表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の残り六十日、私は牢獄の精神科医でした  作者: 夜凪 蒼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/78

第四十一話「王の来訪を待つ夜」

残り四日。


夜中に目が覚めた。


理由はない。ただ目が開いた。石床が冷たい。体を起こして、壁に背を預けた。


明日、来るかもしれない。


来ないかもしれない。でも、来ると思う。ライアンの話と、廊下の空気から察するに、もう調整の段階に入っている。


遥は暗がりの中で、王について考えた。


ライアンが言ったこと。自分が優位であることを確認しに来る。怒ると場の空気が変わる。声が大きい。


自己愛性パーソナリティ障害の特徴と重なる。


確定はできない。でも、傾向として。自分が特別で優れているという感覚。批判への極端な敏感さ。共感の乏しさ。賞賛への強い欲求。それが長年にわたって機能していると、権力と結びついて、ますます固定される。


王という立場は、自己愛的な人間にとって最高の環境かもしれない。周りがすべて賞賛する。批判が来ない。


ただ——それは後天的に形成されたものかもしれない。生まれたときから王として育てられた人間と、途中から権力を持った人間とでは、形成の仕方が違う。この国の王がどういう人かを遥は詳しく知らない。ライアンの断片的な言葉だけだ。「自分が正しいと思っている方」「怒ると場の空気が変わる」——そこからわかるのは、今の状態だけで、どこからそうなったかはわからない。


でも、その人は孤独だ。


賞賛で動いている人間は、本当の意味でつながれない。賞賛をもらったとき、賞賛した相手ではなく、賞賛された自分が見えているから。


十二歳で即位した王の話は、遥は断片的にしか知らない。幼くして権力を持った者の孤独は、また別の種類だと思う。批判を学ぶ前に、批判が危険なものだと学んだかもしれない。成長の途中で、誰かに「違う」と言われる経験が消えていったかもしれない。そういう環境に長くいると、「違う」と言う声が世界からなくなっていく。自分の内側の声も含めて。


眠れているだろうか。


遥は少し、頭の中で問うた。権力の中心にいる人間の眠りは、どういうものだろう。


明日、聞いてみようと思った。


怖くはなかった。来るなら、来ればいい。遥は六十日のうちの残り四日を、どうするかだけを考えていた。


前世のクリニックで、初診の患者を待つときのことを思い出した。どんな人が来るか、何を抱えているか、事前の情報だけで判断しないようにしていた。来てみたら違う人だった、ということも多かった。王についても同じだ。ライアンの言葉から想像した輪郭は、あくまで想像だ。実際に来て、話してみなければわからない。来るかもしれない王に対して、遥は構えるのをやめた。ただ待つだけにした。


前世で学んだことの一つに、権威のある人間との面接は普通の面接と違う準備がいる、という教えがあった。向こうが上の立場だから萎縮する、という逆のことも起きるし、遥のように「それほど怖くない」と感じることもある。今の遥にとっては、立場の差より、その人の状態の方が気になっていた。来ても来なくても、今夜できることをするだけだ。


ライアンの咳は、もうほとんどしなくなっていた。今夜も静かだった。


松明が揺れる音だけが、牢の中にあった。


次話:「王の靴音」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ