第38話 これからのこと
そのまま、ブランケットに包まりながらわたしたちはたわいもない話をした。あの日、類斗を見ていたこととか、郁ちゃんに嫉妬していたこととか。
言葉たちが広い教室に響く。
「廃校にはなったんやけど、取り壊しの目処はまだたってないみたいやから、またここで子供作ろう? ね?」
「類斗……」
互いの鼻息がかかりそうな距離で話す。類斗の大きな腕に包まれると安心する。
「あーもう行かなやばいわ。ゆりのために練習してくる」
「うん、行こう」
互いに服を身について、教室を出るころには陽が沈んで廊下が薄暗くなっていた。来た道を仲良く歩く。
「じゃ、また明日」
明日は仕事終わりに文香たちとごはんに行くことになっている。
類斗は1度家に戻ってから、サッカーの練習に行くようだ。門を曲がると、実家の外にはお母さんと颯太、それに緒采の姿が目に入る。
「おかーさあん!」
颯太が走って来る。その後によちよち歩きの緒采が。
いつもなら、しゃがんで受け入れるはずやのに、体が動かない。
「ただいまー」
それからお母さんがごはんを作る間に、わたしは2人を連れて街を散歩した。小学校があった場所には工事車両が入り込み、校舎を壊しにかかっていた。そして、この間の公園にはプレハブ小屋も建っていて、本格的に工事が進みそうだった。
なくなっていく思い出の場所たち。街がどんどん変わっていく。
「お母さん、ここの小学校に通っててん」
「しょーがっこー」
「公園も思い出いっぱいで、お友達とよく遊んでん……」
「ショベルカー!」
颯太はショベルカーを指差して嬉しそうにしている。
颯太のことも、緒采のことも心の底から愛している。妊娠したときも、辛いつわりを乗り越えて出産したときも、2人の顔を見たときも、抱いたときも、授乳したときも全て幸せしか感じられなかった。
2人の母親になれてよかったと心の底から思えた。なんのいつわりもない、真っ白い純白な気持ちだった。それはまさしく今も。だけど、それと類斗との関係はかけ離れている。あまりにも。
家に戻ってごはんを食べているときも、類斗のことで頭がいっぱいだった。あの廃校になった校舎と教室を思い出す。そして、類斗との約束やえっちも。
そして類斗の精子がわたしの中にしっかりと入ってしまった。あの感覚を思い出す。
もし仮に今類斗との子供を授かることができたら、どうなるんだろう。
「おいちい! ばあばありがとう」
颯太が笑顔で言う、おにぎり片手に。
もし授かったら、わたしは間違いなく産むだろう。
そしてわたしは、蒼くんに伝えるだろう。別に愛するひとがいるからそのひとと結婚するって。
思いっきり怒って、なじって欲しい。そうすれば離れることが出来るだろう。
でも……。
でも颯太や緒采は? 諦めるしかないよな。ていうか、こんな最低な母親、そばにいるべきじゃない。他の男との子供を喜ぶような奴。
「悠莉……?」
「え」
「大丈夫?」
お母さんがわたしを見ている。
「なんかあった? 文ちゃんと喧嘩でもした?」
文香と?
「いや別に……」
と言って思い出す。そうやった、文香と会うって嘘ついたんやった。
「そう。なんか考え事? まあ、あんたは小さい頃からぼーっとしてたから、これがデフォルトか! ははは」
わたしは無理やり微笑む。
それからや悠太郎やお父さんが帰って来て、一緒に過ごした。




