第二十八話「ふたりで作った牢獄」
残り十一日。
二人が揃って来た日、遥は少し構造が見えてきた。
エドモンドが話す。ヴィヴィアンが頷く。エドモンドが確認する。ヴィヴィアンが合わせる。エドモンドの不安が、一瞬和らぐ。でもすぐ、また別の確認が必要になる。ヴィヴィアンがまた合わせる。
輪が回っている。
安心させてもらうたびに、自分では安心できなくなる。二人の善意が、二人の苦しさを維持している。
「二人のやりとりを、少し観察させてください」と遥は言った。「今日は私が聞くより、二人で話してもらえますか。何でもいいです」
エドモンドとヴィヴィアンが、少し戸惑った顔で互いを見た。
「……何を話せばいいですか」とエドモンドが聞いた。
「何でもいいです」
「何でも、というのは」
「例えば、今日ここに来る前に何があったか」
エドモンドがヴィヴィアンに向いた。「来る前に書類の確認をしていたから、少し遅くなったね」
「はい」とヴィヴィアンが答えた。
「あの書類、昨日も確認したと思っていたけど、日付が一箇所気になって」
「そうでしたね」
「ヴィヴィアンも見てくれたよね」
「はい」
「確かに問題なかったよね」
「はい、大丈夫でした」
エドモンドが少し落ち着いた顔をした。それが一瞬で、すぐまた続けた。「でも、提出後に問題が出た場合は……」
「大丈夫だと思います」とヴィヴィアンが言った。
「確かに?」
「はい、確かに」
エドモンドがわずかに安堵した。また一瞬で、次の心配が来そうな気配があった。
「少し、止まってみましょうか」と遥は言った。
二人が遥を見た。
「エドモンドさんが確認するたびに、ヴィヴィアンさんが『大丈夫』と言っている。それが今、見えました」
「それは——私が心配しているから、ヴィヴィアンが安心させてくれているということではないですか」
「そうかもしれません。でも——ヴィヴィアンさん、その後、エドモンドさんの不安は消えますか」
「……少し経つと、また出てきます」
「そうですよね。ヴィヴィアンさんが『大丈夫』と言うことで、エドモンドさんの確認行為が、むしろ続きやすくなっている可能性があります」
エドモンドが眉を寄せた。「では、ヴィヴィアンは答えない方がいいということですか」
「どちらにも難しい話です。ヴィヴィアンさんが答えないと、エドモンドさんは辛い。答えると、輪が止まらない」
「……二人で問題を作っているということですか」
「お二人それぞれが、それぞれの苦しさから、その仕方を選んでいると思います。悪いのではないです。ただ、行き詰まっている」
しばらく静かだった。
二人が同時に、石床を見た。
二人が同じものを見ている。それは、この十日間で初めての光景だった。今まで二人は、それぞれ別の場所を見ていた。エドモンドは書類の細部を見ていた。ヴィヴィアンは波風が立たない場所を見ていた。今日、二人が同じ場所——問題の構造を——一緒に見た。それだけで、何かが変わりうる。遥はそう思った。
次話:「エドモンドの怒鳴り声」




