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第28話  優しいお方


 マキナはデグネの中身がシグだと告げた。

 そのような突拍子もない事を言われても確認のしようが無い。


 しかし確かな事実はマキナは消滅していない。

 シグを知っている人であれば何処の馬の骨とも知らない人間をシグだと言えば消されかねない。


 だから目の前にいるのはシグなのだ。


 目の前にいるのがシグならばと自分なりに気を遣おうとしたタナトスが勝手に戸棚からワインを取り出しシグに差し出した。



「シグ様?……お酒……飲む?」

「ふふふ」


 シグは笑いながら酒瓶を受け取り


 バシャアアン!と豪快にタナトスの頭で酒瓶を割った。


「話しが進まないんだよ。まずジュデッカはマキナに身体を返してやりな」

「わかりました」


「それとマキナ、クリーヴァの事は諦めるんだ。あいつの無礼は度を越していた。いいね?」

「……はい」


「そんな顔をされてもアタシには何も出来ないよ。クリーヴァは本来の寿命を逸脱している。しかしクリーヴァがまだ生きたいと思っていたなら……魂は生き続ける。マキナのようにね」


 シグはいつの間にかワイングラスを傾けながら香りを楽しんで……楽しんでいるフリをした。


 『別に怒ってないよ?』と周りに教える為の本人なりの優しさなのだろう。



 そんな雰囲気を察したのかジュデッカが声をかけた。


「シグ様の頼みとはどのような事なのですか?」

「なんだと思う?」


 ジュデッカは顔には出さない。

 心にも思わない。

 しかし思考の一端にある思いが去来した。


『うわぁ、面倒くさい』という真っ当な思考が。


 しかしシグがわざわざ出向いてきてジュデッカに頼みがあると言ってきたのだ。

 大抵の用事や小間使いならニーチェで事足りるのにわざわざクソ弱いジュデッカに頼もうとしている。


「生憎とシグ様の崇高な考えは僕には理解出来ませんが、【捻れた信仰】の件……でしょうか?」


「違うとも言い切れないね」


 そもそもジュデッカは捻れた信仰を数人しか見ていない。

 尤も強いであろうファティマを見ていないのに簡単に答えなど出せない。



 ジュデッカは思考を巡らせる。

 単純な強さだけで言えばニーチェを向かわせれば事足りるがそれをしない。


 つまりニーチェ程度では倒せないのだ。

 そしてジュデッカならば……




     絶対無理だ。




「シグ様、時間を下さい。デグネの中に入っていたシグ様ならば承知でしょうが僕は今【審判】の加護を奪う研究をしています。それを使って捻れた信仰を食い止めます」



「食い止めるときたか。なるほど。審判によって確かにジャサファの奇跡はへんちくりんな物へと変貌した。しかしだ。

アタシが無力化したかったのは奴が持つ怠惰の罪業……往生余生(リミットワン)だ。奴は弱体化したとはいえ未だ罪業を使用出来る。そして奴はレイラ・カーターによって保護されている。ここに来て初めてアタシとあの子の道が食い違った」



 シグは歪な笑みを必死で押し殺しながらワイングラスに自らの血を垂らし差し出した。

 それは500年以上昔に与えられた奇跡の一端。


「……ありがとうございます」

「あとで寝てるタナトスにも飲ませてやりな。そして伝えといておくれ。今まで尽くしてくれてありがとう……と」


 ジュデッカが血に口をつけマキナに手渡した。そしてマキナから眠っているタナトスへと。


「もうひとつ、万全を期すんだ。アタシは万全とは言えないがこれ以上は状況が悪くなる一方だからね。」


「?勿論ですが……一つだけシグ様に聞いておきたいのですが、今の状況でインユリアはシグ様の味方なのですか?」



「インユリアは誰よりもアタシの味方だよ。アタシの出来損ない達とは違う。出来損ない達と同じように、誰よりもアタシを殺そうと動いてくれている。それを踏まえて答えな。ジュデッカ達はアタシの味方なんだよね?」


「「  は、はい  」」


 ジュデッカとマキナはなにも小さく頷き固まってしまった。


「  その言葉が聞けて安心した。

 言っておくが……アタシを守ろうとする奴等は強いからね。だからアタシも用意した……アタシを倒せる使命を持たない人間、運命のない存在を導いてきた」


……


「動かない箇所はあるかい?」

「片目が見えない。もう片方の目がボヤボヤしてる。お腹がグルグルしてる。魔力が全然ない」


「目は潰したからないよ。それに元から数百年前の身体だから仕方ないだろう?それと魔力が少ないのは僕も同じだ」


 マキナの身体を本来の肉体に移し替えたジュデッカはまだ眠っているタナトスに目を向けた。


「たぶんタナトスにもほとんど魔力がないな」


「アタシのせいなの?アタシが自分の身体を欲しがったから?」

「違うな。原因はシグ様の血を飲んだせいだろう。しかしわざわざシグ様がこのような事をするかと言われたら……たぶんなんらかの意味があるんだろうか」


「別にいいかな。それに何故か世界全体に魔力が溢れてる。これだけ満ちてるなら自分に魔力がなくとも魔法を使うのも問題ない」


 マキナの何気ない言葉にジュデッカは慌てて魔力の巡りを探った。

 たしかに魔力が満ち溢れている。


 それがこの一帯だけなら問題はない。


 しかし世界中だったのならば、


「シグ様? シグ様! おられますか!?」

「呼び捨てにしてみたら? そして死んでみれば?」


「その手には乗らな……シグ!姿をみせろ!早く姿を見せないと墓に酒を浴びせかけるぞ!」



「死んでない? どうして?」



「もうこの世界にはいないからだろうね……シグ様唯一の願いが何か知っているかい?」

「たしか、世界平和だっけ?」


「そうなのか、僕は知らないからまた一つ賢くなれたよ」

「なにそれ」



 

 

「しかしレイラ・カーターか。今は王都にいるから近いうちに接触する事にするか」

「ジュデッカは皆んなに嫌われてるからやめとけば?」


「随分な言いようだな。僕は王宮屈指の魔法使いであり皆の尊敬の的なんだよ。子供程度なんて向こうから尻尾を振って近づいてくるよ」








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