第三十八話「王の耳に入る」
残り六日。
午後、ライアンが来て言った。
「陛下がご存じです」
「そうですか」
「夕方、宮廷内で御側近を通じて確認が来ました。牢の死刑囚が面会を受けているという話の真偽を」
「真偽が確認されたということは、本当だとわかったということですか」
「はい。許可証はきちんと通してあったので、手続き上の問題はないんですが——陛下が興味を持っているという雰囲気が、御側近の口調から伝わってきました」
遥は頷いた。
「……来ると思います」とライアンは続けた。「陛下は、勝ち誇るために来ると思います。死刑囚が何かをしているという話に、反応するような方ではない。ただ——自分が優位であることを確認しに来る」
遥はその言葉を聞いて、静かに考えた。自分が優位であることを確認したい——それは、優位でなくなることへの恐怖の裏返しだ。強い人間は、優位を確認する必要がない。確認したくなるのは、何かが揺らいでいるからだ。ライアンが言う「自分が正しいと思っている方」という描写と合わせると、輪郭が見えてくる。誰も「間違い」を言わなくなった場所に長く座っている人の、静かな孤独が。
「そうですか」
「傷つけられることはないと思いますが、怖い方です。声が大きい。怒ると場の空気が変わる」
「ライアンさんは心配してくれているんですね」
ライアンが少し黙った。「……まあ、そうです」
「ありがとうございます」
「礼を言われると、また変な気持ちになりますが」
「変な気持ちというのは」
「……こちらこそ、という気持ちです。あなたに何かをしてもらったのに、私は何もできていない」
「来てくれているだけで充分です」と遥は言った。
ライアンが少し下を向いた。それから顔を上げて、「来てもいいですか、処刑の日に」と言った。
遥は少し間を置いた。
「来たいのなら来てください。でも、ライアンさんが辛いなら来なくていいです」
「……来ます」
「そうですか」
二人は少しの間、黙っていた。廊下の外に、夕暮れの気配があった。松明が一つ、交代で新しいものに換えられる音がした。鉄格子の影が、石の壁に縞模様を落としていた。
陛下が来る。あと何日かで。
遥は静かに、それを待った。
来る前から、その人のことを考えている。治療者として言えば、これはやや望ましくない準備の仕方だ。知りすぎていると、実際に会ったときに先入観で相手を見てしまう。でも今の遥には時間もなかった。ライアンの言葉と自分の観察力だけが頼りだった。来てみなければわからない。でも、来るかもしれない。それだけで充分だと思った。
ライアンが「来てもいいですか、処刑の日に」と言った。遥はその言葉の意味を考えた。来ることは、ライアンにとって楽なことではない。処刑を見ることは辛いことだ。それでも来ると言った。来たい、という言葉ではなく「来てもいいですか」という聞き方だった。許可を求めた。自分の行動を、相手に確認した。それは、誰かを気遣いながら動こうとしている人の言葉だ。三ヶ月前のライアンにはなかった言葉の形だった。
王が来ることよりも、今夜はライアンのその言葉の方が、遥の胸に長くあった。
次話:「笑えるんだ、という」




