第16話 それでも
「胎嚢が見えますね、おめでとうございます」
颯太を出産した病院を受診した。膣に器具を入れられる、不思議な感覚。機械がゆっくり動いて床に向かう。動きが止まったのでわたしはスリッパを履いた。それから、わたしたちは診察室へ行き次の受診の日を決めた。
颯太のとき、ごはんを食べられないぐらいにつわりがひどくて辛い日々だった。だけど、蒼くんや類斗のおかげで快適に過ごすことができた。
類斗にも報告しないと……会ったらえっちできないのちょっぴり寂しいな。
わたしの体調を気遣って、蒼くんは近場の温泉旅行を提案してくれた。颯太にとったら初めての家族での旅行だ。わたしは忘れ物がないか何度も確認しながら荷造りを進めた。
「俺がやるからーゆりはゆっくりしといて」
打ち合わせを終えた蒼くんが、戻ってきた。
「大丈夫やってば」
「なんかあったら困るからさ、横なっといて」
わたしは仕方ないので颯太に絵本を読んだりしてのんびりとして過ごした。もう少ししたら出発して、昼ごはんを食べて、それから向かうことになっている。
蒼くんの荷造りしている背中を見つめる。にこにこと楽しそうにしている蒼くんは可愛い。わたしはぎゅっと後ろから抱き締めた。
「ありがとう」
わたしの後ろを颯太が抱きしめてくれる。
なんて幸せで、そして残酷なんだろう。
「さ、行こか」
颯太のおむつを替えてから向かう。チャイルドシートに蒼くんが乗せてくれる。わたしは助手席に座るだけ。昨日も打ち合わせや作曲で忙しそうにしていて、何時に蒼くんが眠ったのか知らないぐらいだ。「好きで楽しくてやってるからなんもしんどくないよ」って蒼くんはよく言うけど、ほんまかな? って思ったりする。
1時間も経たずに、広い公園についた。颯太はすぐに走って公園に向かおうとするから蒼くんが慌ててあとを追う。わたしはゆっくり車から降りて、類斗を想う。ここに類斗がいてくれたらなって。そんな無理な話はないのに。妊娠も嬉しいはずなのに、不安ばかりだ。颯太はめちゃくちゃ安産だった。家でひとりでいる時に陣痛がきて、最初に連絡したのは類斗だった。
わたしはふたりを見守りながら、スマホで類斗に電話をかける。仕事中かもしれない。1コールしてすぐに切ったのに、すぐに折り返しがある。
類斗、とスマホに表示されるだけで胸が高鳴る。
「もしもし? ゆり、どうした?」
「あ、ごめんね仕事中だよね」
「移動中やから少しやったら大丈夫やで」
「実はさ……」
「ん?」
類斗の声が優しすぎて、わたしは泣きそうになる。
「2人目、妊娠してん」
一瞬間があって、なんかもう複雑な気持ちになった。類斗……。
「ほんま? おめでとう、身体大事にな」
「うん」
「ごめん、着いてもうたわ、また」
「うん、ごめんね。バイバイ」
ツーツーツー……胸が苦しくて、吐きそうだ。類斗、わたしはそれでも類斗で頭がいっぱいだよ?




