第47話 昇天せし憤怒1
溶け逝く清水の苔の葵は
たなびき梳かす髪の如き「——ぐぁ!」
……化粧施す師走の涙
礼水にて穂乃果ならざる「——殺す」
ブレドリパが残橋の下で趣きある唄を詠んでいる最中に邪魔が入り続ける。
尚も必死で唄を考えながら詠むだびにその場には似つかわしくない声が邪魔をする。
いっその事こと凄惨な唄でも詠もうかとも考えるが……
「ニーチェちゃんにマキナちゃん。誘ってもらっておいてなんじゃが……ちょっとだけ待っておってくれるかのう?橋の上にいる奴等を優しく叱ってくるから」
ブレドリパが重い腰を上げ始めた。
マキナとニーチェの目は完全に死んでしまっている。
意味のわからない唄を聴いていたこともあるが、仮に意味を理解していたとしても興味がなかった。
二人とも別にブレドリパの唄などどうでもいいのだから。
幸か不幸か、自身の傑作ともよべるであろう唄を邪魔されて続けた事により橋上での小競り合いに見向きもしなかったブレドリパが立ち上がった。
こうして小間物屋行ってくる。感覚でジャサファとミリアムを惨殺しようと殺人鬼が土手から這い上がってきた。
…
……
ミリアムとジャサファの二人をデコピンで成敗したのでブレドリパは暗い面持ちでニーチェ達を見た。
邪魔者達のせいでブレドリパのデートは失敗だ。
二人とも帰ると言っていたので無理に引き止める真似はせず、せめて送ってから再度ジャサファとミリアムを殺そうと心に誓って……
「あぅ、ブレドリパって本当に強いんすね。遊んでるだけのダメ野郎と思ってた」
「これが今のインユリアの玩具……こんなに強いならアタシもほしい」
「なん……じゃと?」
ニーチェとマキナから尊敬の視線をひしひしと感じている。最近は馬鹿みたいに強い真似は控えていた方がいいと思っていた。
命の危険ギリギリまで自らを追い込み紙一重の大逆転劇を演じて吊り橋効果を狙う。これが女性を惚れさせる尤も効果的な漢を見せる術だと自身は悟っていた。
その為に五体満足の身体よりも最低限の満身創痍の身体を授かったのに……まさか、
「まさかお二人とも……圧倒的に強いワシが好みなのかのう?」
「「うん」」
「……まさか……これがワシの本気と思っとるのかのう」
「違うの?」
「マキナ、流石に魔法なしではこれが限界っすよ。あんまりブレドリパを困らせたらインユリアが怒っちゃう……まだ本気じゃないなら本当に凄いっすけど」
ブレドリパが片手で長髪を後ろで器用に縛り上げ手をワキワキさせ始めた。
そして状況があまり飲み込めていないミズーリをチラリと盗みみた。
「そこの水の滴るお美しいお嬢さん。首は大丈夫かのう?」
「え……はい。すぐに治ります」
「……同じ目に合わせてやるから待っておれ」
「は?……はい」
他の言葉を言わせないかのような迫力にミズーリはただ頷いた。その返事こそが合図とは知らずに
「このカスがぁ!早く立たんかあ!」
指2本でジャサファの首根っこを掴み足払いをかけながら上空へと放り投げた。
ジャサファは見た目に反して重さが200キロを超えている。それを楽々と放り投げ
「くぁっっしゃやらああ!!
断地 石崩 」
ジャサファの首に貫手を放ち喉を潰し、衝撃は身体へと伝うように右半身を粉々に打ち砕いた。
ジャサファの半身からはバチバチと火花を開け始めている。意識はある。声を出す機能を確認する。
「 敬虔なる命は全て神の道具と知れ!
勤勉なる奇跡を此処に……。!?
なんだこの奇跡は……ぉまえ……俺になにをしたあぁ!」
自身の違和感についていけず残された左半身で反撃を
「まぁだ反骨の相が出とるな貴様ぁぁあ!反省の意志が見えんとは何事かぁああ!女性に手をあげる愚か者はワシが成敗じゃあ!
断風 雷芯 」
ジャサファの半身は火花が収まり代わりにブスブスと焦げの臭いと黒い煙が立ち上り始めている。
ブレドリパのデコピンを2回、更に攻撃を2度も受けたジャサファは目は光を失っており、動かせる部位など皆無であった。
「……チッ、もう死に体か。つまらん奴じゃ」
ブレドリパが一本拳を作りジャサファの頭部を軽く小突いた。
瞬間ジャサファの全身が爆散し脂と血の混じった血液が周囲に降り注いだ。
「どうじゃ?因みに相手が弱すぎるので1割も本気を出せてないからのう?」
ブレドリパは颯爽と美女3人に向かって笑顔を振りまいたが……3人の顔は血の気が引いている。
マキナとニーチェはブレドリパは全然強くないと聞かされていた。
今回はどうしても柊心が死んでしまうのでダメ元、もとい肉盾目的でブレドリパを連れてきたのだが……
いくらなんでも予想外、そして圧倒的過ぎた。
他からして見ればブレドリパの行動は首を掴んだと思ったら放り投げられ、落ちて来たと同時に爆散して死んだとしか見えない。
それ程までにブレドリパの行動は速すぎる。
そして本人が申告したように本気ではない。ブレドリパはインユリアの玩具だ。
魔法こそ使わないもののインユリアが選りすぐりの加護を大量に与えられていてもなんら不思議ではない。
その加護すら一つとして使う事なく敵を圧倒していたのだ。
「あ、あぅぅ、インユリアの話し相手目的の玩具じゃなかったんすね」
「ど、どうする?ちゃんと言った方がよくない?元はと言えばニーチェが『丁度プレドリパが近くにいるから連れて行こう』って言ったんだから」
「あぅ、でもマキナも肉盾ぐらいになるって賛成してたじゃないっすか」
マキナとニーチェはヒソヒソと相談をし始めた。
こんなに強いのなら後でバレたら同じ目に遭わされてしまうかもしれない。
二人と違いブレドリパだけはアサシンバグから放任されている。やろうと思えば今この場でも好き放題出来るのだ。
ブレドリパからしたら絶対しないと断言出来るが今この場で二人を殺しても構わないのだ。
ニーチェとマキナがその場でジャンケンを始めて負けたマキナがおずおずと頭を下げた。
「……その、じつはブレドリパなら柊心を殺す奴らを排除出来るかもって——0.001%ぐらい期待してけしかけました……デートは嘘です」
「あ、あぅぅ、嘘ついてごめんなさい」
衝撃の事実を告げられたブレドリパは懐から葉巻を取り出して摩擦で火をつけ紫煙を吐き出した。
「ふぅ——。ワシは生前からの約束、己に課した信念がいくつもある。その一つを教えてやろう」
二人に近づきながら何処から持ってきたのかこれ以上雨で濡れないように傘を差し出した。
「たとえ女の嘘で命を取られようとも許せ……女性の罠に嵌められるなど漢名利に尽きるというものじゃ。次もなにか困った事があればワシを頼っていいんじゃよ……しかし、となると」
舞い散る血煙をその目に収めながらブレドリパが興味なさげに視線を切った。
「そう言えば気色悪い左手を持ったゴミがおったのう。疾く起きんか。このクソゴミめが」
ブレドリパが未だに意識を失っているミリアムを嘲笑うように刀身の視えない刀で切り裂いた。
ーーおまけ ーーーー
ジャサファ・ルイノック 35歳
筋力 B
敏捷 A
体力 A
精神 C(A+)
魔法適正 F
神の奇跡の一端
勤勉なる奇跡 緑悪魔生食
あの苦いピーマンを生でバクバク食べてしまう恐ろしい能力。まさに苦悶が生んだ奇跡としか言いようが無い。
対策のしようがなく一度発動すればピーマンに抗う余地はありはしない。
本来の勤勉の奇跡とはかけ離れているが本来の奇跡を使用する事は二度と出来ない。一生……生まれ変わってもピーマン一筋です。
怠惰なる罪業 往生余生
直近での消滅する光景を魂に焼き付ける。




