第15.5話「閑話休題:帝国レグラードにて」
―レグラード王城―
「子とライラは今日は何をしてるんだ?」
「はい陛下、」
「ライラ王妃殿下とモデナ王女はオートノミア自治国にて外交でございます」
「一月前後でお帰りになると思われます」
「......そうか」
「ディロッサス皇子は離れにて家庭教師からの学習中でございます」
「そうか。報告ご苦労。下がって良いぞ」
「ありがたきお言葉」
王の執事を下がらせたあと
私は家族には口ぶりとは違って、
“あまり関心を持たないようにした”。
私が愛したが為に、家族は刺客に狙われることになった。
だからこそ――
愛しいライラと我が子達の為に愛を押し殺していた。
「......守る為なら私はなんだってする」
「――だからこそ、捨てるものは最初から決めてある」
「例外はない」
「例えこの世界を裏切ろうとも――」
私以外誰も居ない静寂な玉座の間に発した静かなる言葉が響いた気がした。
―首都グラン・レグラード内―
俺は買い物を終えてミウラ工房に戻るところだった。
なにか騒がしい。
「ヒャッハー!オラァ早く金を置いてけ!」
「いいのか?――こいつにやらせてもいいんだぞ?」
モヒカン男は似合いそうな台詞で少女を脅していた。
男の傍にいたツギハギのパーツで武装した人形は何も答えてくれなかった。
「......私は、何もしてない。誰か助けて......」
少女の声は付近にいる人には届かず、動揺していた。
「なんで......?」
「ウヒャヒャ!そりゃそうっしょ?」
「人はお前みたいなビンボーなやつを救わない!」
「つまり、お前は見捨てられてるんだよぉ!」
そう言って男は少女の身体を舐めまわすように見た。
「俺っちなら、お前を救ってやれるんだよ」
「お前はその対価をその身体で払う。悪くないだろう?」
「......味見してやるか」
「おい、手足を押さえておけ」
「止めて!助けてお願いします!」
無慈悲に人形は押さえその間に男はズボンのチャックを下げた。
「ヒィ!たすけ――」
「やめ――」
俺が入ろうとした瞬間、
「そのへんにしとけよ、おっさん」
......早い。
俺は一瞬躊躇してしまった。
――怖かった。
最初から迷うという選択肢がないんだ。
「おっさんだぁああ?」
「誰だ言ったのは?」
「オレだ。そんないたいけない少女捕まえて裏に売り飛ばすってか」
「やってることが悪すぎだろ」
「あぁああん?なんだお前このガキが痛い目見たくなかったら失せろ!」
今にも狼みたいに噛みつきそうな勢いで睨む。
「見過ごす理由がない」
「その少女は何もしてないだろ」
「だから解放しろ」
「なんだ?てめぇ貴族か何かか?」
「オレはそんな貴族様ではない」
鼻で笑った。だがほんの一瞬だけ、何か言葉を飲み込むような表情をした。
「コイツはスラム出身で盗みを働いていたんだわ」
「そのぶんどう保証してくれる?」
「そうなのか?」
「......うん」
「そうか、親はいるのか」
「――居ない」
青年は男を見た。
「......いくらだ?」
「何?」
「その少女が盗んだ金額だ」
「手数料込みで金貨10枚だ」
「!......私はそんな価値のモノ盗んでない!パン3つしか盗ってない!」
「ウヒャヒャ!言っただろ?手数料込みだってな」
「違法人形に恫喝、あげく詐欺か」
「クズだな――」
その瞬間、青年は男のみぞおちに拳を振り抜いていた。
間髪入れず、人形の背後の蓋を破壊し、キルスイッチ押し――無力化。
あまりにも早い無力化。
チャリーン
小銀貨1枚を男に向けて弾いた。
「パンと手数料代だ。釣りはいらないとっとけ」
青年は少女の手を引き表通りに来た。俺と目が合った。
「お兄さんもついてきて」
俺は気になったので着いていった。なんで着いてこいなんて言われたのかも分からない。
「お前は盗みなんてマネはするなよ」
「でも、妹と弟を食べさせないと」
「ギルドは歳が幼いから何も出来ないし、私はスラムだから働き口なんてどこにもない」
「そうか......ハーレ」
「はい、坊ちゃん何か御用で」
いつの間にか俺の背後に立派な口ひげの白髪の老人が立っていた。一体どこから?
「この子に出来る仕事はないか?」
「はい。ございます。そちらで働かせますか?」
「ちょっと待ってくれ」
青年はハーレ老人を止めて
「名前は?」
「レイン・ハイドランジア」
「レイン・ハイドランジア、これからちゃんとしたマトモな仕事を任せる」
「そのぶんきちんとお金も出す」
「見ず知らずのオレをレインは信じられるか?」
「――うん」
「不安だけど生きていくのにちゃんと仕事ならお兄さんを信じる」
そう聞いて青年は少女の頭を優しく撫でた。
「そっか――ハーレ、レインを任せてもいいか?」
「はい、お任せくださいませ。坊ちゃま」
「坊ちゃまも、頼みますぞ」
「......ああ」
「じゃあなレイン、またな」
老人は少女の手を引きこの場から離れていった。
ヒラヒラと手を振って、ハーレとレインを見送った。
「......それで、なんで俺は呼ばれた?」
「お兄さん、止めようとしてたから」
「他の人は見て見ぬふりして素通りだったけどお兄さんだけは違ったから」
「オレは、救えるものは全部救いたいんだ」
「――見捨てたくないから」
「それが人であれ人形であれ......魔族であれ」
「――だから、見て見ぬふりは出来ない。そういう不器用な人間なんだ」
そう目を細めて二人が去ったほうを見て青年は言った。
「それにしても強いな」
「そうだね......オレは昔から守る為に鍛えられてるから」
「お兄さんは冒険者?」
「ああ。そうだよ。ええと、」
「オレはディー。お兄さん名前聞いてもいい?」
「俺はカイト。よろしくなディー」
「うん。よろしくねカイト兄さん」
「ディーはあの男にお金を渡してたけど貴族か?」
そういうと少しだけ言葉を選びつつ否定した。
「......ううん。オレは貴族じゃないよ」
「ただ、少しだけ家の環境がよかっただけの“一般人”だよ」
話したくなさそうだからこれ以上は何も言わなかった。
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俺達は近くのカフェに移動してお互いのことを話してた。
「なるほどね、カイト兄さんはここまで旅をしてきたんだね!」
「オレもいつか世界を観て回りたい」
「まだ帝都から出たこともないから......」
その言葉と悲しい表情がなんとも言えない気持ちになった。
「それじゃそろそろ、やることあるからオレも行くね」
「長居しちゃったね、ありがとう」
「カイト兄さん、また会って話そう」
「なんだかカイト兄さんとは長い付き合いになりそうだから」
俺はこの時、ディーの言葉の意味を理解できなかった。
街中で偶然出会っただけの存在だったから。
「それじゃあね。カイト兄さん」
そういって二人が去ったほうとは違うほうに歩いて去った。
とても真っ直ぐな目をしてた。
俺はいつだって戸惑って、迷って、誰かに裏切られることを怖がっていた。
だからこそ、あの真っ直ぐさが眩しかった。
「みんなと会わせてあげたいな」
そう俺はその真っ直ぐさに同じ男として惹かれてた。
......ああいう風に、迷わず選べる人間になれたらよかった。
でも――その時の俺には、まだ分からなかった。
あの選択が、何を壊すのか。
――その時の俺は、そう思っていた。




