第八十七話「笛の音」
残り四日。
ダンテが最後の手当てに来たのは、雨上がりの午後だった。
中庭の長椅子は、まだ濡れていた。ダンテは布で座面を拭いてから腰を下ろした。ゲオルグが古い傷に最後の包帯を巻く。荷造りで薬の多くは、もう箱の中だった。残った布とわずかな軟膏で、老医師はいつもどおりの手つきで傷の上を整えていった。
「これで終いだな」と、ダンテが言った。
「ああ。ここでの手当ては、これが最後だ」
ダンテは巻かれていく包帯を見下ろしていた。怪我はもう、ほとんど治っている。それは本人もわかっていた。手当ては口実だった。井戸の水を一杯もらい、日を浴びて帰る昼の。その口実が、四日後にはなくなる。
「救護所には、通えるのか」
「歩けば半刻だ。私もそこにいる。当面は」
「そうか」
それ以上は聞かなかった。半刻の道を通うかどうかは、この男がこれから決めることだった。テスは薬草を干していた手を止めて、その遣り取りを遠くから聞いていた。飲まなかった夜を数える男が、数える場所を変えていく。そういう日が来ていた。
手当てが済んだ。
ダンテは井戸の水を一杯飲んだ。それから長椅子に戻って、しばらく濡れた中庭を眺めていた。立ち上がったのは、日が雲の間から傾きかけた頃だった。
「世話になった」と、ダンテはゲオルグに言った。
「達者で」
ダンテが門の方へ歩き出した。
そのとき、薪小屋の陰からミオが出てきた。
少女はいつも、ダンテの酒の匂いを怖がっていた。今日は匂わない。ミオは長椅子の方へ二、三歩近づいて止まった。ダンテが振り返る。少女と男の視線が合った。男の口がわずかに開いて、何も出てこなかった。子供にかける言葉を、この男は持っていない。
ミオが帯から何かを取り出した。
古い、木の笛だった。
テスは息を止めた。少女がずっと、決して鳴らさなかった笛。声を出すといいものが消える——その確信の外側に置かれたままだった笛。ミオはそれを両手で口元に運んだ。小さな指が穴を押さえる。少女はダンテの方を見ていた。
短い、掠れた音が一つ鳴った。
それきりだった。続かない。音は湿った中庭の空気をわずかに震わせて、すぐに消える。澄んでもいない。長くもない。けれど確かに鳴った。去っていく男への見送りだった。声の代わりの。
ダンテが立ち止まった。
男は少女を見た。一瞬、何が起きたのかわからない、という顔をする。それから、笛を持つ小さな手と、こちらを見ている丸い目に気づいた。男の喉が一度動く。何か言いかけて、けれど言わない。ただ頷いた。深く、一度。それから門の方へ向き直って歩いていった。
ミオは笛を下ろした。
口元から離した笛を両手で握っていた。声は出ていない。あの一音は笛の音だった。少女の喉から出たものではない。声を出すと消える、というあの確信は、まだほどけていない。けれど笛は、その確信の外にある。鳴らしても何も消えなかった。少女はそのことを確かめるように、握った笛を見下ろしていた。
テスはその隣にしゃがんだ。
「いい音だった」とは言わなかった。上手だった、とも言わない。それを言えば、また「いいもの」が増えて、消えるのを恐れる種になるかもしれない。テスはただ、ミオの傍らにいた。少女がこちらを見上げる。テスは頷いた。少女も頷いた。
それが、二人のやり取りだった。
以前のように、ミオがテスに短い言葉を返すことは、まだなかった。芋が好き——あの頃の関係には戻っていない。一度壊れたものは、同じには直せない。けれど戻らないまま、別の形ができていた。言葉ではなく、頷きで通じる形が。
門の方で、ダンテの足音が遠ざかっていった。
ミオはその音の方を、しばらく見ていた。それから笛を、また帯にしまう。鳴らした笛を捨てなかった。隣に置いておく。テスは立ち上がって、少女の頭に手を置いた。雨上がりの、湿った髪が手のひらに冷たかった。
「中に、入ろう」とだけ、テスは言った。
少女は頷いて、テスの後をついてきた。
次話:「最後の患者」




