第16話「Overture of Destruction—K.626 I -破滅の序曲-」
イオの調査が難航してるとのことで王が俺達を呼び出した。
今日もアルは朝から居ない。
「よく来てくれたカイトよ」
「すまんがイオの調査が難航しておってのすまない」
「頭をあげてください、ラフェリウス王」
「本日はどのような要件でしょうか?」
「カイトに頼みがあるのじゃが、よいか?」
「......はい」
嫌な予感がした。
「カイトよ、イオを手放しては貰えぬか?」
ドクン。
胸が、嫌な音を立てた。
(なんだ......今の......)
「どうしてイオなんでしょうか?」
「イオは帝国製では解読不能の緻密な機構が備わっておる」
「もちろんオートノミア製よりも遥かに高性能じゃ」
「余はそれを解析して今後帝国の繁栄と民を守る為に、その力を使いたいと思っておる」
「協力してくれるかの?」
王は、頭を下げた。
守る為か。
分かる。
分かるけど――
「すみません、イオはどうしても手放せないです」
言葉が出た瞬間、
頭の奥がチリッと焼けるような感覚が走った。
(......なんだ、今の)
「俺にはイオが傍に居ないとダメなんです」
「仮に他の人形でもイオとは違うのでやっぱりイオじゃないと」
ズキッ
頭が痛い。
けど――
妙に、気分がいい。
(......なんだこれ......)
「......本当にすみません」
俺は頭を下げた。
イオは、イオだけはどうしても傍に居てほしかったから。
裏切らない存在がいる世界が当たり前だから。
イオは一瞬だけこちらを見た気がした。
「......そうか、それは仕方ない」
次の瞬間――
「衛兵よ!この者達を捕えよ!」
空気が、一変した。
バタン!何十人者の兵士が謁見の間になだれ込んできた。
「この者達は違法人形所持罪と登録詐称罪の容疑者達であるぞ!」
「そこの違法人形捕えよ!第一優先じゃ!」
イオを狙ってる。
最初から、そのつもりかよ。
「この二人を牢屋に連れてけ!」
「王よ!!なぜこんな横暴を!?」
「カイトさん!今は従ったほうがいいっす!」
従う?
頭の奥で何かが囁いた。
......裏切り者は――殺せ。
ビキッ
激しい頭痛。
だが同時に、ぞくりとした快感が走る。
――壊せ。
(うるさい......誰だ......)
「イオ、この場にいる俺とエスト以外を無力化してくれ!」
「......」
「イオ......?」
反応がない。
「イオ、命令だ。無力化しろ!」
「――実行不可」
その一言で、
何かが壊れた。
「......なんでだよ」
「......お前だけは、違うだろ」
――裏切られた。
頭の奥で何かが弾けた。
「お前らなにかイオにしたのか?」
「それが最適だからだ!」
最適。
最適だ。
最適だ、最適だ、最適だ――
うるさい。
「カイトさん!!」
どうでもいい。
......イオさえいればいい。
俺はトレイターを抜いた。
ドクン。
剣が応えたような気がした。
――そうだ。それでいい。
心臓が軽くなる。
頭の痛みが、消える。
――軽い。
「......ああ......」
振るった。
血が飛んだ。
「何をしておる!」
王の声が遠い。
――もう、どうでもいい。
......ああ。
やめられない。
「はやくこの者を捕えよ!」
もっと。
――壊せ。
ガンッ!!
「カイト兄さん、させないよ」
剣が止められた。
視線を上げる。
「......なんで、お前はそこにいるんだよ」
「ディロッサス!助かったぞ!」
王の声。
ディー。
いや――
皇子。
「ディー止めるな!殺すぞ」
「怖いですね――でも」
ギャイン!!
トレイターが床に転がる音が響いた。
「――弱いですね」
トレイターが手から離れた瞬間――
ズキンッ!!
頭が割れるような痛みが走った。
さっきまでの“軽さ”が嘘みたいに消える。
「......っ、返せ......」
無意識に、そう呟いていた。
――ないと、ダメだ。
ないと――壊れる。
壊れる。壊れる?
なんで――?
「何も周りを見えてないですね」
「大人しく捕まってください」
(うるさい......黙れ......)
頭が割れそうだ。
――殺せ。
「ディーおまえぇ......」
「ごめんなさいカイト兄さん」
ほんの一瞬だけ――
あの時と同じ、優しい顔をした。
「......でも」
次の瞬間、
それは消えていた。
「これも守る為なんです」
ドンッ
衝撃。
呼吸が止まる。
「カハッ......」
俺はその強すぎる衝撃に耐えられなかった。
ディーは、町で見たときの優しさが嘘みたいに
何の迷いもない目をしていた。
意識が落ちる。
その直前――
白い髪が見えた。
「イオ......どうして......」
でも、
イオは――
その瞳には、俺は映っていなかった。
――いや、違う。
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ、
“俺を見て”、そして逸らした。
まるで――
「不要」と判断したみたいに。
白い髪が、遠ざかっていく。
――そう思った瞬間、
“何か”が壊れた。
いや、違う。
壊れたのは――
「イオは裏切らない」
そう信じていた、自分の方だった。
音が、消えた。
――でも、
心の奥で、
“何か”だけが、笑っていた。
――ようやく壊れ始めたな、とでも言うように。
......静かだった。
何も、残っていなかった。
――音が、戻る。
……DIVAプロトコル:アップデート中……
……進行率:93.7%……
......対象:――
......最適化中......
......対象:K-0
――完了
......応答、待機中......
......対象:Unknown
......
......対象、更新......
......完了




