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 翌朝、目を覚ますと目の前に男の顔があった。


「きゃっ」


 考えるより先に体が動いた。心臓がまだバクバクと大きな音を立てる。私が飛び起きると、物音で目が覚めたのだろう、エリオットはおはようございますと爽やかな笑顔で言った。


「お早う。よく眠れたか?」


 よくもまぁ、こんなかっこいい人の前で寝られたものだ。


「陛下が手を離してくれないので緊張してなかなか寝つけませんでした」


 私はハッとして自分の手を目で追うと、エリオットの手をしっかり握りしめていた。どうやら人恋しさから一晩中握りしめていた様だ。直ぐに眠りについた私の寝顔もバッチリ見られていることだろう。


 サッと手を離しベッドの上で体操座りになった私は顔を膝に埋める。


「昨夜見た事は忘れろ」

「御意」


 エリオットは苦笑を浮かべ、私の命令を聞いた。


 侍女に身支度をさせ、私たちは部屋で朝食を取る。


 エリオットは私の向かいに座りサンドイッチを手にしながら語りかける。


「覚悟を決めてまいりましたが陛下が想像以上に素晴らしいお方で安心致しました」

「世辞はいい」


 これまでの行為で何故そう思ったのか理解出来ない。


「なんと言いますか、伝え聞いたお話よりもずっと親しみやすいお方です」


 やはり人と距離を縮めるべきではない。ずっと女帝のキャラクターを演じるには無理がある。


「親しみやすい?口には気をつけろ。妾はお主と親しくしたいとは思わぬ」


 ぴしゃりと睨みを利かせて言ったつもりだがエリオットに響いた様子はない。


「陛下は本日後宮のユリの庭を案内して下さると約束致しました。私などはそれだけで嬉しくなり、陛下と親しくなりたいと願ってしまうのですよ」


「そんな約束したか?」

「陛下がお休みになる前に、確かにしましたよ」


 有無を言わせぬ口調だが、どんな約束をしていても私がノーと言えばノーなのである。


「妾は忙しい。お主に構っている暇など……」ない。そう言おうとしたが、最後まで言い切る前にノックの音がし続いて侍女の声がする。


「陛下、宰相様でございます」


「入室を許可する」


 朝っぱらから何の用だ。朝の議会までの時間はまだ後1時間はあるはずだ。

 宰相は挨拶を述べた後、エリオットの後宮への手続きが終わったことを報告した。


「では、さっさと連れて行け」

「畏まりました。これから各検査を行いますが、丁度議会の終わる頃とご一緒かと」


 私は扇子をバチンとわざと大きな音を立てて閉じる。


「何が言いたい?」

「陛下はここ数週間ずっと働きづめでございます。ただ1つの御身、少し休息をとって頂きたく存じます」


 暫く後宮に行かなかった女帝が久しぶりに夜を明かした相手が自分の息子なのだ。私達の関係を後押ししたいのだろう。

 つまりは、今日はエリオットと過ごせと言いたいのだ。

 この男も大概な職権乱用である。


「妾はもうこの男の顔は見飽きたのだがな」


 私はエリオットに扇子の先端を向ける。


「早く連れて行け」


 余計なことをしないで欲しい。私は後宮、ましてやヒーローには関わりたくないのだから。主人公サイドが私を失脚させる口実を与える訳にはいかない。



 朝の議会を済ませ私は執務室に向かう。既にエリオットが私の部屋で夜を明かしたことが城の一大ニュースになっているのだろう。今朝の議会の宰相の派閥がなんと嬉しそうな顔をしていたことか。3ヶ月もいれば大凡誰がどの派閥に属しているかは分かってくる。大きく分けて2つに分かれており、実力主義である宰相派もといリリス派と身分至上主義派であるローザリア派である。


 現代日本で過ごしてきた私の思想はリリス派といえようが、女帝はローザリア派であった。それ故か、後宮のお気に入りもローザリア派から出ることが多かったようだ。勿論、彼女は好みの者であれば平民も後宮に入れたので一概には言えない。


 それを踏まえると、この度のリリス家が多少強引にくるのも仕方ないことと言える。私がエリオットを皇婿に迎えればこれまで日の目を見なかったリリス派が優勢となる。


 しかし、私は出来れば皇帝は引退したいと思っている。どうやるか、とはまだ決まっていないが彼らをぬか喜びさせているようで申し訳ない。


 私は執務室の前に着き扉を開けようとするも、どれだけ力を入れても開かない。いつもは朝議が終わると鍵を管理している宰相が先に入り職務を行なっていた。


「珍しいな。宰相はどうした」


 私が後ろにいる護衛に話しかけると。彼は何も聞いて無いと言う。不思議に思っているとパタパタと早足でこちらに近づく足音が聞こえた。それはいつも私の世話をする侍女で、手には文を持っていた。

 彼女は私の前に出た護衛の前で止まり、息切れを起こしながら文を差し出した。


「宰相様からです」


 護衛が受け取り、私に手渡す。

 手紙の内容と言えば、急ぎ調査することが出来た為自分は市街に降りるということ、執務室の鍵は信頼の置ける息子のエリオットに渡したとのことだった。


 私はぐしゃりと文を握りしめた。


「鍵は後宮だそうだ」


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