第四十九話「冤罪を知っている」
残り一日。
「一つ、聞かせてください」
遥は言った。
王が目を向けた。今日の来訪は短かった。来て、少し話して、帰るつもりの様子だった。でも遥の問いに、足を止めた。
「私の罪についてです」
王が少し硬くなった。
「反逆罪は、冤罪ですか」
王の体が、ほんのわずかに硬くなった。
長い間だった。護衛と御側近が、後ろで息をひそめたのがわかった。
「……何を根拠に言っている」
「ゲームのシナリオを知っているから、ではないです」と遥は言った。「あなたがここに来るたびに——何かを確かめているように見えたので」
「確かめている」
「はい。私が怒っているかどうか。恨んでいるかどうか。あるいは——怯えているかどうか」
王の唇が薄く引き結ばれた。
「怯えていると、楽になりますか」と遥は聞いた。
「何が言いたいんだ」
「罪がないと知っていて処刑を決めた場合——相手が恐怖している方が、正当化しやすいかもしれないと思って」
王の目が、鋭くなった。でも怒鳴らなかった。怒鳴れなかった、という方が正確かもしれない。
「……知っていた」と王は静かに言った。
遥は答えなかった。
「証拠は薄かった。ただ——あの日、無礼を働かれた。私を笑ったのか、と思える言動があった。それが腹に据えかねて」
「それで処刑を決めた」
「……決めた後、側近から証拠が足りないと進言があった。だが取り消さなかった。取り消せば、私が間違えたことになる」
「そうですか」
王が、遥の顔を見た。
怒りを向けられると思っていたのかもしれない。非難を向けられると思っていたのかもしれない。遥の顔は、それが来なかった。
「怒らないのか」
「怒っていないわけではないです」と遥は正直に言った。「ただ——あなたが今それを言えたことの方が、今は大きいです」
怒りはある。ないとは言えない。証拠が薄いまま処刑を決められた。それは理不尽だ。でも今、この石の部屋の中で、その王本人が「知っていた」と言った。誰にも言えなかっただろう言葉を。遥の怒りと、その言葉が出てきたことへの何かが、同じ重さで遥の中にあった。
「知っていた」という言葉が出た。「正しかった」という防衛に、小さな穴が開いたということだ。
「……何も変わらない。お前は処刑される」
「そうですね」
「何も、変わらない」
「変わらないかもしれない」と遥は言った。「でも、あなたが言えた。それは確かです」
王が帰った後、遥は石床に座ったまま、長い時間をかけて今日の話を整理した。冤罪を知りながら処刑を決めた、と言った。取り消せば間違えたことになるから取り消さなかった、と言った。その言葉の重さが、遥の中にあった。怒り——もちろんある。理不尽だ。でも、その人が今日それを言えた。言えた事実は消えない。変わらない事実と、変えられたかもしれない何か。それが今夜の遥に残っていた。
次話:「正しかった、という鎧」




