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第34話  お説教


 レイラはセバスに優しく手を引かれてテクテクと歩いている。チラチラと顔を伺うも夜道も相まって表情はわからない。


 レイラは震えていた。柊心が血を流して眠っているのはいつもの事なので今はそれ程心配してはいない。

 起きたら何事もなかったように振る舞っている。

 今回もきっとそうだろうと思っていた。


 ならば震えている理由は一つ。


「あの……セバス爺……わた、わたくし、パパとママには内緒で——その」



 レイラは良い子で育っている。両親は常に心配しているかもしれないが少なくともレイラ自身が心配をかけるような真似はしていない。



 しかしウィルの執事であるセバスに見つかってしまった。

 セバスは必ずウィルに報告するだろう。

 そうなればウィルは心配する。

 心配どころか怒られる可能性がある。


 前もってセバスに今回の事は内密にしてほしいとお願いするつもりだった。

 しかし無言で歩き続けるセバスがわからない。いっその事『今回の件は旦那様に報告しますので』と言われた方がレイラもやりやすかっただろう。


「……随分と歩きました。そろそろ眠れそうですか?」

「え?なにがですの?」



「私も眠れない夜はよく散歩をしておりました。お嬢様も眠る為に散歩をなさっていたのでしょう?」


 セバスはなにか勘違いをしてくれている。この勘違いを利用しない手はない。

 そう思ってからのレイラは饒舌になりセバスを欺く為に口裏を合わせた。


「そ、そうですのよ!わたくし全然眠れなくてお外をお散歩してましたの!変な建物に心ちゃんと一緒に忍び込もうだなんてこれっぽちも思ってませんでしたわ!」


「そうですか。私も若い頃には覚えがありますよ。不謹慎ながらも……ワクワクしましたね」

「セバスも夜中に何処かに忍び込もうとした事がありますの?」


「えぇ、義父の目を掻い潜り目的もなく……今思えばたんなる好奇心でしたね」


 レイラにとってはセバスが悪い事をしていると言う話しはにわかに信じられなかった。

 父親からもアイシャからもセバスという人物はよく聞かされている。



「しかし家に戻れば養父が鬼のような形相で待っていたのですよ。ふふ、尻が二倍に腫れ上がる程に叩かれましたね」


 レイラはゾッとした。これからレイラにはお尻百叩きの刑というまことしやかな罰が待っているのだと。


「わ、わわわわたくしはお散歩してただけですわ」

「私もそのような嘘をついた事があります。しかし親にとっては関係ないのです。心配をかけてしまった。それがいけないのですよ……わかりますね?」


「あぅうう……で、でも……わたくしが嫌がる心ちゃんを無理矢理誘いましたのよ。わたくしが全部悪いんですのよ。セバス爺からもパパとママにそこをしっかり説明してほしいですわ。それに二度と夜に出歩かないって約束しますわ」


「レイラお嬢様が言うのならそれでも良いでしょう。しかし目的を達成せずに想像の恐怖で歩みを止めるぐらいなら初めからやるべきではないのです」


「……セバスはお尻を叩かれても夜に出歩きましたの?」

「勿論です。次は『バレないように抜け出そう』と心に固く誓いましたよ」



 

ーー

ーー

ーー


 翌日になるとレイラの前に柊心が姿を見せた。服で見えない部分が多いが小指と腕を始めとして身体は痛々しいアザが出来ていた。


 なによりも、

 柊心の右腕は消失していた。


「……レイラ、ごめんなさい」

「心ちゃん?急にどうしましたの——あ!大丈夫ですわよ!パパとママにはバレてませんわ!」


 レイラには見当もつかない。何故柊心がレイラに謝っているのか、


「本当に……本当にごめんなさい」

「……だ、大丈夫ですから顔をあげてほしいですわ」


 頭を下げている柊心の肩を持って起こそうと試みだが……動かない。テコでも動きそうにないほど力を込めていた。


「あたしは……忘れてたのよ」

「——え?」


「あたしは自分の事に夢中でレイラがいる事を忘れていたの。あたしはレイラが死ぬまでその事に気付けなくて——ううん、違うわ。気付かなかった」


「わたくし生きてますわよ。勝手に殺さないでほしいですわ」



「……あたしは頭がおかしくなってるのよ。どうしてレイラが生きているのかわからないわ。レイラが生きててくれて嬉しい反面……レイラが死んだ時に感じた憤りは何処にいけばいいのかわからないの……あたしは……レイラに謝る事しかできない……ごめんなさい」


 何度も謝罪の言葉を口に出した柊心はレイラに背を向けた。レイラもなにかを悟った。ここで黙って見送れば二度と柊心はレイラの目の前に姿を見せないのだろう。と。


「心ちゃん!」

「……」



「お小遣いの日になったらちゃんと受け取りに来ないとダメですわよ!わたくし待ってますわよ!」


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