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第25話  特別


 命を貰うたびに少しずつだ。

 あたしは時間さえあれば神様に祈り続ける。

 いつかきっと特別がこの手に宿ると信じて疑わなかったから。苦しい事は歓迎だ。辛くても我慢する必要もない。


 こんな場所で田畑を耕しても神様の目には止まることはない。




 何度目の生を貰った時だろうか。

 いつもの神様はとっくにいなくなってて別の神様が現れるようになって久しい頃だ。



 あたしは誰よりも特別だったのに。

 特別を得た代償は、



 誰にでも特別を与えられる理由、というのがあるのだ。



ーーーー

ーーーー



 腕を抑えながら道なき道を歩き続ける。


 レイラちゃんに会う為に。

 レイラちゃんを殺す為に、


 ミリアムは空っぽで挑むべきと言っていたけど、あたしの左腕には力が残っている。今すぐ【赤の罪業】を使えばいい。

 

 【黄の罪業】を解き放って王都で避難させていた人たちを解き放ってレイラちゃんにぶつければいい。


「……」


 トボトボと道を歩く。

 ああ、あたしが本当に困った時は必ずいてくれるんだ。

 

「……メイデンちゃん」


 メイデンちゃんは何も言わない。彼女がどれだけレイラちゃんの事を思っているのかは知っている。だから絶対止められると思っていたのに、



『そうですか。わかりました』


 肯定も否定もされず、どちらの味方にもならなかった。

 




 メイデンちゃんと一緒に道を歩く。


「今からでもメイデンちゃんが『やめなさい』って言ったら……あたしはやめるよ?」

「そうですか」


「言ってくれないの?」

「アイシャが本当にやりたい事なら止めませんよ」



「だったら応援してよ!」


 身体の奥底からマグマがのような煮え滾った感情が溢れ出した。


「味方にならなくてもいいから!手伝ってくれなくていいから!たった一言でいいから……『頑張れ』って言ってよ。そしたらあたし」


 これは特別の代償だろう。

 ウィリアムおじさんもそうだったが万能に近い特別を持ってしまうと誰からも期待されないのだ。


 いや、期待はされる。しかし確実に出来ると思われている。

 そんな事ないのに、これでも精一杯なのだ。


 目の届く距離だけ世界を救えてしまう力を持てば、

 目の届かない距離はどうあがいても救えない。


 これは見殺しと何が違うのか。

 あたしは……出来るだけ多くを救いたかった。


 その代わり、あたしの価値観で救えればいい。

 常に変化し続ける、まるで感情のように助ける人と助からない人が存在してしまう。


 ……だからたまたまだ。

 メイデンちゃんが否定してくれれば、あたしはレイラちゃんの味方になれたのに、肯定してくれれば全部を巻き込んだのに。



 メイデンちゃんは何も言わない。

 いつもそうだ。すぐに消えると思ったらいつの間にかいる。


 大事な事だけ話してあたしが間違えそうになると一緒について来てそっと教えてくれる。

 だから、だから。



「なにか言ってよ……レイラちゃん……死んでるんだよ」


 そうでなくては説明がつかない。今もどうやって動いているのか分からないけど肉体の意思だけで動いている。


 メイデンちゃんは雲に覆われた夜空を見上げて無表情ながらに言った。


「温めてあるスープが冷えそうですから帰りましょうか」


 今がどんな状況なのか分かっていて言ってるのだろう。

 メイデンちゃんは特別を持っていてもなお、何もしない事を選び続けた。

 その特別を自分の為だけに使い続けてた。


「あたしね、ずっとメイデンちゃんが羨ましかったよ。どうしてそんなに自分中心に物事を考えられるの?」


「世界は私のささやかな願い事すら叶えませんからね。だったら私のやりたいようにした方が幾分かマシです」


 メイデンちゃんの願い事……そんなのあるんだ。



「聞いてもい〜い?」


 あたしの言葉にメイデンちゃんは黙り込んだ。話したくないのではなくて、どう話せば良いのかと考えている。



「アイシャとレイラの子供を私が育てていずれ私との間に子供をもうけたい……それだけですよ」



「え、なんて?」


「ですからーー」



 なんて突拍子もない事を言い出すのか。そもそもレイラちゃんは女の子だし、あたしも女の子だし、仮に子供を作れても……


「メイデンちゃんと結婚させるなんて絶対嫌なんだけど」


「では私とレイラの子とアイシャが子供をつくって下さい」



「それもイヤだよ。ってか本当にそんな事やろうとしてたの?」


「そうですよ。どうせ無理でも何を言われても、誰に嫌われても好きな事を選んで諦めるべきです」


 なにが『どうせ』なのかわからない。でもメイデンちゃんはだいたいそんな感じなのだ。本当に自分勝手で、本当に意味がわからないぐらい気持ち悪くて、本当に誰よりも自分を殺している。



 あぁ。そっか。そうだよね。

 メイデンちゃんはあたしの頭をそっと撫でて少しだけ甘やかすように微笑んでくれた。



「……顔色、少しは良くなりましたね」



「うん!ねぇメイデンちゃん!もし、もしもだよ?あたしかレイラちゃん、どっちかが消えちゃったら……メイデンちゃんは悲しいかな?」


 

「勿論です。その時は元凶に私が説得ビンタしますから。一発でダメなら往復です」


 メイデンちゃんはハッキリと口に出してくれた。もう世界がどうとかみんなの願いは別の誰かに任せよう。

 あたしは……やりたいように……



「見ててねメイデンちゃん。あたし頑張るから。この左腕の力はきっとこの時の為に使わなかったんだよね?」



「えぇ。私はずっと見守っていますから頑張ってください」



 メイデンちゃんはどうしていつもふざけているのか分かった。

 きっと本当に伝えたい事だけを伝える為なんだ。


「……私が言った言葉を憶えていますね?」


 これはあたしに向けて言われた言葉ではないと理解出来た。

 だからあたしは小さく返事をした。



「うん」


「伝えてきなさい。なんだかんだと、なんとかしてくれますよ」









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