第46話 永劫残滓4
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あたしはイズヴィに肘を持ち上げられ神経が剥き出しの気味の悪い腕を繋ぎ合わされた。
「これで……魔法が使えるの?」
「うん。でも使うのはあくまでマキナ。そしてマキナはロクシリーヌかクリーヴァの言う事しか聞かない。そして魔法はお前が考えている程、危機が都合よく好転しない。これはシグ婆ちゃんに嫌われてるお前は絶対だから忘れちゃダメっすよ」
マキナというのはこの腕本来の持ち主なのだそうだ。遥か昔に死んで、それでも肉体は生かされて続けている。魂は亡霊となり今も何処かで漂っているらしい。
「いいか淫魔 アタシの言葉遣い ニュアンスを 真似しろ マキナは 頭お馬鹿だから 簡単に騙せる」
ロクシリーヌもなんだか嬉しそうに自分の声や抑揚を丁寧に教えてくれている。
「 あー……あぁ おいこのクソ淫魔 はやくお団子 貰ってこい……。こんな感じかしら?」
「よし! 次は アタシの動きを覚えろ イズヴィ姉様ぁぁあ!!」
ロクシリーヌがイズヴィに抱きついて脇に顔を突っ込んでクンカクンカしだした。
「ちょ!?、やめ……やめろ!恥ずこいからやめるっすよ」
「アタシもこんな 失礼な真似したくないです でも淫魔が魔法を使う為に ごめんなさい イズヴィでぇざまぁああ!!はぁぁあ甘い香りぃい!!」
嘘でしょ?でも力を得る事の代償だって言うのなら——
イズヴィの背後に素早く周りこみ髪の毛を掻き上げ、首筋に顔を抉り込ませるように……
突っ込む! 突っ込む! 突っ込む!
「い、イズヴィ〜〜!!——あ、本当にいい匂い〜。これは頭ラリっちゃいそう〜!!ゲヘヘヘ!ドゥェヘヘヘ!!」
「ちょ、ちょーー!」
「馬鹿な事するな! これはアタシの趣味なだけだ! マキナを呼ぶだけなら さっきので十分 イズヴィ姉様に抱きつくのは アタシの特権だから 真似するな!」
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柊心の四肢が弾けた事を確認し、ミリアムは顔を伏せた。
明らかに自分の意志で殺してしまったのだ。
「まずい……罪過が……くっ、聴こえているかいジャサファ!計画は中止だ!あたいはしばらく嫉妬の罪業を使わない。メネントは勘違いで逃げ出したが寡欲も来ていたからやるのなら二人で——」
雨に混じった血飛沫を浴びながらミリアムの頬に温かい水分が流れ落ちる。
「 あ? 」
ミリアムの景色から色が失われていく。
灰色の景色、柊心の四肢は地面に落ちる事なく多量の水がミリアムに浴びせられた。
「あたいに……なにをしたんだい?」
気配がしていた。
しかし無視していた。後ろの存在は取るに足らない、羨望する価値はないと……軽視していた。
無言でミリアムの前に立ったミズーリが距離を取り始める。
その姿にミリアムは苛立ちながらに口角を上げた。
「これは……毒か……もう……面倒なんだよ。1人殺すのも2人殺すのも……皆殺しにするのも何も違いなんてない……死になよ」
ミリアムが左腕をしならせ音速を超える打撃を放った。
ミズーリの肌に触れたと同時に身体は液状となり、すぐさま元の形状へと変化していく。
「——ふっ……——ふぅー」
「……この世界特有の人種か……気持ち悪い」
ミリアムが目にも止まらぬ連撃を放つもそのことごとくをを躱し、いなし、捌いていく。
「……よく躱せるね。柊心より速く動いているとは思えないんだけど」
ミリアム自身は気付いてない。
先日に柊心に攻撃した時とは明らかに遅く、そして正確にミズーリを狙い続けていた。
まるで回避出来るギリギリの攻撃を敢えて繰り出し続けているかのように
水溜りの中で僅かに光っていた魔法陣が色を失い始めた。
一瞬だけ視線を逸らしたミズーリは安堵のため息を漏らし
「……捕縛」
「ぐっッ!?」
遥かに前方から腕を伸ばした男が近づいてくる。
液状化を試みようにも完全に溶けきれない。
「なるほど——人体の98%を水分と化す術か。こいつは【審判】の持ち主ではないな」
「ジャサファ……なんの真似だい?」
「なんの真似……だと?苦戦していたから手を貸したまでだ」
ジャサファが腕を握ると連動するようにミズーリの首が絞められていく。
「ぐ……が……」
「抵抗するな。抜け出せたとしても、どうせ死ぬだけだ」
ミズーリの朧げな視界には雨粒が僅かに垂れる形跡があった。まるで目には見えないほど小さな糸を巻き付けられたかのように
締められながら首が捻れていく。
可動域限界を迎えた首は
「 喝ッ! 」
残橋の下から聞こえた裂帛の気合と共にあらぬ方向へとねじ曲がる事はなかった。
「貴様らなんのつもりじゃ〜?」
土手から片足で跳躍しジャサファとミズーリの間に入り込んだのは、片目は覆い隠してあり、もう片目は色を失っており、隻腕、その隻腕でさえ指はニ本しか残っていない見るも無残な老人だった。
老人は完全にジャサファとミリアムを睨みながら片足を引きづりながら歩いてくる。
ジャサファは老人よりも自身の出した糸が切れた原因を探っていた。
「もう一度聞いてやるこの塵虫、ワシがマキナちゃんとニーチェちゃんと雨唄を楽しんでいる最中に騒音を出してどういうつもりじゃ!」
ステテテ、パチャパチャと音を立てながらマキナとニーチェの二人が顔を出した。
「ブレドリパの唄って悲鳴ばっかで全然楽しくない」
「違っ——違うんじゃよ!ワシ本来の唄は二人の美しさを表現したかのような優美さで……」
「あぅ〜、詩の事わからないけど絶対タウカスの方が良い詩を作るっすよ」
「アタシもう帰る。せっかく身体もらったのに時間損した」
「あっしももう帰る。どうせもう無理だし」
マキナとニーチェ二人が凄惨な光景そっちのけでそっぽを向いてしまった。
女性二人からの軽蔑の目に晒されたブレドリパがガッカリと肩を落としながらオヨヨ、泣き崩れた。
そしてジャサファ、それにミリアムを片目で捉えた。
「ワシに一切の非はなかったはずじゃ。ならばこれはもう貴様らのせい以外ありえんな?」
言葉よりも疾く、ジャサファとミリアムの額が割られた。
「が……ふ」「か——ぐはぁ」
「今回はデコピン一発で勘弁してやる。盛るにしても次からはワシがおらん場所で殺しあわんか!ワシのデートを邪魔しおって!ぐぬぬ……腑煮えてきたわ!こん——のっっ大馬鹿共がっ!」
更に割られた額から血が噴出するよりも疾く、ジャサファとミリアムの額は再度割られた。




