第32話 取り壊し
荷物を準備して、お母さん、颯太、そしてわたしの抱っこ紐の中で眠る緒采を連れて新幹線に乗った。颯太は、お母さんが買ってくれたおもちゃや絵本、シールやお絵かきに夢中でグズることなく過ごしてくれたので助かった。
緒采は1回授乳したらそのまま寝て、新幹線から降りても起きないぐらいだった。今日は、お父さんが仕事が休みだったので駅まで迎えに来てくれた。
緒采を見てお父さんはとても嬉しそうにしてくれた。颯太をチャイルドシートに乗せ、緒采も買ってくれたチャイルドシートに乗せる。起きずに眠ってくれていた。
そのまま実家に向かう。一応、仕事終わりに類斗と会うことになっている。もうそのことで頭がいっぱいだ。まだ昼なのに、夜になるのが待ちきれない。
《無事についたよ。お仕事がんばってね》
蒼くんに報告のラインを送る。すぐにスタンプが送られてきた。
そして無事に夜を迎える。
「今から帰るから会える?」
って類斗からの電話。
わたしは正直に類斗に会ってくると、お母さんに伝えて外に出る。
家の近くに車を停めて待ってくれていた。
車のドアから降りて走ってまっすぐに来てくれる類斗。それから抱きしめてくれた。
「会いたかったー」
類斗の大きな体、優しい声。もう大好き。
「お母さんに類斗に会ってくるって言ったらうらやましがられたし、はは」
「俺はゆりに会いたかった」
それから類斗に手を引かれて、車に乗り込む。スーツ姿の類斗の膝の上に、わたしと繋いだ手を置いている。それからひとけのあまりない駐車場に向かって、車をパーキングに入れた途端、シートを倒されてむちゃくちゃにキスされた。
勢いがありすぎて、呼吸が難しくって、恥ずかしい声が出てしまう……。
「る、るい、ん……ん……あっ」
きつく抱きしめられる。
「めちゃくちゃ会いたかった」
「わたしも……」
「今日はすぐに戻らなあかんやろ?」
「せやねん、緒采ちゃんの授乳があるから」
「はーでも俺は十分幸せ。これからいっぱい会えるな」
「うん」
真剣な表情の類斗にドキドキする。薄暗い中の類斗も素敵すぎる……。
このまま、このままふたりだけでどこかに行けたらどれだけいいだろう。そしてすぐに類斗は駐車場を出て、車を走らせた。
「ちょっとだけ寄り道していい?」
「うん」
車は実家の方へ向かって走る。と思ったけど、違うすじを通る。そしてゆっくりと車が止まった。
そこは、類斗たちと一緒に鬼ごっこや花火をして楽しんだ公園だった。だけど、そこには大きく看板がかかげられていた。
「本公園は廃止。取り壊し予定。立ち入り禁止」
わたしは驚いて、類斗の顔を見る。戻ってこない間に、公園の取り壊しが決まっていた。たしかに老朽化してきていたし、仕方ないのかなって思ったけど、胸の奥が締め付けられる。




