第21話「Lacrimosa: The Incomplete—K.626 VIII -涙の日-」
『Deus ex Machina――起動』
キュウイイイイイイイイイイイン!!!
エネルギーを限界まで圧縮し、白い小さな球体がイオの手から落ちる
その刹那――
「それを使うんじゃねぇ!!」
「カイトォ!!」
聞き覚えのある声だった。
ハンマーがイオの手を上空のほうに弾いた。
次の瞬間―
光が、闇ごと弾けた。
遅れて、音が来た。
激しい爆風が、空を呑み込んだ。
爆風の勢いは地上をも穿つ。
そして――
雨は止んだ。
「これが、古代人形の力......」
アルは爆風の衝撃で眼鏡が割れていた。
「......なんだこりゃ」
「これが陛下が仰ってたことか」
「お父さん!」
「くっ、あぶねえ」
「間に合ったか」
鈍い音が、響いた。
一瞬――
時間が、止まった。
「ヴッ......」
イオの左手に持つ剣はカエルムの背中から貫いていた。
「......え?」
「......!」
「......やっぱ、システムが許さなかったか......」
「いい判断だ......」
カエルムは背後にいるイオに視線をやった。
剣は無情にもいつもの動作で抜かれた。
イオの顔は一瞬驚いて歪めたように見えたが、その顔は誰も見てなかった。
「……カイト……」
「お前も……人間だ……」
「迷え......考えろ......」
「悲しいときは泣け......」
「嬉しいときは笑え......」
「前を向いて生きろ――」
「エストを頼んだ......」
視線がエストに向く。
「カイトとイオを責めるな......」
「信じたものを信じろ」
「しゃべらないでお父さん!!」
「エスト――愛してる」
パシャン。
その手は地面に触れた。
『最適解――未達成』
「お父さぁんん!!!」
「カエルムゥゥ!!」
――止められたはずだった。
なのに、体は動かなかった。
俺の中で何かが完全に崩壊した。
――大切にしてたものが、この手から零れ落ちた。
『エネルギー残量......低下......』
イオの翼が、明滅する。
一瞬だけ――
バランスを崩した。
『カイト......様......』
その声は、ノイズに途切れていた。
一歩、踏み出そうとして――
膝が折れる。
カクンと、体が沈む。まるで糸が切れた人形のように。
『出力......維持......不可......』
それでも、
その視線だけは、カイトを捉えていた。
『――最適解......継続......』
手を伸ばしたところで羽は四散し、イオは完全に停止した。
帝国兵も恐怖で足が動かなかった。
動けたのは――自分とヴァルトだけ、か......
「カイト、エスト今のうちです」
「今しかないこの好機を逃す訳にはいかない」
エストは動かなくなったカエルムの体を強く抱きしめ泣き叫んでた。
「エスト......すみません」
アルはエストの頸椎に手刀し意識を断った。
親子を引きはがし抱きかかえてカイトに呼びかけた。
「カイト......死にたいならここでさよならです」
「生きたいなら――来てください」
「......これが最後です」
振り返らなかった。
――振り返れなかった。
ヴァルトも兵の状況、カエルムを見てカイト達を追えなかった。
「引くぞ......」
「人形とカエルムは回収しろ」
「動けるものは負傷兵に手を貸せ」
カイト達が去っていくのを、ただ見ていることしか出来なかった。
残酷にも空には綺麗な虹がかかっていた。
抱えられたエストから、大粒の涙が地面に落ちる。
ぽたり、ぽたりと――
それは足跡のように――続いていった。
Lacrimosa dies illa,
qua resurget ex favilla,
judicandus homo reus.
――俺ハ、未完成のままダ。
第1章:レグラード帝国編―最適解完了―




