第41話 知的なレイラ現る
上品な足取りで平民街から貴族街の門へと歩いて来る少女の姿が門兵の目に止まった。
長年多くの貴族の顔を見てきた門兵は顔を見るまでもなく上位貴族である王国貴族だと悟る。
しかし近づくにつれて違うとわかった。
その少女はある意味で国王よりも有名な顔なのだから。
しかし誰が決めたのか命令には従わなければならない。
「……失礼します。ここから先は貴族街だ。寄るな寄るな」
「テオンドにリンク。毎日門を守るお仕事ご苦労様ですわぁ」
少女は門兵二人を労うかのように声をかけた。
「あ、私などの名前を覚えてくれているのですか?」
「ぴょええ?貴方達と会うのはもう23回目ですわぁよ。貴方達もわたくしのお名前を覚えてくれてますのよね?」
「も、勿論でございます!レイラお嬢様!」
馬鹿っぽい喋り方とは裏腹に今のレイラは知的であり所作全てに気品を感じられた。
カーター家の令嬢に声をかけられるだけでなく、名前を覚えられていたと知った門兵は思わず目がしらが熱くなっていく。
「レイラお嬢様、どうぞお通りください!」
「ぴょええ。ありがとうございますわぁ。甲冑は冷えますから甘唐辛子入りのパンと飲み物をどうぞですわ。お身体ポカポカになりますわよ」
レイラは積荷から食料と水を門兵二人に差し出した。
差し入れ行為を受け取る事は禁止されてはいないがカーター家の令嬢直々の差し入れ、受け取っていいのか迷った挙げ句
「ありがたくいただきます!宜しければ荷車を引かせる兵をお呼びいたしましょうか?」
「お気持ちは嬉しいですけど兵士さん達には王都を守るって言う立派な使命がありますわあ。そのお優しい行為を受け取ってしまったらあとでパパーパに叱られちゃいますわ」
荷車を巧みに引くレイラを門兵二人は優しげな眼差しで見送った。
…
……
同じような調子でレイラは王宮の中に入っていった。本来ならレイラといえど王宮内までは入れない。しかしカーター家の令嬢という身分にくわえて、人の心を掴むような巧みな話術で難なく入っていく。
貴族達が集まる会議室の前には専属の執事の姿があった。その中にはウィルの執事であるセバス爺の姿もあり、レイラはゴクリと生唾を飲み込んだ。
「……何のようですか?」
「ぱ、パパーパにお会いしたいですわあ」
「旦那様はお仕事中です」
「ぴょええ、でも緊急なんですのよぉ〜」
「そうですか。夕食時にはご帰宅されますのでレイラ様も一旦帰ってはどうですか?」
「ぴょええ」
セバスの対応は冷たいものだった……というかそれが普通だ。
レイラはセバスの一瞬の隙——などはなかったのでその場で大きく声を張り上げた。
「パパーパ!パパーパ!わたくしですわあ!レイラですわぁ!パパーパ!」
ダダダ、と扉の奥から物音を立てながらなにかが近づいてくる。
なにかなどと言ったが来るのは血相を変えたウィルだ。
「レイラ!?ど、どうしたんだい?」
「パパーパ!大変なんですのよぉ!」
娘を落ち着かせるようにそっと肩を抱いて後ろを振り向いた。扉の奥には話を途中で遮って不満顔な貴族連中がいる。
「レイラ、言いにくいのだがね、パパは今仕事中なんだよ……それにどうやって入って来たんだい?怒るわけじゃない。叱るわけでもないんだ……ふぅ、あ、あぁ、そのだね……アレだ。なんだ——よしっ!今日はもうパパ帰るから一緒に家に帰ろう!」
歯切れの悪いウィルは当たり前の結論に行き着いた。
意味のない拘束よりも娘とのひと時を優先しだす。
レイラはそんなダメな男の袖をそっと握った。
「わたくしが悪い子だって事はわかってますわあ。わたくし……わたくしアルフィーの町に帰る前にパパーパのお仕事してるカッコイイ姿を見たかっただけなんですのお。パパーパだけじゃなくて貴族様達の大事な時間を無為にしてしまって——悪い子でごめんなさい」
レイラは目に見えて肩を落としていた。
ウィルは意を決したように襟元を正し貴族達に向き直った。
「そんな訳なんで……皆さんよろしいかな?」
肩をすくませおどけた態度をしていたが顔は喜びに満ちていた。娘が自ら父親の仕事を見たいと艱難辛苦を乗り越えて王宮までやって来てくれたのだ。
ウィルにしてみれば寧ろ帰したくないまである。
なにがよろしいか!という何人かの貴族は心の中でツッコむまでにとどめた。
「あまり褒められた事ではないが、隅で立たせるぐらいなら構わない——ウィル!そんな目で睨むな!……黙って座ってくれると約束出来るのなら今回は特別に許可しよう」
「お、おお、ディヒト君!」
「流石は200年間ダロス王国を守ってくださった由緒正しき王国貴族のディヒト・ラウンジ様ですわあ!」
「レイラ嬢、私に世辞は通用しないよ。聞き飽きているからね」
「ぴょええ!?」




