第35話 ポーチ
わたしは、ひとり物置部屋に行き鞄からポーチを取り出す。
中にはアフターピルが入っている。これ以上蒼くんの子供を妊娠しないために服薬するようになった。授乳しているから、妊娠しないだろうけどなにがあるかわからないからだ。産後は妊娠しやすいとも聞いたことがあるので念のためだ。
わたしは疲れた体を引きずって、蒼くんが食べた食器を片付けようと部屋に戻る。
「大丈夫、ごめんな……何回も。置いといて片付けるから」
「ううん、洗うだけ洗っとくね」
わたしはそれから子供たちが眠る寝室に向かう。蒼くんとの子供は、颯太と緒采だけで十分すぎるぐらい十分だ。可愛いし大好きだけど、もうなんかいい。
類斗との子供なら……とよからぬことが頭をかすめる。そして思い出すのはあの公園でのこと。そして類斗の言葉。
「ゆり、俺と結婚してほしい」
「俺との子供作らへん……?」
その言葉たちが、ぐるぐると頭の中でローテーションして現れる。そして幸せな気持ちになる。
類斗から、ずっと言われたくて待っていた言葉。
小さな可愛いぬいぐるみのキーホルダーもお守りみたいにわたしのお気に入りのかばんに入れてある。
幸せな気持ちと同時に、よぎること。わたしはラーのギターのAOIの嫁で、類斗にも家庭があること。考えなきゃいいのに、一気にブルーな気持ちになって落ち込む。
やっぱり類斗が大好きだ。
類斗……会いたい。
幼稚園の入園の前に、帰省しよう。蒼くんもなんの異論もないだろう。
あの日バッティングしてしまった日も、特にあれ以上なにも言われなかった。東京に類斗たちに1度来てもらっていて正解だった。
でも東京に文香たちと来てくれたあの日も……。文香たちが帰ったあの夜、類斗とふたり東京で少しの間過ごすことができた。それがたったの5分だとしても、わたしにとっては信じられないような5分だった。ただ寄り添って、手を繋いだだけなのにそれだけで十分だった。
翌日の帰り際にも会いに来てくれて、颯太もいたけれど過ごすことができた。奥さんには申し訳なく思うけれど、わたしと類斗は絶対に切れない関係だと思う。
離れていても思い出で生きていける。
類斗とわたしは、今を思い出と一緒に生きているのかもしれない。




