第10話「トレイター」
パサッ
机の上に積み上がった、何百枚もの資料。
その一枚一枚に目を通し、不要と判断したものを脇へ弾く。
「チッ......これも違う。“該当個体”じゃない」
コンコンッ
「入れ」
「失礼します――ヴァルト隊長正規認定のリストをお持ちしました」
「わかった。そこに置いて、下がれ」
「あぁ、それと冒険者ギルドのほうも調べておいてくれ」
「はっ。了解です。すぐに調査を致します」
「頼んだ」
「失礼致します」
これだけ違法個体を洗っても出ないとなると――
正規か、あるいは......
他国に流れてる可能性が高い。
(他国だった場合は、終わりだな)
冒険者ギルドも調べて何か痕跡ないか徹底的に調べる。
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プラスコーに到着した俺達は馬車乗り場に来ていた。
「馬車使うのか?」
「はいっす、流石にここからだと遠いっすからね」
プラスコーはレグラード山脈が近いのか少し肌寒かった。
レグラード帝国は、首都からこのプラスコーまでを大山脈が隔てている。
南から攻めるなら、西か東に回るしかない。
山越えもあるにはあるが――
......補給が持たない。現実的じゃない。
「ここはリースペリアと違ってあまり大きくない町なんだな」
「そうっすね、そもそもリースペリアは帝国の中でもかなり大きい都市っす」
「町規模になるとこのくらいの大きさっすよ」
「のどかでいいな」
「そうっすね」
馬車乗り場に来たのだが――
「ずいぶん人多いっすね」
「このぶんだと今回は乗れなさそうっすね」
「ちょっと聞いてくるっす」
エストは人込みの隙間を縫うように、トコトコと先頭へ向かっていった。
「なぁ、イオ」
『はい。なんでしょうカイト様』
「今まで......俺が悪かった」
「ごめん」
『カイト様、私の行動で心を痛めてるなら、』
『......気にしないでください』
『私は、カイト様のために存在しているのですから』
「イオ、エストのことはどう見えてる?」
『“どう”とは抽象的で分かりませんが、』
『彼女は明るくとても真っ直ぐで人形に対しても愛を持って接してると判断しました』
『ですが、その愛が時々暴走することがあるのが返答に困るときがあります』
まぁ、前ほどじゃないけど何かあればイオをばらそうとするから、
イオにとっては困るんだな。
「イオは......」
「......聞いてきたっす」
エストが戻ってきた。
「どうやら最近、帝国内で検問が強化されてるっす」
「理由はおしえてくれなかったっす」
「今回は乗れないっすが、二日後の馬車に乗れそうなので予約してきたっす」
「ありがとう。エスト」
「それまでどうする?」
「そうっすね、まずカイトさんの装備を見直すのがいいのかなって思ってるっす」
「道中結構使用してたっすよね」
あの後も魔物に何度も襲われ、武器はかなり酷使していた。
「装備もいざってときに備えておくのが冒険者としてのポイントっす」
「仕方ないか、シルバーランクの冒険者様の助言に従いますか」
エストはこう見えてもシルバーランク冒険者だ。
エストは仕事柄、
鉱山に住む魔物を討伐する機会もあるからついでに登録したとのこと。
ちなみに俺は登録したばかりで一番下のカッパーランクだ。
「今はアイアン系の武器っすよね」
「そうだな。オススメはあるか?」
「そうっすね。順当にいくなら鋼の装備っすかね」
「とりあえずアタシは宿探しするっす」
「カイトさんとイオは武器屋で新調するっす」
「とりあえず武器屋の位置は知ってるのでそちらで待っててくださいっす」
「武器屋は中央通りから西の通りにあるっす」
「すぐ分かると思うっす」
「それじゃまたあとでっす」
「ああ、じゃあ武器屋でな」
「ここか......」
俺達は武器屋に到着した。
リースペリアと違って店内は狭く無骨な店内だった。
「......いらっしゃい」
無骨な店員を横目に商品棚を見て回る。
目的の剣と盾はすぐに見つかった。
ふと視線を逸らすと、立派なショーケースに入ってる見慣れない武器があった。
黒曜石のように鋭く――
どこか“歪んだ”輝きを放っていた。
「店主、この武器はなんだ」
「ああ、それか――」
「“ガンソード”だなそれは」
「銃と剣が合わさった武器でな、近接中距離ならこいつ一つでいいって寸法だ」
「ただ難点があってな」
「難点?」
「まず剣と銃両方使い慣れてないと“器用貧乏”になる」
「あとは銃で狙いをつける以上、大盾が装備が出来ねえ」
「銃部分の機構がキズついたら修理しない限り剣で戦っていくことを強いられる」
「まぁその代わりに、自分で援護しつつ自分でアタッカーもこなせる」
「ソロアタッカー向けの武器だな」
「それに玄人向けだから人気もあまりねぇな」
「それにそのガンソードは少々特殊でな、なんでも“持ち主を選ぶ”らしい」
「合わなかった奴は、まともに扱えねえって話だ」
「その話を聞いて買う客がいないんだよ」
「......そうなのか」
(妙に気になるな)
「イオ、鑑定って出来るか」
俺はイオにこっそり鑑定を頼んだ。
『鑑定開始......』
わずかに、空気が重くなる。
『鑑定結果――』
『武器系統:ガンソード』
『素材:――解析不能』
『個体名――』
『“トレイター(裏切り者)”』
裏切り者......か。
......笑えない名前だな。
「これ、いくらだ?」
「それか?白金貨一枚だ」
ええと、白金貨一枚が一番通貨が低い銅貨十万枚か。
武器にしては明らかに高すぎる。
今俺が使ってるアイアンソードとアイアンシールド合わせても、
銀貨八枚と小銀貨五枚だぞ? 銅貨換算したら八百五十枚
でもいまの手持ち合わせれば買えなくもない。
悩んでいると
『個体名持ちはレアです』
『ネームドは白金貨十枚以上はかかります』
『結論:市場価格と比較して安価です』
「なるほど。“お値打ち価格”ってことか......」
その剣から、目が離せなかった。
......いや、違う。
目を逸らせなかった。
「......まいどあり」
店主の声が、やけに遠く聞こえた。
『カイト様、よろしいでしょうか?』
「なんだ、イオ?」
珍しくイオから話を切り込んできた。
『盾と剣を購入する予定だったかと思いますが......推奨できません』
「そうだな。しばらくは今の武器のままで戦うよ」
「銃も買って慣れてから、“コイツ”を使おうと考えてるよ」
『かしこまりました。失礼致しました。カイト様』
「いや、ありがとう心配してくれて」
「おーい」
「すみません、お待たせっす」
「検問の影響でどうやら町の出入りが滞ってるみたいっす」
「そのせいで宿を取る人が多くて時間かかったっす」
「そっか、すまないな大変なところ」
「大丈夫っす、宿探しは慣れてるっす」
「それで鋼装備は見つかりましたか」
「ああ。あったけど辞めた」
「そんかわり、コイツを買ってきた」
黒い銃剣を見せた。
「これガンソードじゃないっすか!」
「カイトさんなにやって――これ......は?」
エストが人形を見るように真剣に見ていた。
「普通のガンソードと違うっすね......素材もそうっすが、特殊な感じがするっす」
「上手くは言えないっすけど......違う気配がするっす」
「そのカン、当たってると思うぞ」
「個体名があるってイオが言ってた」
「えー!!ネームドっすか?そんな金どこにあったんすか?」
「なんでもいわくつきで安く売られてた」
「そうなんすか、いわくつきっていうのが気になるっすけど、」
「安く買えたならラッキーっすね」
「羨ましいっす......その場にいたらアタシが買ってたっす」
エストは名残惜しそうにトレイターを見ていた。
俺たちは宿屋に向かった。




