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第25話 お金を借りたのはどちら?


 借金取りがニーチェニーチェ向かって歩いていく。

 しかしその歩みを子分が止めさせた


「アニキアニキぃ!」

「うっせぇな!今度はなんだよ!」


「オイラもあっちの素寒貧な方が金を借りたと思いやすが……万が一間違えたらオルセン様に……」

「あ——。お前……あと何が残ってる」


「もう思い付きやせん。魔法も命も……名前も取られてます」



 借金取りは神妙な顔付きになりデグネの方を見つめ頭を下げた。


「デグネ坊ちゃん、こっちの三つ編みとあっちの薄汚いやつ、どちらが金を借りたか分かりますか?オルセン様の契約書が上手く機能していないので……恥は承知してます」


「お前は馬鹿か?」


 頭を下げで頼み込もうとした借金取りをデグネは一笑に伏した。


「こちらに居られるイズヴィ様は父様が俺にはくれた事ないお小遣いを渡そうとしても『使い道ないからいらないっすよ』と断るほど金に無頓着なんだぞ!そんなイズヴィ様が金なんか借りるか!このダボが!」


「やはり。俺も借金背負ったやつはウン千と見てきましたけど、そちらのお嬢さんは金に固執しない顔してますものね。これは失敬失敬。へへへ」


 借金取りがイズヴィに対する態度が途端に変わった。


 どのような間柄かは知らないが王侯貴族であるディヒト・ラウンジが金を渡すような高貴な娘……間違っても高利貸しなんかに手は出さない。


「となるとやはり……」


 借金取りの目がギラリと光る。

 借金をした本命はニーチェだ。


「待てよ」


 しかしそこに待ったがかけられる。

 タウロスだ。


 タウロスは借金取り、そしてイズヴィに向けて頭を下げた。


「申し訳ない。此処にいるニーチェはお金と生活にだらしないんだ。ホームの町では『借金の事ならニーチェに聞け』ってぐらいダメな方向で有名な奴なんだ。まさかこんな遠方に来てまで借金をしているなんて思いもしなかった。いくらだ?後払いになるけど俺が立て替えるよ」


「だろうな……俺も借金背負った奴をウン千と見てきたが奴は金を借りたことに対して悪びれてねぇクズだ……借金取りの俺が言うのもなんだが彼氏さんが払うよりも一度真剣に話し合った方がいいぜ?」


「彼氏じゃないよ。それでいくら?」


 言いながらタウロスは自分の財布を再確認した。

 元は散歩のつもりだったので銀貨を数枚しか持っていない。しかしニーチェの借金となれば返さない訳にはいかない。返す当てもダロス王都にはある。


「あーもうタウカスが返さなくていいッスよ。あっしがこの借金取りに連れて行かれればいいんスよ。ほらキリキリ連れてけッス」


 ニーチェとしてはタウロスに借りなど作りたくない。

 あくまでも対等な存在として常に隣にいてほしい。自らが蒔いた種は自らが刈り取らなければならない。



 ニーチェが借金取りに背中を押している最中にチラリとイズヴィを見つめた。



「……お姉ちゃんから離れられるッス!これはまさに天の助け!あっしはチャンスを無駄にはしない」



 


「    おい   」


 一言だった。



 その一言で借金取りにデグネ、それにタウロスまで身体をビクリと震わせて恐る恐る声の方角を振り向いた。



「やっぱりあっしもお金借りてたっす。あっしも連れてけっす」

「お、お姉ちゃん!?」


「ニーチェ……あっしがお姉ちゃんらしい事してやるっすよ」

「お、おでぇぢゃん!なんば言よっとよー!?ややこしくなるけん大人しくしとって!」


 なんとニーチェの代わりにイズヴィが借金の肩代わりを半分だけ申し出たのだ。なんと美しい姉妹愛だろうか。


 しかし借金取りと子分はヒソヒソと話し始めていた。

 二人が二人とも借金をしていると言っているのだ。しかし今は効果は発揮されないが契約書には一名だけ。


「アニキアニキぃ!」

「黙って……お前が頼りだ。言ってみろ」


「オイラ……これ以上何も取られたくないですぜ」

「俺もだよ。どうすればいいと思う?」


「恥を忍んでオルセン様に本物の借金をした奴を見極めてもらいましょう。二人はそれまで丁重に扱って違う奴はすぐに帰らせるってのはどうですかい?」


「……デグネの坊ちゃん……そちらのお嬢様をお連れしてよろしいですかい?



「いい訳あるか!お前はラウンジ家を舐めているのか!王国貴族の名に賭けてイズヴィ様は」

「   おい  あっしが連れてけって言ってるんすよ。デグネはなんの文句あるんすか?」


「文句なんてありません!スイマセンでした!」


 デグネの勇ましさイズヴィの一言で瓦解した。デグネがイズヴィにどんな弱みを握られているのかは定かではない。

 実際デグネは良い思いこそしても悪い思いなどされた記憶がない。


 それでも過去の記憶というのは刻まれるのだ。

 脳などではなく……もっと奥底の魂に。


 


「でも……ロクシィになんて言ったら」

「ロクシリーヌには毎日ちゃんと言い聞かせてるから心配ないっすよ……ニーチェ、これでゆっくりお喋り出来るっすね?」


「やだやだやだ!お姉ちゃんそんな頭使うキャラじゃなかろうもん!さっさと町中に隕石降らせて借金どころじゃない町中阿鼻叫喚のパニック状態にしてよ!」


「だからもう魔法使えないって言ってるじゃないっすか……それにあっしも借金返済を一度体験してみたかったんすよ」


「それならお姉ちゃん1人よかろーもん!借金全部肩代わりしてよ!」

「一人だと恥ずこい」




……


 借金のかたに身柄を預かった借金取りが門兵と談笑している男に声をかけた。


「ファティマさん、御足労おかけしましたが無事終わりました」


「まじ?……タウロスは抵抗とかしなかったの?」


「はい。二人とも大人しくついて来てくれるみたいです」


 ファティマは怪訝な顔をしながらも頭を掻きむしった。

 自分の思い描いていた絵とは違う。


「あの、ファティマさん?」


「問題点を探すから黙ってろ。

まず一つ、この世界の急所がニーチェとイズヴィだったのなら相応の迎撃者カウンターを配置しているはず。

二つめ、俺を殺せるタウカス・カーターは迎撃者としてはこれ以上ないほどに適任者のはず、なのに見逃すってどう言う事だ?

最後に三つめ、お前らあそこにいる奴を消してこい。武器はやるしリドヴィアの契約書を無効にしてやる」


 借金取り達は顔を見合わせた。

 人に言えないような事はしてきても殺し、しかも無関係な一般人を殺すなどもってのほかだ。


「ははは心配すんなって。殺した感覚とかねぇからさ。お前はこれ持って——そうだ。手始めにあの男に向けて指をクイッてさせてみ?」


 ファティマの言う通り鉄の塊を持たされ

 引き金に指をかけ、

 言われるがままに握りしめるように引き金を引いた。



 鉄の塊からけたたましい号砲が鳴り響き


 メイドの一人とデグネの上半身が消し飛んでいた事以外はなにも変わらない。



「言っておくがタウロス・カーターがなにも行動を起こさなかったのが原因だ。それに交尾した奴らなんて無価値そのものだろ?俺たちにはなんの非もねぇからな。

    セット ダブルトリガー 

  蒼紅の血潮 添い遂げる潜影具現ヴァスティージ 」


 ファティマは悪びれもせずに借金取りの名が書かれた一枚の契約書を燃やし尽くした。


「取り敢えずお前は自由だ。これに懲りたらリドヴィアには借りも貸しも作るなよ」


「あ、オイラの——オイラの名前はボストン……言える!オイラ自由になりやしたぜ!ファティマさんありがとうございます!」





「兄貴の方も自由になりたきゃ死ぬ事も視野に入れて頑張れ。俺はリドヴィア・オルセンと違って本当に優しいから期待以下でも頑張ったで賞も考えてるからな——さぁお膳立てしてやったんだら来いよ。タウロス・カーター」






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