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第37話  十中八九で勘違い


 レイラは商品棚をぐるりと見渡していた。

 しかし欲しい商品はありはしない。


 どれも一度は目を通したことある品物ばかり。

 そもそもレイラは買い物に来たわけではない。


「奥に借金のかたに連れて来た人間がいるからどうかなぁ?不死者の塔にでも送り込んで荒稼ぎを夢見てみたらぁ?」

「……嫌ですわよ。人のお世話は大変ですのよ」


「だよねぇ。リドヴィアちゃんもタダでも要らないかなぁ」

「あの、わたくし何も要りませんからお小遣いと交換で白い粉の情報を教えてくださる?」


「そんな訳にはいかないよぅ。店主さんもリドヴィアちゃんも商品を買ってくれたおまけとして知っている情報を喋るだけ。金に目が眩んで『情報を売り渡した』なんて噂は立てられたくないんだよぉ」


 レイラは仕方なしにポケットに収まりそうなアクセサリーを手に取った。お守りの一種なのだろうが本人としては荷物にならないから選んだだけ。


「これにしますわ」

「あぁい。それは銀貨20枚だよぉ。次は何にしますかぁ?」


「えぇ〜、もうポケットに入りませんわよ」

「安物ばっかり買ってるからだよぉ。だったら妖精の瓶詰めなんかどうかなぁ?」


 リドヴィアは楓をされた瓶を取り出しレイラに手渡した。中には四つの羽を折りたたみ項垂れている小さな人型がいる。


「あ……これにしますわ——うんしょ、うんしょ」

「ここで開けるの!?」


 レイラは瓶を手に取り即座に封を開けた。

 妖精は飛び出し警戒しながらパタパタと天井を浮遊している。

 


「うわぁ……これ捕まえるの大変だよぉ」

「捕まえませんわよ。妖精さんは逃しますわよ」


 レイラは建て付けの悪い窓を開け放った。

 妖精は罠だと感じているのかレイラ達と窓の外を交互に見ながらその場所から動かない。



「はい。空瓶はお返ししますわ。まだ妖精の瓶詰めはありませんの?」

「あー、要らない物買ってるのねぇ。あといくつあったかなぁ……2つか。一個金貨4枚だけど——」


 リドヴィアは店主が丁寧に調べている金貨に目をやった。金貨は全部で十枚。小物を買っていなくとも全ての妖精の瓶詰めなど買えやしない。

 


「残りを買ってくれるなら全部で金貨9枚でいいよぉ」

「10枚にしてくれませんの?」

「何処の世界に値上げ交渉する人がいるの!?それと純金貨だけは受け取れないよっ!きっとお父さんとお母さんが探してるから返して来なさいね!」



「……そういえばこの金貨は誰から貰ったんでしたっけ?パパやママじゃない。お兄様でもなくて……でも確かに……わたくしはこの金貨を……まぁいいですわ」


……


「もう捕まっちゃダメですわよ〜」


 レイラは一つ二つと封を解き窓の外へ妖精を逃していく。天井付近で警戒していた妖精も少し目を離した隙に窓から逃げ出したのだろう。


 レイラが妖精が飛び立つ様を見送っている最中リドヴィアと店主は奥でヒソヒソと会話をしていた。



「リドヴィアさん、純金貨ですよ!純金貨!どうして返すんです!?あれがどんな物か知っているでしょう!?」



「持ち主の身を守る為にシグ様に気に入られた存在に1枚ずつ。全部で5枚創られた魔力の全く込められていない魔法の硬貨だよねぇ。昔に聞いた話しだと魔物は勿論、竜人にも通用して東邦連邦まで行けちゃったらしいね。そりゃあ襲っちゃったが最後それはシグ様への宣戦布告だ。あはははぁ!旅人、冒険者、商人垂涎の無敵アイテムが目の前にぃ!」



「その価値がわかるなら……リドヴィアさんの契約書を使えばどうですか?」

「あれは——アレは等価交換の魔法なのっ!あの子相手だとたしかに純金貨は簡単に取れるよ。でも取れたところで使い道がない。そんなお金ちゃんに興味はな——い……くぅぅ!欲しいけど何事も欲しがりは良くないのぉ!この強欲店主」


 リドヴィアはプンプン怒りながらレイラが探しているだろう粉を梱包し始めた。


「お待たせぇ、そう言えば名前聞いてなかったけどなんて名前なのかなぁ?」

「あ、名前——わたくしの名前はレレラですわよ」


「へぇ〜レレラ……いい名前……じゃないけど素敵な名前だねぇ」


 リドヴィアは笑顔で応対しながらも考え込んでいた。

 貴族の娘の名前に《レレラ》などいただろうか?

 公式に存在しない貴族の子供はいる事はいるが、そのような子供は何処か辺境の地で穏やかに暮らしているはず、間違っても王都に顔を出すはずがない。


 もう正直に聞こうとも思ったが、まだ早い。

 レレラとの信頼関係など皆無。それに彼女に渡すべき情報も渡していないのだから。


「レレラちゃんが調べたい粉ってのは、たぶん魔薬の事だと思うよぉ〜。おまけであげるねえ」

「なんの薬ですの?」


「あいつの今の名前なんて言ったかなぁ……ま、いっか。製造者曰く『絶対に幸せになれる』馬鹿馬鹿しい薬だよぉ』」


 レレラは白い粉を手のひらに移しニオイを嗅いで口を開き上から下へと粉を落下させていく。


「あ!リドヴィアさん!あの量はヤバいですよ!」


 店主が慌てだした。レレラは二人にとって上客だ。それが魔薬の適正使用量を遥かに超える量を体内に入れてしまったのだから。


「けほっ……少し甘い?でもたしかに今まで食べた事のない味がしますわね……不思議な粉ですわね」


 レレラに特に変化は見られずに瓶に残った粉を振っていた。



「リドヴィアさん……あの子、後遺症とか……大丈夫なんでしょうか……リドヴィアさん?」



「大丈夫だよぉ。中身は砂糖加えて着色しただけの粗小麦粉だから。ンッフッフー、いろんな事が繋がり始めて今たしかに確信したよぉ!お金の匂いがプンプンして来た!

 レレラちゃんは十中八九で世間知らずな王族の隠し子だね!ダロス王家も元を辿ればヴィント家だよ。ロスト・ヴィントが純金貨を持っていたのは知ってたけど、ロストが消滅してその後誰が持ってるのか幾年わからなかった……でも、ようやく前に進めそうだよぉ」



 リドヴィアは呑気に水で口をゆすいでいるレイラを盗み見て笑った。



「ロスト・ヴィントは絶対に【審判】の持ち主を知っていた。奴がいない今、それを探す手掛かり……レレラちゃんに何か起きたら……何か起きてくれないかなぁ」


「リドヴィアさんが命令するのであれば……俺がなんでもやりますよ」

「ん〜、……そうだねぇ……リドヴィアちゃん達に出来る事はレレラちゃんに協力してあげる事だけ。【審判】なんて確実に発動されたってだけで未だに全容が見えない奇跡なんだからさぁ。そんな危険な奇跡に大事な戦力は裂けないよ」

 


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