第8話 日を跨いで
文香たちと店を変えて飲み直していたら、いつの間にか22時を過ぎていた。お母さんからは《もう颯くん寝てるから、ゆっくり遊んで英気養っておいでー》ときていた。ありがとう、と思いながらスマホを閉じる。
「明日も仕事やねんーだるい」
ネイルサロン勤めの文香は土曜日も仕事だ。
「でもまあ遅番やから」
「まじかー俺は休みーいえーい」
文香も奏也も気持ちよさそうに酔っ払っている。文香送って行ってあげないと心配やなあ、とか考えながらわたしは席に座っていた。
「類斗は〜?」
「俺は休み」
と言って、わたしを見てにこっとする。やめてーキラースマイル! 休みってことは、家族サービスデイやん。しっかりしてんな、類斗。
「そろそろ行くかー」
奏也が伸びをする。会計を済ませて店を出る。
「じゃあ、また帰ってきたら会おう」
「うん、グループラインするね」
まず一番近い奏也が家に入って行き、それから文香の家に向かう。
「奏也も結婚したら、独身はわたしだけか〜」
「文香結婚したいん?」
「もちろんやん、永遠の愛誓いたい」
永遠の愛か……。結婚式の本番よりも、わたしはちょっとした練習の方を1番よく覚えている。身内だけでした、小さな結婚式。温かくてほおほかした気持ちになったのに、ずっと心に類斗がいたことを。結婚していると聞いたから、諦めたのに。
「じゃ〜ね。類斗、ちゃんと送ってよー。この間かって、声かけられてたからさ」
「文香、大丈夫やってば」
「ういーおやすみー」
文香が手を振って家の中に入って行く。
「なに、声かけられたって」
「文香の勘違いちゃう? 道は聞かれたけど……」
「ほんまにそれだけ?」
手をぎゅーっと力強く握られる。
「それだけやってばー」
本当はしつこく連絡先を聞かれてついて来られたけど、類斗を心配させたくないから嘘をついた。
「ひとりで夜歩くなよー東京とかもっと怖そうやし」
「いやいや、もうわたしオカンやで? 夜ぐらい」
「あかーん」
「あ、明日は家族デイすんの? 類斗やるやん」
「そんな訳ないやん。ゆりに会うよ。ゆりのタイミングでいいからさ」
「大丈夫なん? ほんまに?」
「もちろんやん、そのためにどんだけ日頃がんばってるか。ほんまはもう少し一緒にいたいけど……さすがにゆり、やばいやろ?」
「まあ、もう颯太寝てるし大丈夫やで」
「ほんま?」
類斗の表情がパッと明るくなる。わたしも嬉しくなる。日を跨いで一緒に過ごせそうだ。思い出たくさんの道を歩く。ただ歩いているだけなのに、嬉し過ぎて、楽し過ぎて幸せで心がはち切れそうだ。




