第二十五話「止まらない確認」
残り十四日。
「確認が止まらないのは、いつ頃から始まりましたか」
遥が聞いたのは午後だった。
エドモンドは少し考えた。「十代の頃からだと思います。ただ、その頃は程度が軽かった。婚姻後から、少しずつ強くなった気がします」
「婚姻後に強くなった」
「はい。責任が増えたので」
遥は心の中で、「十代の頃から」という言葉を引っかけた。十代に確認行動が始まっているなら、何かのきっかけがある。責任の重さではなく、もっと早い段階に形成されたものだ。父のこと、家のこと——まだ聞いていないが、今日はその話には入らない。今日は「状態の輪郭」を描く日だ。
「責任が増えると、確認も増える」
「そうです。失敗が許されない場面が増えるので、自然に」
遥は頷いた。「確認したとき、少し安心しますか」
「します。ただ——すぐ、また不安になります」
「どのくらいで」
「扉の鍵なら、確認して外に出て……二、三分で戻りたくなります」
「確認したのに、また不安になる」
「確認したかどうか、自分で信じられなくなるんです。確かめた、という記憶が、すぐ信用できなくなる」
遥はそれを静かに聞いた。
自分の記憶が信用できない。確認したにもかかわらず、確認できていないかもしれないという不安が消えない。これはOCDの中核にある体験の一つだ。記憶が確認行為によって上書きされないのではなく、確認行為そのものが「本当に確認できたかどうか」の疑いを生む。確認が不安を増幅させる。
「確認を一度しないでいたことは、ありますか」
「……試したことがあります。鍵を確認しないで出かけてみた」
「どうでしたか」
「一時間後に引き返しました。仕事の途中で、何も手につかなくなって」
「引き返したとき、鍵はどうでしたか」
「閉まっていました」
「そうですか」
「……だから、確認しなくても問題ない、とわかったんですが。でも次の日も、また確認したくなりました」
「わかっている、と感じている、は別のことがあります」
エドモンドが顔を上げた。「どういうことですか」
「頭で理解していても、体が動いてしまう。確認しなければいけない、という感覚は、理屈で抑えられない部分があります。それは、あなたの意志が弱いのではないです」
エドモンドは少し黙った。
「意志の問題ではない」
「ないです。抑えようとすると、かえって強くなることがあります。これはそういう状態です」
「……名前はあるんですか、この状態に」
「あります」と遥は言った。「強迫性障害といいます。ただ、名前より大事なのは、これがどういう仕組みで動いているかを知ることです」
エドモンドの表情が、少し変わった。名前がついた安堵と、名前がついた動揺が、混じり合ったような顔だった。
診断名を告げるたびに、遥は前世でも同じ顔を見てきた。「あなたはこういう状態です」と言われることは、「あなたはおかしい」と言われているように聞こえることがある。同時に「あなたの苦しさには理由がある」とも聞こえる。どちらに聞こえるかは、その人の過去によって変わる。エドモンドがどちらに受け取るか——今日はまだ、その答えが出ていない。
次話:「不安の形」




