第44話 永劫残滓2
柊心の目にも止まらぬ連撃をミリアムは耐える事しか出来ない。
動きに対応が出来ていない。
そして柊心の攻撃に対応する術を使う事が出来なくなっていた。
「……ぐっ……何故……どうして羨望の奇跡が使えない」
耐え続けた先に活路などありはしない。
ミリアムに体力の限界などいつ訪れるのかわからない。
何故自身の苦悶とも言える奇跡が訪れないのか、
他の情景を羨望する者に訪れる奇跡、
羨望したものと同等の能力を得られる奇跡、
この奇跡が自身に降り掛かればミリアムは柊心に負けないのかもしれない。
しかし殺さずに勝つ方法などミリアムは知らない。
自身が努力の果てに得た成果ではないのだ。
相手の実力を見極め実力を抑える。
他者の力を羨望したミリアムは相手の実力を見極める力が欠けている。
手加減するという行動はそんなに安い芸当ではない。
ならば先程神の名にかけた誓い
『誰も殺さない』を守る為には奇跡など与えられようはずもない。
結果としてミリアムは削られ続けて息を切らしていた。
反撃一つ受けることなく明らかに消耗しているミリアムに苛立ったように攻撃の手を止めた。
「……反撃出来ないわけないわよね?速度だって落としてる。隙だって見せた」
「はぁ、はぁ、もう……やめよう。残念だけどさ、あたいの本気は柊心には見せられないみたいだ」
「ふざけるんじゃないわよ……あたしが……あたしがなにを賭けてここに来たと思ってるのよ!」
柊心が憤りながら口布を外した。
瞬間目からはドス黒い血の塊が流れ落ち
口からは血に混じって白い塊……数本の歯を地面に吐き出した。
「あたしは後戻り出来ないのよ。その前に……七つの美徳を——あんた達を止めてやるわ」
「……あたい達がなにをするのか知っているのかい?」
「意志の持たない奴隷を作るつもりでしょう」
「違うよ……この世界の生物を皆殺しにしてやるつもりだ。二度とお前のような——奇跡の末子様のような存在が現れないように」
柊心の先は長くないと判断したミリアムは自身の顔を覆った。柊心は生い先長くないから最後の相手にミリアムを選んだのではない。
本気を出して死ぬのならミリアムだと結論付けて勝負を挑んだのだ。
なのにミリアムはぐたらない約束を頑なに守り、
柊心の純粋な想いを踏みにじっている。
「……悪かったよ。その代わり恨みっこなしだよ?
羨望の奇跡 羨望模写」
「あたしからも言っておくわ。卑怯なんて言わないでね
装填換装 極死舞踏」
柊心は懐から弾丸を取り出し真上へと弾いた。
弾丸は楕円を描きながら足元を通過して地面へと
「舞えっ!シギリージャ!」
柊心が地面スレスレで弾丸を蹴り飛ばした。
ミリアム目掛けて発射された弾丸は
「——音速……今更遅いよ……!?」
最小限の動きで弾丸を躱したミリアムの表情が曇った。
柊心がいない。
そして先程避けた筈の弾丸がミリアムの肩を撃ち抜いた。
「 ぐ!?……脆い身体だ……がふぅ——」
肩を貫いた弾丸が全くの別角度から再度飛来してくる。ミリアムには弾丸の角度も速度も把握できなくなっていた。
何度も何度も、自身の体を貫かれるうちに理解していく。
崩壊と引き換えに
「は 弾丸を蹴り飛ばし……続けてるのかい」
「まだ速くなるわよ。塵になるまで踊りは終わらない!」
崩壊する身体。
新たな出血よりも速く傷が作られ
傷よりも速く弾丸が新たな銃槍を作り上げていく。
「 あ あぁ ごめんよ。約束……守れそうにない。ごめんよ。あたいは……守れそうにない。初めからあたいには殺す以外の方法なんか持っちゃいなかったんだ」
何発もの銃槍を両膝に受け続けてついにミリアムが膝をついた。両の手を結び瞳を閉じ
それは何かに祈るような仕草だった。
「柊心、あんたが想像する神はどんな姿をしている?あたいが想像する神は愚かなあたいを……世界中を優しく見守って下さる全望なる眼だ。
羨望なる苦悶を経て……嫉妬なる罪業を此処に
世界射抜」
「——!?」
柊心の足に風穴が空けられた。
中空で微動だにしていない弾丸を蹴り飛ばそうとし、自らの足が貫かれていた。
それと同時に全身に無数の風穴が空けられていた。
不意な出来事に体制を崩して落下していく。
数は多いとはいえ小さな怪我をしただけだ。
傷の確認よりもミリアムから目を背けるような真似はしない。
柊心はミリアムを——同時に周りの景色を見て驚愕した。
「痛っ……雨粒が……止まっている」
「これがあたいの罪業さ。あたいは世界の時間を止める。正確には時間を縛ってるんだけどね。全ての生命なき物質は今この瞬間、あたいが罪業を解除するまで固定され続ける。あたい以外は何人も干渉出来ない」
「……生命なき……物質?」
柊心は振り落ちる筈の水滴に貫通されダメージを負っていた。そして不可解な事実に気付いた。
「あたしの服や靴はどうなのかしら?」
生命に触れられれば動けるようになるわけではない。
そうでなければ水滴が固定されている理由が付かない。
「自分で確かめなよ。我が嫉妬は満たされた」
柊心の風穴から血が舞い上がる。服に、靴に引っ張られるように半中空に浮き上がり
靴を履いていた両足と胴体を引き連れて空に飛び上がった。
「四肢欠損——三肢欠損ってやつだね。柊心、あんたを羨望して嫉妬して理解出来たよ。弱く脆く成り下がり立つ事もままならない状態ならばせめて美しく倒れようとする姿、まさに贖罪に相応しい相手だったよ。死ぬ前に末子様を葬った奴をあたいに刻んでから逝きな。仇は討ってやるからさ」
「はばぁうぅうぐぎぃぃ——。あたし言ったわよね?『卑怯なんて言わないでね』って」
柊心の左腕の包帯が解けていく。
それは神経が剥き出しにされた歪な形をした左腕、
柊心が声色を変えるように最後の力を振り絞り声をあげた。
「マキナ やれ」
ミリアムの罪業によって止められた世界が動き出し、
マキナの魔法によって時間が狂ったように逆行していく。
『……馬鹿にして——お前は幾多の過去でクリーヴァ義父様を殺した奴だろう。苦しんで死ぬ未来を沢山選び続けてやるから感謝しろ』
四肢が、首が飛び散り柊心は痛みを感じる事なく、
呆気なく絶命した。
上空をふよふよ漂うマキナをミリアムが見つめている。
そして王宮魔導士のマントを羽織った男の姿も視界に収めていた。
「お前……あたいの世界ではお前みたいな奴は人だけを惑わす妖、この世界では……幽霊、解明出来ない事象である真怪、いいやその風貌は天使か。神の代行者であるお前が【審判】を発動しているのかい?」
『……その答えられない質問は何度目だこの馬鹿が。どうせ覚えてられないでしょ?時間を戻してやるから次も柊心を殺し続けろ。もっと苦痛で顔を歪ませろ。悲壮感を溢れさせろ。懇願しても尚も殺し続けろ。アタシが満足するまで、クリーヴァ義父様が満足するまで、ロクシリーヌ母様が笑うまで——お前達は解放しない。お前はそれだけ自覚して柊心を殺し続けろ』
時間が逆行していく。
「なるほど成る程。やけに世界が狂っているとは思ってはいたが……もう捻れた信仰が侵略してたのか。それにしてもあの加護は【審判】と言うのか……ロストが知っていると仮定すれば今の僕には心当たりがある。ロストが必要以上に拘っていた場所、あの場所だけはイズヴィが不可解な魔法陣を何度も敷き直している……ブイが呆気なくやられた理由……繋がる。ブイが取るに足らない女冒険者を何度も殺していたのは《捻れた信仰》を排除する為か」
誰もが逆らえない時の渦中、発動者と同じ瞳を持つジュデッカが笑いながらその場から先へと進んだ。
「ハハハハッ!ようやく神の尻尾を掴んだぞ!【審判】は持ち主が存在する!今は亡き神の力の一端を授けられし者はジル・ローレスだ。これまで通り慎重に……これまで以上に慎重にだ。虎の子であるマキナの眼球を消費した甲斐はあったな……あぁ、もう虎の子でも何でもないな。【審判】は時を戻すなんてレベルじゃない。捻れた信仰よりも早く回収してやる」
ジュデッカは使い果たした眼球を握り潰して姿を消した。
第八章 完
ーーーーおまけ 人物ーーーー
ミリアム・ジェント 年齢21歳
筋力 D(S++)
敏捷 D(S++)
体力 D(S++)
精神 D(D)
魔法適正 C(C)
()内は羨望の奇跡を使用後の能力、体内に魔力はあるが使用方法がわからない。
ーー 奇跡の一端ーー
羨望の奇跡 羨望模写
過去に羨望した能力を自分に上書きする。自分より弱い相手を羨望出来ないので使えば使うほど強くなる。
本人的にはあまり使いたくない。
嫉妬の罪業 世界射抜
無生物の動きを止める。生物に触れる事で動かす事は可能だが罪業を解除したのち、あるべき場所へ戻される。ややこしい事に加えてそもそも作者の描写が下手すぎる。
作者的には二度と使いたくない。




