男装
エリオット視点です。
あれから数日、やはり陛下はガブリエルの元へと行っている。
それと入れ替わるように私の元へは一切の音沙汰がなくなった。
とてもじゃないが陛下とガブリエルの仲が進んだなどと思いたくなかった。
「あいつ、よく私の顔を見られたものだな」
ガブリエルはこんな思いを一月も抱えていたのだろうか。いや、度々陛下のお気に入りは出来たと聞いている。その度にこんな思いを?
「とてもじゃないが私には耐えきれないな」
自嘲気味に笑う。
陛下に会いたい。
陛下は今、バラの宮にいるはずだ。バラの宮の近くまでいけば、後宮を歩く彼女を一目見られるだろうか。立ち上がりバラの宮へと向かおうとして、ふと気がつく。もしかしてあの時、ガブリエルが私の宮の周りまでよく散歩をしていたのは今の私と同じ気持ちだったのだろうか。
虚しさが襲い、入り口の扉の前で立ち尽くしていると、扉を叩く音が聞こえた。
侍従が確認すると、そこに立っていたのはピンク色の髪をした少年だ。
「えへへ。またきちゃいました」
彼は初めて会った日に告げた通り私の元をよく訪れるようになった。
と言っても私はサクラを苦手としていたため、あれこれ理由をつけてお断りしている。
今回はタイミングよく私が扉の近くに立っていた為、目が合ってしまったので仕方なしに彼を迎え入れる。
侍従が彼を入れるため大きく扉を開く。すると、少し距離は有るものの奥の回廊に小さく陛下の姿が見えた。
数日ぶりに見た彼女は、なんて眩しいのだろう。思わず駆け出しそうになったその時、腕をひっぱられる。
なんだ、と振り返った瞬間サクラが腕にしがみついてきた。
「!?」
「えへへー」
陛下もこちらに気づいたらしい。私達をじっと見て王宮の方向へと行ってしまう。以前の時と似たようで全然違うシュチュエーションだ。
彼女はもう私のことなど待っていてくれはしない。
「おい、離してくれ」
「え〜。無理ですよぉ。ようやくエリオット様にお会いできたのに」
「また機会を設けてやるから!」
だからとりあえず自分の腕を離して欲しい。陛下を追わせて欲しい。
「ダメですよ。ガブリエル様との仲を邪魔しては」
「はっ……?」
サクラはにっこり笑う。
「ガブリエル様は、正式に陛下に結婚を申し入れました」
頭が真っ白になる。
「それで……陛下は?」
「答えは保留とされました。でも反応から見るによいお返事を頂けるのではないでしょうか」
女帝との婚姻は、基本的には子が生まれ、皇子の父親になった者と結ばれる。そして、それとは別に後宮もあり続ける。
ちなみに、今の陛下の場合血縁がいない為、沢山子を産むのが正しいとされてる。
しかし、子がいなくても政治戦略的に皇婿が選ばれることもあるにはある。
よっぽど珍しいが、ない訳ではないのだ。
ただし、後宮にいる者が公式に求婚をするのは酷いマナー違反であり失敗した場合、よくて後宮からの締め出し、悪くて侮辱罪で引き立てられる。
ガブリエルはそれを行ったのだ。それだけ自信があるということか、それともそれだけ追い詰められているのか。
そして自分は指をくわえて見ているだけでよいのだろうか。
よく考えてみれば後宮で失うものなど彼女以外ありはしないのに。
「エリオット様、落ち込んでおられるのですか?」
長いこと思考を巡らせていたせいか、サクラが目を潤ませて私を見つめている。
「いや、よい話を聞けた。サクラに感謝する」
サクラは頬を染めて嬉しそうに目を細めた。
「エリオット様……。やっぱりわたしはエリオット様が一番好き。もし何かあっても大丈夫。わたしがついています」
そういって、ぴったりと体をくっつけるサクラに背筋が凍りつく。
「お前は……同性が好きなのか?」
「ふふ、違います。今から見せることは秘密ですよ?」
サクラはそっと自分の両手をもみあげに持っていきショートカットの髪を持ち上げた。どうやらかつらだったらしい。解き放たれたさらりと艶やかな髪が滑り落ち、そこに居たのは目を奪われるほどの美少女だった。
「君は……。いや、それよりもここは女人禁制だ。はやく隠すんだ」
万が一下働きの者にでも見られたら大変なことになる。
「きゃ。エリオット様優しい。ガブリエル様も優しかったけど、やっぱりときめきが全然違うわ」
きゃっきゃっとはしゃぐ彼女には心底疲れる。
「何故女性である君がこんなところに。それに君の口ぶりから察するに、ガブリエル様も君の正体を知っているとうことだな?」
「だってどんなに可愛くたって男じゃ仲良くなるのにも限界があるんだもの。どうせだったら後宮に咲いた一輪の花を皆んなで愛でて欲しいじゃない?男装で男の園に入るってずっと憧れてたの」
おかしな女に疑問は尽きない。
以前ガブリエルがこの男……いや、女に何故あそこまで軟化した態度を取ったかという疑問は晴れたが今になっては些細な問題である。
王族の後宮を荒らす彼女の思惑が全く見えない。
「君は何をしに、ここに?」
「勿論貴方を、この国を、救うためよ!」
それを聞いても全く理解出来なかったのは私の所為では無いはずだ。




