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第27話 ラストマン スタンディング


 デグネは王宮内に入り魔法研究所の前で足を止めた。


「ジュデッカはこの中か?」


「ここには誰も通すなと申し付けられておりますのでデグネ様といえどご遠慮願います」


 衛兵は怪訝な顔をした。

 デグネが高圧的なのはいつもの事だがそれとは別、特にジュデッカに対して『先生』と呼ばない事に違和感を感じていた。


「俺は質問をした。それに対してお前の返事はイエスorノーだろう?俺が間違っているのか?どうなんだ?」


「あ、いや、あの……申し訳ありませ——」

「お前に二度もチャンスをやるつもりはないから消えろ。この世界に必要ない」


……


 数分後に先程とは別の衛兵が研究室の前に到着した。


「くぅぅ、せっかくリドヴィア様のコネで王宮兵になれたのに初日からまさかのド忘れ……誰も気付いてないよな?……よし!今日一日は全身から漲る魔力で不安な奴は鼠一匹通さないぞ!」



 そこには先程デグネと会話した衛兵などいない。

 初めからこの世に存在していなかったかのように時は刻まれる。





「ジュデッカは——取り込み中か?」



「……デグネ?」


 研究室は不安な空気で満たされていた。

 空間は歪みながら形を変え続けその中にジュデッカ、

 そして対峙するように3人の男女がいた。


 それらを軽く流し見ながらデグネは中へと入り込む。


「クリーヴァとタナトスはいると思ってたが……お前マキナか。俺の与えた身体の調子はどうだ?」

「誰だお前?それにこの身体はアサシ——ん、お前から貰ったものじゃない。出しゃばるな!」



「ロクシリーヌに似てこっちが下手に出てやればつけ上がるクソみたいな奴だな。約束だから一度は許してやるよ。それよりもジュデッカに頼みがある。待っててやるからそこのゴミどもを片付けろ。俺は気が長い方だと自覚しているが待つのは好きじゃない」


 ジュデッカはほんの一瞬考え込んだ。

 自分が持っている魔力を全て思考に費やす事により自身の体内時間を何百倍にも増幅させる。


「なんだこの人間は?死にたくねぇなら引っ込んでろよ!」

「あぁ勿論死にたくないな。それと、これでクリーヴァもリーチだから気をつけろよ」


 そしてクリーヴァがデグネに食ってかかったおかげでジュデッカの思考は更に伸ばされる。

 

 そして一つの仮説を立ててすぐさま最善手を導き出す。


「……デグネ……様でよろしいですか?」



「そうだな。この身体はデグネ・ラウンジだからな。でも今更敬意を払われても仕方ないだろう?」


 ジュデッカの身体から汗が噴き出した。

 失敗はジュデッカはデグネを都合の良い道具に使い続けた。

 何十、何百回とパシリにも使った。


 ジュデッカ本人が覚えているかは不明だが少しでも気に入らない事があると殺した事さえもあった。



 幸運なのは



 今のこの身体は人形などではなく本体。

 今のデグネは正体を隠す気などない。

 そしてその瞬間を現し身で謁見するという無礼だけは回避できた。



「そうですか。では今まで通り接する事をお許し下さい……僕は今すぐにでもデグネの頼みを聞いてあげたい。しかし僕はそこの3人に虐められていてね。しかも再起不能にされそうなんだよ。だからデグネの頼みは聞けない」



「相変わらず仕方のない奴だな。まあ、弱者らしくて嫌いじゃないんだが」



 デグネはゆっくりと奥へ歩きながらドッシリと腰をかけた。

 椅子などない。

 中空へと腰を下ろしたのだ。



「良い考えを思いついた。クリーヴァにタナトス、2人はジュデッカの命令に従え……これで解決だな」



「それは名案だね。そう言ったわけでお前たちはデグネの頼みを聞くだけの駒だ。当然僕は使い捨てるしマキナに本来の肉体を返すなんて戯言も改めて断らせてもらおうか」




「ああ!?人間とつるみ過ぎて頭まで老いたかぁ!?やっぱりテメェはボロ雑巾になるまで痛めつけてやらねぇとわからねぇようだなぁ!?」


 クリーヴァが戦闘体制に入る。指先に魔力を集中させ後ろにいるデグネのような何かもろとも粉砕する程の魔力を集め出す。


 それはデグネも理解したようで比較的機嫌がよかったソレは明らかに不機嫌な表情をした。


「クリーヴァ、お前まさか俺を殺そうとしているのか?」

「理解したならテメェは消えろぉ」



「お前が消えろ」



ーー

ーー



「タナトス、お前はクリーヴァと違って俺の頼みを聞いてくれるよな?」


 タナトスはキョロキョロと周囲を見渡した。

 ここにはジュデッカとデグネ、そして少し後ろに震えているマキナしか存在していない。



 そもそも……



「クリーヴァって誰?頼み事を聞いてもいいけど先にマキナの身体を返して。早くしないと死んじゃうから」



 クリーヴァなど初めから存在してない。

 存在していない名を出されても誰も知らない。



「ふー、……タナトスも要らないか?」


「ま、待ってくれデグネ!」

「タナトス父様、待って下さい!」


 ジュデッカは慌ててデグネの間に入った。



「タナトスは役に立つんだ。あいつの無礼は今に始まった事じゃない……そうだろう?」

「どうだかな。ともかく時間がないから俺を苛立たせるなよ」


 そして同時にマキナは意を決したようにタナトスの背中にしがみついていた。

 それに困惑しつつも自身の中で間違った解釈をする。


「どうしたのマキナ?不安にならなくても大丈夫だよ。絶対マキナの身体は返してもらうから」



「違う……違う……あれは……あの人はデグネって人じゃない」


 タナトスは言われて改めてデグネの身体を注意深く見直した。

 しかし気付かない。

 


「ひょっとして……ジュデッカの魔法を受けてる操り人間?」

「やっぱりタナトスは馬鹿だね。早く死ねばいいのに」


 またも的外れな回答をしたタナトスを笑った。

 知り合いでもない人間に馬鹿にされた事にムッとした顔をしたがすぐさまマキナに抑えられた。



「邪魔しないで。すぐに終わらせるから」

「ダメ!……本当に……やめて。本当に……お願いだから。アタシはタナトス父様まで忘れたくない」


「なんのこと?なに言ってるの?」


 マキナは懇願するような表情でデグネを見た。

 デグネは僅かながらに頷いた気がした。


 それでも、それでも絶対ではない。だからこそ恐る恐る、

 


 

「   あの人の中身は   シグ様です  」



 消滅する恐怖に打ち勝ちながらマキナは真実を告げた。

 


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