第48話 夜の散歩
「だからその、別れるとか言わんといて欲しい、絶対に」
「蒼くん……」
「お腹の子も産んで欲しい、ゆりの子供に変わりはないんやから。だから、頼むから別れるとか言わんといて欲しい。《《俺たち》》には絶対に一生、ゆりしかおらんねんから……」
「蒼くん……」
怒られて捨てられると思ってたのに、思ってもいなかった蒼くんの反応に焦る。と思ってたら、そうやった……類斗こっち来るとか言ってた気もする……。気もするじゃなくて来るんやった……。
「蒼くん、ごめんなさい。実は類斗が、こっちに向かってて。話し合いたいって。会いたくないやろうから、断った方がいいよね?」
「わざわざ来てくれてるんやったら、会ったら?」
「え」
「俺は話すこともなにもないよ。ゆりとは絶対に別れへんから。だから会っておいで」
「ふたりでってこと?」
「もちろんや。俺おらん方がいいやろ?」
「蒼くん……わたしのこと怒ってよ。優しくする必要なんかないねんで? なんでそんな優しくするんよ? ありえへんやん、他の男と会うなんか」
「いやいやゆりには迷惑かけっぱなしやし、寂しい思いしてたって普通やと思う」
そんなんちゃうのに……どうしよう。はあ……。ため息でそう。
でも確かに、普通の家庭がどんなもんかわからへんけど、蒼くんが家にいること自体ほぼないし……だからってわたしはそれが、わたしにとっての普通で。
「ゆりを高校で見つけてから、俺は絶対に何があってもゆりのそばにいるって決めてたから。でも今の仕事をやめることも出来ひんし、家にずっとおろうって思ったらちゃんとした仕事部屋を作る必要もあるし……」
蒼くんの目が潤んでいる。なにやってるんや、わたしは。ひどすぎる。こんなに真っ直ぐな人を傷つけてしまうなんて。
「ゆりが会いたいだけ類斗くんに会えばいいし、生まれてくる子供にかって会わせてくれていい。ただ、このまま……結婚だけは続けてほしい。だってそれに颯太と緒采は俺らの子やろ?」
だめだ、蒼くんの顔見れない。わたしはテーブルを見つめる。
「蒼くん」
でもどんな気持ちで続けろっていうん……?
「俺はゆりを離す気はない。それだけ類斗くんにも伝えといて」
それから4人でレトルトカレーを食べて、蒼くんがいつものように片付けをしてくれて、仕事に出掛けて行った。もしかして、蒼くんも不倫してるとか? いやでもリスク高いし、やるわけないよね。ていうかどうしよ。公認不倫? そんなことありなん?
そんな時に類斗からの電話の着信が。マンションの前に着いたとのことだった。わたしはふたりを連れて、下に降りる。夜のお出かけに、子供ふたりは興奮気味。
マンションロビーを抜け、外に出るとスーツ姿の類斗がいた。
颯太が駆け寄る。緒采が「あっこあっこ」と言うのでわたしは抱っこをして近づく。
「さっき、蒼くんまた仕事に行っちゃって」
「大丈夫?」
「うん、大丈夫やって言えば大丈夫やけど、大丈夫じゃないって言えば大丈夫じゃないかも……」
「え」
「とにかく類斗に会ってもいいし、子供も出産していいから離婚はしないって」
「まじかよ」
「ごめんな、類斗せっかく来てくれたのに。蒼くん、仕事の関係もあるし、なんていうか別れたりするのも自分たちだけで決めるのも難しくって」
「そうなんか……でもまあ遠慮なくってことでええんかな?」
「おかあさん、るいとくんもあそぼう!」
「遊べたらいいんやけど、類斗くん帰らなあかんから、またばあばんところ行った時に、遊ぼう」
「ごめんなー」
わたしが抱っこしていた緒采をひょいと、類斗が抱っこしてくれた。泣くこともなく嬉しそうにしている。わたしは類斗と手を繋ぎ、颯太は緒采を抱っこした類斗と手を繋いで夜の街を少しだけ散歩した。
こんなにうまくいってしまっていいんだろうか……。
でも、幸せで、わたしはなにも言えなかった。




