第20話「Tempest: The Choice — Op.31 No.2 -嵐の中の選択-」
ザァアアァ―――――
馬の嘶きと共に停止したアル。
俺の視界もだいぶ回復してきた。
止まった先には、
「遅いっすよ、カイトさん」
エストが少し大きな樹の下
「......無事でよかったっす」
「信じてたっすよ......」
「感動の再会をしたところ悪いのですが、追手が来てます――行きましょう」
アルは咳払いと眼鏡を上げ馬を走らせた。
「正直あの場に居たっすが何も出来なくて暴れてやろうかって考えてたっす」
「アルさんに手を取られて、カイトさんの救出の話を聞いたっす」
「それで頼まれて逃げる準備してたっす」
彼女はこっちを見て笑った。
「......エスト、ごめん」
言葉は出た。
だが、何に対して謝っているのか――分からなかった。
「気にしなくてもいいっすよ」
「資格よりも大切なものってあるっすから」
「それが二人だった......それだけっすよ」
エストは恥ずかしそうに前を見た。
「ッ――追いつかれそうですね」
「やはり急拵えの馬だと帝国の足には敵わないみたいですね」
「――どうする?」
「敵が増える前に片付けましょう」
「でも俺武器が――」
アルは背中のマントを捲った。
「武器ならここに」
「トレイター!?」
見ただけで鼓動が早くなった。
「なんで?どうやって?」
トレイターを握った瞬間、思考が静かに整っていくのを感じた。
「......秘密です」
「......それと、いや今はいいでしょう」
早い!一直線にこちらに向かってくる。
軍用の熱センサーの感度が良すぎる。
ぜひ“こちら側”にも欲しいくらいですね。
「この先少し開けてるのでそちらで迎撃しましょう!」
「はいっす」
「......ああ」
横殴りの雨の中――
俺達は、迎え撃っていた。
視界は最悪。地面は泥。足場は滑る。
それでも――
「来るっす!!」
エストの声と同時に、影が突っ込んできた。
数は......多い。
十、いやそれ以上。
「前出る」
短く告げた瞬間、身体が自然に動いた。
踏み込む。
滑るはずの地面で、足が止まる。
「......コロセ」
――誰の声か分からなかった。
最初の一人。
振り下ろされた剣を、紙一重に躱す。
トレイターが迷いなく動いた。
鮮血が雨と混ざる。
敵は膝をつき、そのまま崩れた。
「右三!」
アルの声。
考える前に身体が動く。
右に半歩。
振る。
斬る。
撃つ。
一人、二人。
アルに近づく前に落とす。
「カイトさん、後ろっす!」
振り返らない。
背後の気配だけで引き金を引いた。
悲鳴。
倒れる音。
――問題ない。
恐怖も無い。
焦りも無い。
ただ
快楽だけが残っていた。
――斬るほどに、楽になる。
「っ、数が......!」
エストが押される。
二方向から囲まれている。
助けるか?
――不要。
一瞬、思考が走る。
「左ハ捨てろ、前だケ潰せ」
自分の口から言葉が出た。
「えっ――」
エストが一瞬迷う。
その一瞬で一人が踏み込む。
間に合わない。
トレイターの銃口が火を噴いた。
敵の頭部が弾ける。
「......今の判断、」
アルが低く呟く。
無視する。
次。
次。
「次ノ獲物はどいツだ?」
――人に見えなかった。
ただの“数値”にしか見えなかった。
泥が跳ねる。
血が雨に流れる。
剣がぶつかる音が連続する。
もう何体斬ったか分からない。
それでも――
減らない。
「......囲まれてますね」
アルは静かに言う。
その時だった。
「――いい動きだ」
低い声。
雨の向こう。
一体、立っていた。
他の獲物と違う。
動かない。
ただ、こちらを見ている。
「隊長......!」
兵士が声を上げる。
ヴァルト。
「数に頼る戦いはつまらんが......」
一歩、踏み出す。
水溜まりが弾ける。
「追い詰めるには十分だな」
空気が変わる。
次の瞬間――
消えた。
「ッ!?」
視界からの消失。
右。
違う。
左。
違う。
......上。
「遅い」
振り下ろされる刃。
ギィン!!
トレイターで受ける。
火花が散る。
重い。
「その目......ずいぶんと楽しそうだなオイ」
ヴァルトが笑った。
俺が楽しソウ?
ヴァルトが装備してる鎧から反射して俺の顔を見た。
――泥と鮮血まみれで笑ってた
「快楽に溺れてる目だ」
弾く。
距離を取る。
「カイトさん!!」
エストの声。
同時に横から二体。
撃つ。
斬る。
潰す。
ヴァルトがまた消える。
「数で削り、隙をつく」
声だけが背後に落ちる。
「王命だ。逃がさん」
囲まれる。
完全に。
「さて――どう選びますか?」
アルが問う。
その声は冷静だった。
だが
どこか試している。
雨が強くなる。
視界が歪む。
息が荒い。
『――最適化します』
その声は、どこか“遅れて”聞こえた。
――まるで、俺の思考をなぞるように。
俺は迷わなかった。
迷う必要なんてなかった。
生存率。
リスク。
犠牲。
快楽。
「コロセ......」
答えは出ていた。
トレイターを握る手に、迷いは無い。
......分かっていた。
これを使えば、全部終わる。
これが、
こレが――俺ノ最適解ダ――
「――イオ、デウスエクスマキナ......展開」
それが何を意味するか、分かっていた。
それでも――口は止まらなかった。
コロス。
......キモチイイ。
――もっと。
『―命令―確認しました』
『“最適解を実行します”』
「カイトさん!イオだめええええええ!!!」
エストの叫びはイオの背からの光でかき消された。
次の瞬間――
機械の翼が、展開した。
音が、消えた。
雨が、一瞬だけ停止した。
【D――Define(定義)】
――無機質な音声が、響いた。
【I――Integrate(統合)】
【V――Validate(検証)】
【A――Answer(解答)】
風の音と共に俺達の視界からイオは消えた―
気づいたときには――
イオは、空にいた。
......手が届かない場所に。
『Deus ex Machina――起動』




