表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の残り六十日、私は牢獄の精神科医でした  作者: 夜凪 蒼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/78

第三十八話「王の耳に入る」

残り六日。


午後、ライアンが来て言った。


「陛下がご存じです」


「そうですか」


「夕方、宮廷内で御側近を通じて確認が来ました。牢の死刑囚が面会を受けているという話の真偽を」


「真偽が確認されたということは、本当だとわかったということですか」


「はい。許可証はきちんと通してあったので、手続き上の問題はないんですが——陛下が興味を持っているという雰囲気が、御側近の口調から伝わってきました」


遥は頷いた。


「……来ると思います」とライアンは続けた。「陛下は、勝ち誇るために来ると思います。死刑囚が何かをしているという話に、反応するような方ではない。ただ——自分が優位であることを確認しに来る」


遥はその言葉を聞いて、静かに考えた。自分が優位であることを確認したい——それは、優位でなくなることへの恐怖の裏返しだ。強い人間は、優位を確認する必要がない。確認したくなるのは、何かが揺らいでいるからだ。ライアンが言う「自分が正しいと思っている方」という描写と合わせると、輪郭が見えてくる。誰も「間違い」を言わなくなった場所に長く座っている人の、静かな孤独が。


「そうですか」


「傷つけられることはないと思いますが、怖い方です。声が大きい。怒ると場の空気が変わる」


「ライアンさんは心配してくれているんですね」


ライアンが少し黙った。「……まあ、そうです」


「ありがとうございます」


「礼を言われると、また変な気持ちになりますが」


「変な気持ちというのは」


「……こちらこそ、という気持ちです。あなたに何かをしてもらったのに、私は何もできていない」


「来てくれているだけで充分です」と遥は言った。


ライアンが少し下を向いた。それから顔を上げて、「来てもいいですか、処刑の日に」と言った。


遥は少し間を置いた。


「来たいのなら来てください。でも、ライアンさんが辛いなら来なくていいです」


「……来ます」


「そうですか」


二人は少しの間、黙っていた。廊下の外に、夕暮れの気配があった。松明が一つ、交代で新しいものに換えられる音がした。鉄格子の影が、石の壁に縞模様を落としていた。


陛下が来る。あと何日かで。


遥は静かに、それを待った。


来る前から、その人のことを考えている。治療者として言えば、これはやや望ましくない準備の仕方だ。知りすぎていると、実際に会ったときに先入観で相手を見てしまう。でも今の遥には時間もなかった。ライアンの言葉と自分の観察力だけが頼りだった。来てみなければわからない。でも、来るかもしれない。それだけで充分だと思った。


ライアンが「来てもいいですか、処刑の日に」と言った。遥はその言葉の意味を考えた。来ることは、ライアンにとって楽なことではない。処刑を見ることは辛いことだ。それでも来ると言った。来たい、という言葉ではなく「来てもいいですか」という聞き方だった。許可を求めた。自分の行動を、相手に確認した。それは、誰かを気遣いながら動こうとしている人の言葉だ。三ヶ月前のライアンにはなかった言葉の形だった。


王が来ることよりも、今夜はライアンのその言葉の方が、遥の胸に長くあった。


次話:「笑えるんだ、という」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ