第44話 心から
類斗からの電話にびくっとしながらも、わたしはドライフラワーの霞草がある部屋に入り話をする。
とにかく病院に行って、きちんと検査してから類斗には伝えよう。でも蒼くんにはどうすれば……? わからへん。
「それでさ、練習中に……」
類斗が嬉しそうにサッカーの話をしてくれるのに、わたしの頭には全く入ってこなくて焦る。どうしようで頭がいっぱいや。当たり前か。
「ゆり?」
「うんうん」
「大丈夫?」
「なにが?」
「もしかして、なんかあった……?」
「ないない、ちょっと生活が変わって疲れてるんかも」
「ほんまに? 幼稚園は順調なんやろ?」
「うん、お友達もできて、楽しそうに通ってる」
蒼くんの会社のひとたちも裏切ることになるだろう。この間のファンのひとたちの顔も浮かぶ。
いやでもすでにもう家族も周りも裏切りまくってるか……。
でもどうしてこんな風になってしまったんやろ。文香の顔が浮かぶ。奏也も。
「じゃあ、また」
と言って類斗との電話が終わる。それから、わたしは蒼くんに返信をしてスマホを閉じた。
2人ともまだ寝ていたので、わたしも一緒にベッドで横になる。幸せなのに、幸せじゃないなんて欲張りすぎる。
でもとにかく明日にでも病院に行ってみよう。
もし正常に妊娠していたとしたら、蒼くんにはなんて言えばええんやろ?
答えがでないことばかり考えていたら、2人が起きてきたのでわたしは慌てて夕飯の準備に取り掛かった。
1番に伝えるのは絶対に類斗だ。
炊き込みごはんに、焼き魚、味噌汁にだし巻き卵、おひたしを作りながら2人の様子を見守る。
2人の親として過ごせるのもあと少しだろう。
わたしは、完成したブロックの作品を楽しそうに見せに来てくれる2人を抱きしめる。
あなたたちよりも、類斗を選ぶお母さんをどうか憎んでください。
心の底から嫌いになってください。
そんな風に思いながら。
夜になって、今日は18時前に蒼くんが帰って来た。
「とーさん」
「おとーさん」
2人が嬉しそうにかけよる。あかん、蒼くんの顔がまともに見られへん。地面が歪んでうまく歩かれへんし、倒れそうや。
「ゆりーただいま」
抱きしめられて、軽くキスされた。いつもの挨拶やのに、遠い現実のように感じる。
みんなで夕食を食べて、3人がお風呂に入っている間にわたしは片付けた。その後に、簡単なボードゲームをしたり、絵本を読んで過ごしてから蒼くんが寝かしつけてくれた。
蒼くんが出てこないので、寝室を覗くと一緒になって眠っている姿があったのでわたしはそっとドアを閉めた。




