第六十三話「また、六十日」
残り五十八日。
その日の夕、ゲオルグが全員を院長室に呼んだ。
テスと、通いの賄い婦と、通いの薬師。施療院を回している、わずかな人数だった。ミオも呼ばれて、隅の椅子に小さく座っている。窓の外では日が落ちかけて、薬棚の硝子瓶が傾いた光を受け、琥珀色に染まっていた。
ゲオルグは、上着の内側から、あの書状を取り出した。
二日前の朝、テスが見たものだった。封蝋はもう割られている。老医師はその紙を二日間、ずっと内側に抱えていたのだ。誰にも見せず、一人で読み返していたのだろう。紙の折り目が、何度も開かれたせいで白くやわらかくなっていた。
二日間、一人で。
テスは、その折り目を見て思った。悪い報せを受け取ったとき、人は二つに分かれる。すぐに誰かに言う者と、抱え込む者。ゲオルグは抱え込む方だった。一人で背負うことに慣れすぎている。それは強さのようでいて、本当は助けの求め方を忘れた人間の形でもあった。
「王命だ」とゲオルグは言った。声は平らだった。「この聖アルマ施療院は、閉じられる」
賄い婦が小さく息を呑んだ。薬師は手にした帳面を取り落としかけた。
「戦が終わって、国は金が足りん。古い施設を畳んで、まとめるそうだ。ここもその一つに数えられた」ゲオルグは紙の文面を指で追った。「猶予は——六十日」
——また、六十日。
その符合は、テスの胸の中にだけ落ちた。
口に出すことではない。誰も知らない。けれど、終わりまでの日数を数えながら生きるあの感覚を、テスはもう知っている。牢の中で一度。今度は自分の死ではない。建物の死だ。けれど数え方は同じだった。一日が、また一日と減っていく。
賄い婦の「そんな」は、途中で消えた。薬師が「異議は申し立てられないのですか」と聞く。ゲオルグは首を振った。
「王の裁可だ。覆らん」
部屋が静かになった。硝子瓶の中の光が、少しずつ色を失っていく。
テスは、ゲオルグの手を見ていた。書状を持つ指がわずかに震えている。寒さではない。この人は寒さでは震えない医師だ。三十年、この施療院を一人で背負ってきた人だった。戦の傷を診て、飢えた子を拾い、夜中の急患に起きてきた。その三十年が、紙一枚で畳まれようとしている。
「先生」と賄い婦が泣きそうな声で言った。「先生は、これからどうなさるんです」
ゲオルグは、答えなかった。
答えがないのではない。答えを、まだ自分でも見つけられていない顔だった。「医者である自分」以外の自分を、この人はおそらく一度も持ったことがない。施療院が閉じるということはこの人にとって、自分という存在が一つ消えることとほとんど同じ意味を持っている。
テスは、それを言葉にしなかった。今は、まだ。
代わりに、隅の椅子に座るミオを見た。
少女は、膝の上で両手をきつく握っていた。閉じるという言葉の意味を、九歳なりに理解している。ここはミオの居場所だ。住む場所であり、声を返せる数少ない相手のいる、唯一の場所だった。それが消える。
テスは立ち上がって、ミオの隣にしゃがんだ。
「大丈夫」と言いかけて、やめた。大丈夫ではないからだ。嘘はつかない。代わりに、子供の握った手のそばに、自分の手をそっと置いた。触れはしない。ただ、近くにある。
「ミオ」と小さく呼んだ。「怖いね」
ミオは顔を上げて、テスを見た。
その目が、何かを探すようにテスの顔を見つめた。返事を待った。「うん」でも「やだ」でもいい。一言でいいから。けれど少女の唇は固く閉じられたまま、開かなかった。それどころか、テスの顔を見るほどに、ミオの体は少しずつ椅子の奥へと引いていった。
まるで、目の前にいるのが、知らない誰かであるかのように。
——違う。
テスの中で、何かが、小さく傾いた。
ミオの沈黙は、閉鎖の報せのせいではない。あの最初の違和感はもっと前——昨日の昼、芋の椀を渡したときから、すでに始まっていた。あれは閉鎖を知るより前だ。
ならば。
変わったのは、ミオじゃない。
テスは、自分の手を見た。今朝も患者に水を配った手。問診の言葉を口にした、この口。二つの人生を受け取った二日前の朝から、自分の何かが変わったのだとしたら。それを、言葉を持たないこの子だけが、誰よりも先に見抜いてしまったのだとしたら。
次話:「鳴らない笛」




