第29話 バッティング
「いつ東京戻るん?」
類斗から朝、電話がかかってきた。通勤途中だろうか。
「お昼食べたら戻るつもり」
なんか、この間の再会以来ちょっと気まずい。そりゃ類斗の立場になったら辛すぎるよね。
「駅まで送るわ」
「え、いいの?」
「うん、おばちゃんらも心配やろうし」
「ありがとう」
今日類斗に会えると思っていなかった。ていうか仕事はいいの? わたしと颯太は早めの昼ごはんを食べ終えて、荷物をかばんに詰める。
「ついたー」
って電話がかかってきたので、わたしは慌てて外に出る。
「類斗、ありがとう」
「おお」
この間の再会みたいに甘々な空気にならなくて、焦る。そのままお母さんが出てくる、颯太を連れて。
「類ちゃんありがとう。ひとりやったら心配やったから助かるわ」
だけど、わたしたちが車に乗ってドアを閉めた時にちょうど1台の車が角を曲がってやってくる。
……蒼くん?
思考が固まる。
だけどなんとか力を出して、わたしは車を降りる。
「ゆりー」
と言って、蒼くんがわたしを抱きしめてくれる。
「あ、来てくれたんや……」
最悪なタイミングすぎる。しかも一昨日のこともあるし。せっかく類斗と仲直りするチャンスやったのに、余計にこじれる。
「颯くんは? あ、友達?」
蒼くんが運転席に乗った類斗の方を見る。類斗はチャイルドシートから颯太を下ろしてくれる。
「あー類斗くんか! ご無沙汰してます」
「ご無沙汰です」
類斗が苦笑いする。
「じゃあ、俺は行くわ」
スーツ姿の類斗が再び車に乗る。
「ごめんな〜類ちゃん。でもこの間の約束は守ってな〜はは。これからも悠莉をよろしく」
「うっす。じゃ、また」
お母さん、何を今言ってんのよ!! もう!! だけど蒼くんの顔色は全く変わらない。
「約束?」
「なんやろー。わからへんなあ」
わたしは必死でとぼける。ていうかこんなバッティングしちゃうなんて……。
「サプライズで迎えに来てみた」
「疲れてんのにわざわざ」
「蒼くん、ちょっと休んでったら? 疲れたやろ?」
「いやー大丈夫っす。それにまた夜から仕事なんで」
「ほんまあ、悠莉をよろしくね」
類斗の車が先に行ってしまう。
あーあもっとくっつきたかったのに、と思いながらわたしは助手席に乗り込む。蒼くんが颯太をチャイルドシートに乗せてくれる。
わたしたちは窓を開けてお母さんにお礼を言って去る。
蒼くんがわたしの右手をきつく握る。
「類斗くんが送ろうとしてくれてたん……? わざわざスーツで」
「あ、うん……」
「どうした? 体調大丈夫?」
「大丈夫、ありがとう」
全然大丈夫じゃない自分がいて驚く。類斗……こんなバイバイ嫌や。
スマホを見たけど、もちろん連絡なし。蒼くんが仕事に行ってから連絡してみようかな。




