主人公
サクラ視点です。
私がサクラ・エドリッシュヒガンに転生したのは13歳の時だった。私が死んだ年に大ヒットした小説「サクラの後宮物語」はエリオットとの甘いラブロマンスとサクラの挑戦の日々を描いたお話で当時の私は強く憧れを抱いた。
わたしはその中のヒーロー、エリオットに夢中でよくラブシーンだけを抜粋して読んでは彼に思いを馳せた。どうしてここは3次元なんだろうと現実を強く恨んだりもした。
そんなわたしが大好きな小説の世界の主人公、サクラに転生したのだと気がつくのにさほど時間は要さなかった。
16歳になれば憧れのエリオットに会える。
わたしの思いはそれだけだった。
彼の隣が似合うよう美容にはお金を使い、公爵夫人に相応しいマナーも勉強した。貧乏だったから、独学だったけれど。
ところが、まだ私が15歳にも関わらず物語は急変した。それに気付いたのは、とある夕食の最中に、男爵である父様が社交界で聞いた話を披露した時のことである。
「とうとう宰相様のご子息エリオット様が後宮に召し抱えられらしい」
父によってもたらされた情報に食卓が華やぐ。「まぁ。それは頼もしいわね。うちの次男も受け入れてくださらないかしら」と茶目っ気たっぷりに母が言い、次男である兄様が「僕なんて陛下のお目にも止まらないさ」と笑い合っているのが遠くに聞こえる。
「エリオット様が……!?」
おかしい。どう考えても早過ぎる。私の覚え違いということは絶対ない。
物語が変わっている?
エリオット様の行動が変わったのならばそれに合わせて私も動かなければならないのでは。と不安に駆られる。
どうせ一年後には会えるのだ。それが早まっただけの話。遅いのは問題だが、早く出会うことになんら問題はないはず。
わたしのことを知ってくれれば絶対好きになってくれるわ。だって一目惚れだって書いてあったもの。
わたしが何をしようが彼とわたしは結ばれる運命にある。
わたしはいてもたってもいられず半ば家出同然に帝都へ向かい、丁度募集がかかっていたローザリア家の次男ガブリエルの側近になることができた。
やっぱり!物語はわたしを応援してくれている。こんな都合よく側近に取り立てて貰えるなんて。
兄の履歴を騙り上手く後宮へと入る。
物語に違和感を持ち始めたのはこの辺りだ。まず、女帝は連日エリオットに逢いに行っている。
エリオットがお気に入りってこと?許せないっ。
早く断罪したいが、まだエリオットと仲良くなれていない。チャンスを窺うんだ。
ところで、わたしの主人となったガブリエルだが実物を見るととてつもないイケメンだった。
初めて会った時の彼は「女帝のお渡りがない」と、ひどく落ち込んでいた。わたしは励まし寄り添う。最初は拒絶気味だったガブリエルも私が女だと気づくと直ぐに心を開いてくれた。それとなく女の子アピールしていき、ガブリエルに気づかせたのは我ながら上手に出来たと思う。
私を好きにさせるなんて、ガブリエルの過去を知っているわたしには朝飯前だ。
イケメン公爵令息に可愛がられるというのは存外楽しく、この容姿と後宮という男だらけの場所ではちょっと上目遣いになるだけでイケメンたちがちやほやしてくれる。途中危険な時も有ったが、ガブリエルの庇護下にあると言えば皆が尻尾を巻いて逃げていった。
その中で心を開いてくれなのはエリオットただ一人だ。
初めての出会いではそれなりに手応えを感じたのに今やかなりの塩対応で悲しい。毎日ユリの宮に行っているのに、会ってもくれない。
正直何がダメだったのか未だにわからない。あれだけ好きだったのに、優しくしてくれるガブリエルに心が揺れてしまう。
このままガブリエルを攻略しちゃおうかな。
でも1番になれない男なんて嫌。主役の相手になるのに後宮で燻っているだけの男なんて役不足だ。
だからわたしはガブリエルを唆したのだ。どうか、あなたが皇婿になって。このままだとエリオットに負けちゃうわ!と。
ガブリエルが女帝と結婚したその後、物語通り女帝を屠ればいい。彼の一番近くにいる女の子は私なのだから、間違いなく私がこの国の妃となれる。その自信がある。
万が一、求婚が失敗しても、また誰かの側近として後宮に来ればいい。ツテはいくらでも作ったもの。
そして、私は今日もエリオットのもとを訪ねる。もはや日課みたいなものだ。意地もある。
諦め掛けていたエリオットの攻略だが、今日はなぜか、彼がドアの前で待っていてくれた。
こんな嬉しいことってある?
やっとわたしの気持ちが伝わったの?
彼は女帝によって酷く傷つけられたのであろう。とても切ない顔をしていた。
胸がキュンとする。この人を守ってあげなくちゃ。こんなに傷つけるなんて酷い女帝。早くやっつけなくっちゃ。
私は女である事を自ら明かし、彼に興味を持ってもらうことに成功した。
「君は何をしに、ここに?」
女の子が危険を冒してまでここに来た理由。それは……
「勿論貴方を、この国を、救うためよ!」
かっこいいこと言えた!小説の決め台詞である。
しかし、守ると大見栄を切ったもののその手段は思いつかない。だって女帝がまだ国を荒れさせてないんだもの。
エリオットはポカンと私を見ている。
よっぽど私の決意に驚いたらしい。ここで求愛してくれたなら、例え王妃になれなくても結婚してあげるのに。
「君の目的はなんだ?」
エリオットは少し悩んだのちわたしに問いかけた。
「勿論国の安寧です。陛下に国をお任せする訳にはいきませんから!」
「それは……、どういうこと?」
「あー、今言ってもわからないかもなんですけど、あと一年経ったら陛下は国政を放り出して国を滅茶苦茶にしちゃうんですよ」
未来のことがわかるわたし。凄いでしょう?
「私にはあの方がその様な愚かな真似をなさるとは到底思えない。それはどの情報に基づいての結論なんだ?」
「情報とかじゃなくてー。わたしは未来のことがわかるんですよ!」
「それで国を守る為、君はどうするつもりなんだ?」
あっ、やっとわたしの話を信じてくれたっぽい。
「勿論、陛下を処刑台にあげます。わたしとエリオット様で国を立て直しましょ」
エリオットはギョッとし、わたしの口を掌で押さえた。
「君は国家反逆罪に問われたいのか」
「いいえ。これが正しいストーリーなんですよ」
わたしが満面の笑みで彼の手を退けて話すと彼はわたしの襟を掴み、子猫の様にぶらんと持ち上げて運んだ。
「きゃっ。なんなんですか?苦しいです!」
「今の話は聞かなかったことにしてやる。だが覚えていろ、お前が少しでも不審な動きをした場合私の命に代えてもお前を抹殺してやる」
エリオットは扉を開け外にわたしを放り投げた。見上げれば、見たことがない程怒っている。
どうしてここで女帝を庇うの??
わたしはエリオット様の為にずっとずっと努力してきたのにどうして分かってくれないの。
悲しくて、悔しくて、涙がポロポロ溢れる。
「貴方にどう思われようとわたしの思いは変わりません!絶対貴方と幸せな未来を掴みとるんだから!」
もう意地だった。そうでも言わなければずっと彼を思っていた自分が惨め過ぎるではないか。
エリオットはバタンと扉を閉めてしまう。わたしは悔してくて悔しくて目の前の扉をただ睨む。
女帝さえいなければ。
あいつが消えればエリオットの考えも変わるはず。いや、変えてみせる!絶対エリオットはわたしのことを好きになるはず。
実際彼に会ってしまうと女帝が国政を放り出す後一年が途方もなく長く感じる。
わたしは原作を必死に思い出す。何か使えるネタないかな。
そういえば毒草が帝都近くの森に生えているはずだ。それをお茶にしたものが主人公に使われ危機に陥ったエピソードがあったはず。
側近は主人に許可を取り申請さえすれば自由に城の外へ出れる。
万が一、ガブリエルが求婚を断られた場合、私が女帝と関われるチャンスはなくなってしまう。つまり、チャンスは返事が来るその時。そして、皇婿の可能性があるガブリエルも邪魔だしついでに消してしまおう。
2人とも殺して混乱に乗じてエリオットの心を手に入れよう。
「仕方ないよね。わたしとエリオットの幸せの為だもん。元々女帝が死ぬのは数日後か、来年かの違いだろうし」
わたしはお休みの許可をとるためガブリエルの元へと急いだ。
後2話で完結予定です。最後までお付き合い頂ければ幸いです。




