなん)だった。


「プツン!!」


意識(いしき)は脳侵(はっく)した樹(いつき)に移(うつ)った。


「とりあえず、無闇(むやみ)にドアを開(ひら)かなければ時間稼(じかんかせ)ぎはできそうだ。しかし、どうやって抜(ぬ)け出(だ)したものか。きっとアパートの外(そと)はオウガーだらけだぞ……」


樹(いつき)が考(かんが)えあぐねていると、隣室(りんしつ)から声(こえ)が聞(き)こえてきた。


「すいません、もし、もしもし。聞(き)こえますか? 生(い)き残(のこ)りの方(かた)ですか? 警察(けいさつ)です。救助(きゅうじょ)に来(き)ました」


聞(か)き慣(な)れた声(こえ)だ。ベルのに脳侵(はっく)していたときに同行(どうこう)していたアサカだとすぐにわかった。


まさかアサカが逃(に)げ込(こ)んだ部屋(へや)がシンヤの部屋(へや)の隣(りんしつ)だとは思(おも)わなかった。


″僥倖(ぎょうこう)″。そうとしか言(い)いようがなかった。


「アサ……いや、お巡(まわ)りさんですか? こちらも状況(じょうきょう)がよくわからないんです。協力(きょうりょく)して抜(ぬ)け出(だ)しましょう」


本来、こういう場合、シンヤはアサカがオウガーでないかと疑うところだった。


しかし、樹(いつき)は脳侵(はっく)で何度もアサカと会(あ)っているのでその心配(しんぱい)はしなかった。


一方(いっぽう)、やけに冷静(れいせい)な応対(おうたい)にアサカは首(くび)をひねったが、パニックを起(お)こされるよりはマシだ。


「こちらは玄関(げんかん)を塞(ふさ)がれているんです。窓(まど)の外(そと)はどうですか?」


アサカはミサキの居(い)る建物(たてもの)から出(で)ると、隣(となり)のアパートの庭(にわ)を覗(のぞ)いた。


ベルが引(ひ)きつけてくれたからか、そちらにはオウガーはいなかった。


アサカは抜(ぬ)き足(あし)、差(さ)し足(あし)でシンヤの部屋(へや)のガラス戸(ど)を軽(かる)く叩(たた)いた。


するとカギを開(あ)ける音(おと)がして、窓(まど)の向(む)こうにシンヤの姿(すがた)が見えた。


この時(とき)、樹(いつき)は初(はじ)めて人間(にんげん)の姿(すがた)でアサカの顔(かお)を見(み)た。


「名乗り遅れた。俺はアサカ タカシ。染井警察署所属。おっと、れっきとした警官だ。詐欺じゃないし、オウガーでもないから警戒しないでくれよ」


アサカは両手(りょうて)を上(あ)げて敵意(てきい)がないのを示(しめ)した。


髪(かみ)は長(なが)めの黒髪(くろかみ)、高(たか)い鼻(はな)、引(ひ)き締(し)まった顔(かお)。泣(な)きぼくろ。


警官(けいかん)らしい凛々(りり)しい表情(ひょうじょう)だ。歳(とし)はわからないが、かなり若(わか)く見(み)えた。


体格(たいかく)もガッチリしており、屈強(くっきょう)そのものだった。


同時(どうじ)にシンヤを脳侵(はっく)している樹(いつき)は疑問(ぎもん)を抱(いだ)いた。


切迫危機(くりてぃかる)は乗(の)り切(き)ったはずだ。


にも関(かか)わらず、脳侵(はっく)が解除(かいじょ)されないのである。


(プツン!!)


突然(とつぜ)、樹(いつき)は意識(いしき)が切(き)り替(か)わった。


隣(となり)の部屋(へや)のミサキが手(て)に取(と)るように見(み)える。


すると大家(おおや)が玄関(げんかん)のドアを蹴破(けやぶって)って突入(とつにゅう)してきたではないか。


「シンヤく、シンヤシンヤ、シンヤく、シン……」


どこからか持ち出してきた手斧(ておの)でミサキの脳天(のうてん)をカチ割(わ)った。


「うぎゃ、ぁぁぉぉっっ……」


断末魔(だんまつま)と共(とも)に吹(ふ)き上(あ)げられた夥(おびただ)しい量(りょう)の血(ち)が部屋中(へやじゅう)を真(ま)っ赤(か)に染(そ)めた。


(プツン!!)


シンヤに脳侵(はっく)した樹(いつき)に意識(いしき)が戻(もど)ってきた。


どうやら繋人(つなんちゅ)であるシンヤ、それとアサカとミサキが結びついたようだった。


脳侵(はっく)が出来るのはシンヤだけ。


シンヤがベルと同(おな)じ役割(やくわり)に割(わ)りこんだのである。


急(いそ)いでミサキの切迫危機(くりてぃかる)をやり過(す)ごさねばならない。


樹(いつき)は走(はし)り出(だ)すと玄関(げんかん)のドアを何度(なんど)も叩(たた)いた。


「大家(おおや)さん!! 大家(おおや)さん!!」


「シンヤくん? シンヤくぅん!!」


するとバケモノはミサキの部屋(へや)ではなく、シンヤのドアを破壊(はかい)して侵入(しんにゅう)してきた。


その形相(ぎょうそう)たるや、まさに喰人鬼(オウガー)だった。


(バケモノめ!! かかっこい!!)


「うひゃあッ!!!!」


しかし、シンヤは恐怖(きょうふ)のあまり腰(こし)を抜(ぬ)かしてしまった。


彼(かれ)のビビリは樹(いつき)でも制御(せいぎょ)できなかったのである。


(しまった!! 殺(や)られるッ!!)


「シンシシンシキンシンシくくくくんんんん!!!!」


その時、タイミングをはかってアサカが突入してきた。


即座(そくざ)にバケモノめがけて拳銃(けんじゅう)を発砲(はっぽう)した。


「パンッ!! パンッ!!」


商店街(しょうてんがい)に乾(かわ)いた音(おと)が響(ひび)いた。


「ぎゃおおお!! あがあああ!!」


弾(たま)は頭部(とうぶ)と胸(むね)を撃(う)ち抜(ぬ)いていたが、大家(おおや)のオウガーは死(し)ななかった。


起(お)き上(あ)がるのは出来(でき)ないようで、長(なか)いことのたうちまわっている。


「ふぅ、追加(ついか)の始末書(しまつしょ)だなこれは」


そう言(い)いながらアサカは拳銃(けんじゅう)の残弾(ざんだん)を確認(かくにん)した。


日本(にほん)の警察(けいさつ)で採用(さいよう)されているリボルバーのタイプは2つあるが、いずれも弾数(だんすう)は5発である。


「先輩(せんぱい)に1発(いっぱつ)、蜘蛛(くも)のバケモノに1発(いっぱつ)、″大家(おおや)さん″に2発(にはつ)。残りはあと1発(いっぱつ)か。厳(きび)しいな……」


確認(かくにん)を終(お)えるとアサカはこちらを見(み)てきた。


「君(きみ)、名前(なまえ)は?」


急(きゅう)に名(な)を聞(き)かれて、樹(いつき)はしどろもどろになった。


「あ、はい。僕(ぼく)はイツ……じゃなくてシンヤです!! よろしくお願(ねが)いします!!」


それを聞(き)くとアサカは頷(うなづ)いた。


「市民(しみん)は俺(おれ)が守(まも)る。それがお巡(まわ)りさんだからな」


頼(たの)もしい雰囲気(ふんいき)を醸(かも)しているが、実際(じっさい)のところ、生身(なまみ)ではオウガーには敵(かな)わないのが悲(かな)しいところだ。


頼(たの)みの綱(つな)の拳銃(けんじゅう)も残(のこ)り1発(いっぱつ)しか残(のこ)っていないらしいし。


このアサカと小(ちい)さな子(こ)どもであるミサキを同時に救(すく)うのはかなり難儀だ。


(プツン!!)


切迫危機(くりてぃかる)を乗(の)り越(こ)えたからか、樹(いつき)の意識(いしき)は飛(と)んだ。


(次は……誰だ? そろそろ……俺の身体にもどってくれ……!!)


誰かの切迫危機が、またくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。