第14話「不穏の始まり」
「......これは」
「こいつぁ、確かにやべぇな」
「こいつぁ......触れちゃいけねぇ類だ」
工房のツートップが息を呑んでイオの中を観て思わず漏れた一言。
「これはたしかにエストさんの言う通り普通の人形じゃない」
「パッと見てもフレーム、内部機構、どれも普通の人形とは違いすぎる」
「......違う。これは“設計思想”が違う」
「とりあえずカイトさんにはワンオフの違法人形の可能性があるっす」
「......そう伝えたっすがアタシでも分からないっす」
「お二人もそう思うっすか?」
「......ああ。これは間違いなくどこのやつでもねぇ」
「外装から内装に至るまで完全に“全てオリジナル”」
「ワンオフなら診たことあるが、どこかしら破綻していて不具合やエラーを起こしてた」
「だが、このイオって人形は何一つ破綻もしてねぇ」
「完璧なワンオフだ」
「こんなの存在していいのですか?親方?これは大事件ですよ!」
「今すぐにも処分したほうがいいですよ!」
「待て、この人形――」
DIVAの文字が刻まれた蓋を空けるとそこには小さなモニターがあった。
……DIVAプロトコル:アップデート中……
……進行率:80.9%……
……外部干渉:拒否……
「なんだこりゃ」
「前はこんな表示なかったっす」
「初めて見たっす」
「なんかのプログラムをアップデートしてるな」
「調べられるか繋いで確認してみっか」
「親方!これ以上は危険です!止めておきましょう!」
「わりぃわりぃ、ついついクセで」
「そうだな......俺らが出来るのはここまでだな」
そう言って蓋を閉じた。
「エストちゃん、カイトさんが来てるわよ」
「こっちは任せていってらっしゃい」
「わかったっす。行ってくるっす」
エストが去り、片付けしてるカエルムとウラコ。
「これは......俺らの手に負えるヤツじゃない」
「国に報告する義務がありそうだ」
「......報告しなきゃならねぇ。見なかったことにはできねぇ」
「そうですね......それしか方法はなさそうです」
イオのDIVAの文字を見ながら片づけを続けてた。
イオも含めて俺達は総工房長室に案内された。
「俺がこのミウラ人形総工房長やってるカエルムだ」
「こいつは副工房長兼総工房長代理のウラコだ」
ウラコは頭をこちらに下げ挨拶したがその目はどこか恐れていた。
「カイトです。よろしくお願いします。イオを見てくれてありがとうございます」
「アルです」
「気にすることはねぇよ、娘のエストの頼みだったしな」
「それに俺自身気になったからな」
少し恥ずかしそうに言った。親子なんだなこの二人は。
「結論から言うと国に任せることが一番いいと俺とウラコは判断した」
「エストの言う通り違法のワンオフと俺らも判断はした......が――」
「あまりにも人形として違いすぎる。だから俺らもお手上げってことよ」
「それに違法を匿ってたとなるとウチにも色々あるからな」
「折角帝都まで来て悪いな」
「いえ。エストにはここまで良くしていただいて心から感謝してます」
「無理言って観ていただいただけでもありがたいです」
「分からないことが分かった」
「それだけで、十分です」
「ごめんっす」
「報告はこっちでやっとくわ」
「わりぃけど、正体不明なやつを抱えておけねぇ」
「ミウラ製のライセンスも取り下げ申請もしておく」
「今日はウチでゆっくりしていけ」
「何から何までありがとうございます。本当に助かります」
外に出るともう夕方だった。
「工房の裏の建物が家なんだな」
「......そうっすね。カイトさん、力になれずごめんなさいっす」
エストは勢いよく頭を下げた。
俺はエストの目を真っ直ぐ見た。
「エストには本当に助けて貰ってばかりだよ」
「人形のこと、生き方」
「星のように輝いてる」
「そんなエスト......俺は好きだ!」
「――その恋人にしたいとかそういうのじゃなくて」
俺なに言ってんだ。ちゃんと伝えないと......
「俺、エストに出会えて本当によかった」
「これからも、イオも含めて仲良くしてくれたら嬉しい」
手を差し出す。
俺は迷惑かけてばかり、それでも今の俺には感謝しか伝える能力がない。
少しでも彼女の負担にならないようにしたい。
「ありがとうっす。ごめんっす」
彼女の目からほろりと涙が零れた。
黄昏の光に照らされて、彼女がやけに綺麗に見えた。
手をとられた瞬間――手を引っ張られた。
「この先が家っす」
振り返ることなく前を見て小走りながら彼女は言った。
手をとったアタシは、そのままカイトさんを引っ張ったっす。
今はまともにその真っ直ぐな瞳を見ることが出来なかったっす。
あぁ、黄昏時でよかったっす。
――今の夕日と同じ色の顔を誰にも見られなくて済むから
――夜ミウラ宅にて
「カンパーイ!!」
グラス同士当たる音を合図に宴会が始まった。
「わぁあ今日はごちそうっすね!」
エストはテンションが上がっていた。
「ウフフ。エストちゃんが帰って来て嬉しいわ」
「それに......」
リラさんの視線が俺とアルに向けられた。
「娘がイケメンな彼氏を連れてくるなんて」
「うう゛ぅごほごほ」
俺は派手に咽た。
「――!」
「違うっす!」
「カイトさんとアルさんはそんなんじゃないっす!」
「アタシは......」
そんな顔で俺を見るな。
「そうです。自分はあくまでも任務でカイトさん達に同行してる身なので」
アルが眼鏡をあげて一蹴した。
「それにさっき、」
アルはフッと笑い俺を見た。
「カイトさんがエストさんに告白していたので、」
「話はカイトさんから聞くといいでしょう」
「ちょ、アル!」
「――!」
「あらあら、まぁまぁ」
「お母さん!違うから!」
その様子を見ていたイオは一瞬だけだが口角があがった。
残念ながらこの場にいた誰も見てなかった。
――そしてその口角がすぐに戻ったことにも、誰も、“イオ自身”も気づかなかった。
窓の外に広がる満天の星たちだけが、ただそれを知っていた。
――リースペリア城塞にて
......ふう
窓に写る星を見ながら溜息をついていた。
「ヴァルト隊長失礼します」
「報告します」
「先日馬車を襲った違法人形からは何もありませんでした」
「......そうか」
「それと、馬車に乗ってたミウラ製オーダーメイドイオ機ですが、」
「現在所在地が帝都になっております」
「ミウラ工房からのアクセス、冒険者ギルドのやり取りが帝都で確認されております」
「先ほど国にミウラ製のリストからの削除要請と、」
「調査依頼があったみたいです」
「どうやら遺跡からのヴィンテージ物で解析不可能と」
「――それだ!!」
「そのイオが当たりだ!」
「今すぐ人を集めろ!急いで帝都に戻るぞ!」
「いいか、イオが陛下が求めてる人形だ」
「見つけ次第、捕縛しろ!」
「破損だけはさせるな」
「はっ!」
バタンッ
勢いよく扉が閉まり
俺はグラスに残ってた蒸留酒を煽った。
......俺も出るか
「待ってろよ......」
「遠回りさせやがって......」
「“アレ”は――帝国の物だ」




