乱入
ガブリエルに求婚された私は正直頭が混乱していた。
ガブリエルはサクラのことを思っているように感じていたからだ。やはり、自分の感情よりも家の事情を優先したということだろうか。
ともあれ彼の求愛は受けるつもりはない。ガブリエルと生涯を共にするというビジョンが全く浮かばない。
私はごろんとベッドに転がりエリオットのことを考える。
私が求婚されたことを相談すれば彼はどう答えるだろう。
過保護なエリオットのことだから、色々心配されそうだな。
想像してクスリと笑みが溢れるけども、手を弾かれたあの出来事が頭を過ぎる。優しかった時のエリオットのことを考えても虚しいだけだった。
私が後宮の主人だ。エリオットもサクラもガブリエルと一緒に後宮から出してしまおうか。反発はあるかもしれないがガブリエル一人出すよりも互いの派閥からの糾弾は少ないかもしれないな。
とりあえず、ガブリエルに正式な返答をしなければならない。
私はガブリエルに先触れを出し、エリオットには手紙を書いた。
直接エリオットに会うのはどうしても辛い。どうして悪役の私がメインヒーローと関わりを持ってしまったのだろう。
エリオットに出す手紙には特別上質で、ユリの花の香りが付いた紙を選んだ。
今まで世話になった礼に1つ願いを叶えるとそれだけ書いた。これで彼はサクラと後宮を出ることができるはずだ。
流石に今の状況で2人揃って国を明け渡せとは言ってこないだろう。逆賊の上王位簒奪だ。国民や大臣が認める訳がない。私はこれまで通り政治に勤しむだけだ。子でも産まれればこの思いも自然と消えるだろう。
そらならばいっそ、ガブリエルの求婚を受けてしまうのも良いかもしれない。
彼は公爵令息でありずっと後宮を支えてくれた人物だ。王族に迎え入れるには十分素質があるといえる。
私は侍女に支度をさせ、護衛とともに後宮のバラの宮に行く。
サロンに通され、相も変わらずサクラがお茶を出してくる。
そして、ガブリエルはどう見ても、愛しい者を見るかのようにサクラを見つめている。
もしやガブリエルは、サクラと後宮を出たい一心でこんな博打を打ったのだろうか。それなら一言言ってくれれば良いように計らったのに。でもそうするとエリオットとサクラは離れ離れになるわけで……。
下手するとガブリエルとサクラがくっついてしまうという事実に私は肝を冷やす。なんとかエリオットの恋を応援をしてあげたい。
私は、ガブリエルに探りを入れる。
「サクラはいつも良い茶を淹れる」
「私の自慢の側近です」
ガブリエルの言葉にサクラはえへへと嬉しそうに笑顔を浮かべた。
なんとも癒し系で、女帝とは正反対だ。彼女なら誰が相手でも恋人を幸せへと導けるだろう。
「さてガブリエル。お前から受けた求婚の返事の前に今一度確認したいことがある」
「はい」
「お前の心の中にいるのは誰だ」
ガブリエルは作ったような笑顔で陛下です。と言った。
(嘘だ)
答えるまでの間といい、すでに私を思っていないのは明白だった。
何のつもりで求婚してきたかは知らないがエリオットとサクラの恋路を守る為、ガブリエルの求婚を受けよう。
宰相には申し訳ないが、私にとって損な話ではないはず。
私は乾いた口を潤すため、茶を口元に運ぶ。
ふわりとサクラの香りがするお茶だった。この世界に来て初めて飲むお茶だ。
香りを味わい、口に入れようとした瞬間、原作で出てきたサクラの香りがするお茶を思い出した。あれは、そう。主人公が自分と同じ名前の香りがするお茶に喜び飲むと、それは遅効性の毒だったという……。
毒……!?
私は慌ててお茶を口元から離す。その時宮の入り口でバタバタと争う音が聞こた。
「何事だ!?」
賊だろうか?護衛を含め私達に緊張感が張り詰める。後宮で剣を持っているのは私の護衛3名だけだ。
しかし、バタンと大きな音を立て中に飛び込んできたのはエリオットだった。
「なっ、お前。ここはバラの宮だぞ。何をしている」
私の問いには答えずエリオットは私の手にあるカップを取り上げ中身を確認する。
「飲みましたか!?」
「いや、まだ一口も……」
エリオットは安心したかのようにヘロヘロっとしゃがんだ。
「よかった。間に合った」
「巫山戯るな!ここは私の宮だぞ。この愚か者を即刻叩き出せ」
ガブリエルの怒声に反応した従者がエリオットを囲んだ。
「どうか、お待ち下さい」
そう言っても待つものはいない。エリオットはにじりよるガブリエルの従者に構わず私の手を握る。護衛達がツカに手を伸ばしたため、私は空いている方の手を軽く上げ、待ったをかけた。
「陛下、お願いいたします。どうか、そのお茶の成分を調べて下さい。毒の可能性がございます。無礼を働いたのは百も承知です。それと、最後に」
エリオットはこの場に無理矢理乱入してきた。処罰を承知の上で来たのだろう。彼は何か決心した様に私の瞳の奥を見つめた。
「お慕いしております、陛下。貴女様の側にいれたことが私のなによりの幸せでした」




