第24話「星々のセレナーデ編 第3話:空と星」
「だから言ってるんだろ、ヴェスパーにはこの機能が要るんだよ」
「その機能......必要ですか?ミウラさん」
急に黙り込んだカエルムが、こちらを見ていた。
「......なぁ、そのミウラさんって言うの止めねぇか?」
「なんか他人行儀って言うのが苦手でカエルムで頼むわ」
「俺も元々リラって呼んでるから」
「......わかったわ、カエルム......さん」
モジモジしながら言うな、こっちまで照れる。
「それにしてもコンセプトが合理的な非合理とはよく言ったもんだ」
「たしかにこれなら二人の共作する意味はありますけど、そう簡単にはいかないですよね」
同時に、ため息が漏れた。
「今日......あいつ、来てないのか......」
「なぁ聞いてもいいか?」
「なんで人形技師になりたいんだ?」
「ここに学んでる方って全員レグラード帝国工房を目指して入ってる」
「オートノミア自治国は遠い上に学ぶ機関がそもそも無い」
「私は、自分で工房を持ちたいのよ」
「――夢だから」
「俺も、工房をもちたいんだ」
「帝国工房に入れば確かに将来安定もするし、一番いい選択なのは分かる」
「けれど、俺の夢は工房を持って俺の人形を造るのが夢」
「......同じ夢なんですね」
真っ直ぐなその目から、視線を外せなかった。
「前に造ったアレ試してみてもいいか?」
そういってカエルムは人形の頭だけ持ってきた。
「それって、瞬きのやつ」
「今回コイツを改良して、使おうかなと」
「コイツなら少しのパーツだけでコストも軽いし配線もそんなに複雑じゃないからな」
「ちょっと見てもいいかしら?」
「おうよ」
中身を見て目を見開いた。
基本の配線周りは結構綺麗。
瞼の部分もきちんと眼球に合わせて繊細な造りをしていた。
......無駄にまつ毛まで装飾されてるくらい細かい。
起動してみると綺麗に瞬きをしていた。
同時にプログラムコードを見てると、奇妙なコードがあった。
「なにこのコード?」
「それかそれはサッカードコードだな」
「人は無意識に眼球が動くんだよ、それを再現した」
あー......またこれ喧嘩するやつだな。と身構えた。
「......凄いわね、これ」
「この省スペースに瞼を追加して瞬きも入れて尚且つ無意識に眼球まで動くとか」
「カエルムの人形には愛が込められてるのね」
優しく微笑んだ。
――その表情から、目を逸らせなかった。
ラフェリウス皇子がカエルムに一目置いてる理由が少しだけ分かった気がした。
――悔しいけど、納得してしまった。
「あの授業後リラの人形の配線とか見てリケーブルし直したんだ......」
「だから今の省スペースになってるのは――リラのおかげだ」
私は、目を見ることが出来なかった。
顔を真っ赤にし、
中々認めない人が認めるのってこんなに恥ずかしいものなの?
とさっき自分で言ったことを――少しだけ後悔していた。
「この機能入れてみない?」
私はたまらず人形を見て言った。
「これなら処理もかなり軽いし、カエルムの良いところが出せる」
「私が基本を造るからカエルムは他にもアイデアあったら言って」
「わかった、頼りにしてるからな――リラ」
その一言が胸の奥に小さな火が残った。
―次の日―
アトリエに集まったチーム双星。
「ここ無駄すぎるな、これだとそっちに負担がいく」
「ちょい削るか」
「こっちは大丈夫だからそのままでも大丈夫」
「いや、リラに甘えるのは悪いからこっちで削れるところはこっちでなんとかするわ」
「......昨日なんか在った?」
一瞬、空気が止まった。
「なんもない!」
「なにもないです!」
――胸の奥の火が大きくなっていってるのが分かる。
こうしてあっと言う間に2日間の発表祭がやってきてしまった。
学園では出店等いつもとは違う賑わいが訪れた。
初日は俺達の出番はないからゆっくり出来る。
俺達のヴェスパー・デュアリスを完成させた。
リラが組んだ基礎骨格や回路には無駄がない。
俺が足した視線制御や表情補助は、その隙間に入り込むように収まっていた。
まるで最初から、そこにあるべきだったみたいに。
「発表祭まで時間まだあるけど僕は家族が来るから悪いけど離れるね」
「2日目の講堂で合流しよう」
そう言ってラフェリウスは離れた。
今日は国王......アイツの親も来るのか。大変だな。
リラに目を向けた。
「......どうしますか?カエルム?」
悩んでたら――
「キャッ!」
リラは人込みの多さで人にぶつかって倒れそうになったので腕を掴んで引き寄せた。
抱きついてるような恰好になり、
心臓の音がやけに響いていた。
――これ、絶対聞こえてるだろ。
なのに――離したくないと思ってしまった。
「っ......!」
リラの肩が、小さく震えた。
「悪い、大丈夫か?」
「......ええ」
肩を優しく抱いて静かに離した。
――温もりだけが、妙に残った。
「その......時間もあるし俺回る相手居なくなったから一緒に回らないか?」
「......はい」
小さく頷いたその声は、少し震えていた。
少しだけ距離が近かった。
――どちらからともなく、手が触れた。
一瞬、引こうとした。
指先が、わずかに離れかける。
けれど――
俺達は自然と手を繋いでいた。
――それは、合理的じゃない選択だった。
それでも――間違いだとは思えなかった。
「......いよいよか」
昨日までとは、何かが変わっていた。
俺は自分の手を見た。
手をギュッと握り、拳を作った。
その手にはまだ消えない熱が微かに残っていた。
講堂の奥から、俺達の名前が呼ばれた。
『続きましては、チーム双星』




