56話 そしていざダンジョンへ 5
ボス部屋へと侵入した俺たちは陣形を保ったまま部屋の中央へと進んでいく。
部屋は先日フルアーマーセンチピードと戦った木に囲まれた空間と大体同じくらいの広さをしている。
「そろそろ魔方陣が光ってもいい頃だと思うんだけど……」
木に囲まれた広場。その中心部がこの部屋の中心地点だと思われるのだが一向に魔方陣が展開されボスが現れる様子はない。
「ボスがいないこともあるのか?」
「いえ、そんなはずはないと思いますけど……きゃっ!?」
首を傾げていたウィオが突如左方向へと吹き飛ばされ、先にあった木へと叩きつけられる。
「「「ウィオ(ちゃん)(君)!!」」」
吹き飛ばされたウィオの元へと駆け寄り、すぐさま俺は全員を覆うようにアイアンゴーレムの体をドーム状へと変化させていく。
「ウィオの容態は?」
「大丈夫、気絶してるだけみたい。けど何でいきなり吹き飛ばされたのかしら」
「恐らくだがすでに召喚された後だったのだろう。透明になった状態でウィオ君を吹き飛ばしたのだと考えれば辻褄が合う」
「だけど俺の索敵には何の反応も無かったぞ?」
そう。なんの反応も無かった。ダンジョンに入ってから俺は常に周囲の地面に極めて薄く引き伸ばした自身の体を展開している。いくらボスが透明になっていたとしても接近されれば俺が気付かないはずがないのだ。
「何らかの方法で遠距離からの攻撃が可能なのだろう。しかし厄介だな……。透明な上遠距離攻撃も出来るとなると、居場所を特定するのはかなり厳しいのではないか?」
「それについては俺に案がある。とりあえず敵を捕捉するまではウィオを守りつつ防御に徹していてくれ」
「分かった。気をつけてね融ちゃん」
「ウィオ君は任せろ友よ」
「よし! いくぞ!!」
鉄のドームを解除すると俺は広場の中心へと走り始める。その後ろでは木を背にしているウィオと愛梨を守るようにギュスターヴが剣を構え、その周囲を囲むように愛梨の光魔法による障壁が展開されている。
2人には案があると言ったが正直に言えばそんな案なんてものはない。囮になると言えば絶対反対するだろうからあえて案があると言ったが……まあ何とかなるだろ。
「さあどっからでも掛かって来いよ!」
広場の中心に着くなりアイアンゴーレムの拳を打ち鳴らし俺は透明になっている敵を挑発するように叫ぶ。俺の叫びは広場を囲む木々に吸収され消えていき、シーンと静寂が戻ってきた。
「ちっ、ただただ隠れてるだけの臆病な魔物だなぁおい! ――っ!?」
2度目の挑発をした瞬間俺の右肩に何かが叩きつけられ、右肩の一部が抉り取られる。粘液で構成された体にはダメージなどあるはずも無く、【無限増殖】によって一瞬のうちに抉られた箇所を修復していく。
今のやり取りで敵の攻撃は爪や牙による接近戦ではないのが確定した。
俺の肩を抉った痕はどう見ても爪による斬撃や牙による噛み付きのそれとは違う。どちらかと言えば棍棒のような細長い鈍器を叩きつけられたような感覚に似ている。
となると考えられる相手の攻撃手段は3つ。
1つ、尻尾による打撃。
2つ、触手による打撃。
3つ、舌による打撃。
このうちのいずれかだろう。正直それ以外となると想像もできない。
さっきから連続で繰り出される打撃も俺の体の一部を吹き飛ばすだけでダメージこそ無いが、下以外の全方位から叩きつけられている所為で居場所の特定が全く出来ない。
何度か掴んでみようとも思ったのだが方向が予測できない以上俺の反応速度じゃはっきり言って無理だ。
「ならこっちも遠距離攻撃でやってやる!」
俺はアイアンゴーレムの両腕を元に戻すと、今度は両手を細長い黄色と黒の縞々模様が特徴の姿へと変えていく。これは“誓いの剣”を護衛している時に食べた【スナイプビー】の腹部で、その名の通り【スナイプビー】は細長い腹部を持ち、先端の針を撃ち出して攻撃する魔物だ。
【スナイプビー】は一度針を飛ばすと再生するまでしばらく時間が掛かり、連射できないが俺は違う。【無限増殖】でいくらでも針を補充することが可能だ。
俺は両腕を構え正面の空間へと向かって針を撃ち出す。射出された針は即座に補充され、なぎ払うように腕を振り回しながら、さながら機関銃のように次々と針を撃ち出していく。
射出されていった針は木の幹を容易くぶち抜き、何個も穴を開けられた木々は次々と大きな音を立てて倒れていった。
攻撃を受け続けながらも5分ほど連射を続けると、広場を囲むように立っていた木々は俺と愛梨たちのいる一直線上にある木々以外の全てが倒木へと姿を変え、広場も落ち葉で埋め尽くされていた。
「くそ、これだけやっても一発も当たってないのか」
周囲にある倒れた木々にも落ち葉にも何の反応も無い。
「なら最後は……」
俺は唯一針を撃ちこんでいない木、つまり愛梨たちがいる木の中腹から上部へと向かって針を連射していく。
「ギョォォォォォォオオオッ!!!」
次々と木の幹を穿っていく針はついに透明になって潜んでいた魔物を捕らえた。
悲鳴を上げた魔物は血を撒き散らしながら跳び、ガサリと音がして透明な魔物は落ち葉の上へと着地する。
「そこにいたら透明でも丸見えだ! ッバハァ!」
血を流している上に落ち葉の上にいる所為で居場所が丸分かりの魔物へと向かって、体内に作った麻痺袋から精製した麻痺毒を魔物へと吐き出した。
負傷の影響で避けることのできない魔物は麻痺毒を頭から被り、その姿が薄黄色の麻痺毒によって浮き彫りになる。
どうやら【スケレオン】は【ストーカーカメレオン】の上位種なのだろう。
シルエットだけなら姿形はほぼ同じみたいだがスケレオンのほうが一回り大きい。だが透明になる能力で言えばこちらの方が圧倒的だ。ストーカーカメレオンは透明になるといっても空間が揺らいで見えるが、上位種のこいつは完全に透明になっている。
今のように落ち葉や色のついた液体でも掛けない限り発見するのは可能に近いだろう。
「うおっ!?」
まだ麻痺毒が回りきっていないのか口を大きく開いたスケレオンが長く伸ばした舌を叩きつけて来る。どうやらさっきまで人を遠慮なく叩いていてくれていたのはこいつの舌なんだろう。
しかも舌はどこまでも伸びるようで、さっきまで様々な角度から俺を打ち据えていて居場所が特定できなかったのはこれの所為なのがわかる。
「けど、襲ってくる方向が分かれば何の脅威もない! ギュスターヴ!」
「応! 【武技:オンスロート】!!」
襲い来る舌を掴み相手の攻撃を止めたところを控えていたギュスターヴの剣の一閃によって舌を切断される。
痛みに再び悲鳴を上げるスケレオンはついに透明化を維持できなくなったのか、透明だった体に色が戻ってくる。
ギョロギョロと左右非対称に動く特徴的な目に黒緑色の外皮を持つその姿はストーカーカメレオンの緑色よりも何となく強く硬く見える。まあ透明化が解除された今は動きの鈍い――って早っ!
一瞬の為があったものの4つの脚のバネをうまく使って俺に突進を仕掛けてくる。階層主である魔物だけあって舌だけが攻撃手段と言うわけではないらしい。だが――。
「ただの物理攻撃じゃ俺には効かないっての!」
スケレオンの突進は俺の粘液の体を通過し、予想外の結果だったのか着地に失敗し顔面から地面へとヘッドスライディングをする羽目になっていた。
「今だ! 一気に決めるぞ!!」
「任せろ! 『ヘヴィースラッシュ』!」
ギュスターヴへ声を掛けると同時に体の一部を薄く引き延ばしスケレオンの体の下へと潜り込ませ、そこから無数の剣を突き出させる。柔らかい腹部側から一気に串刺しにされ、ギュスターヴの武技を頭部へと受けたスケレオンはついに死んだらしく、消滅してドロップアイテムを残して消えていった。
「ふぅ、何とか終わったか。おつかれギュスターヴ」
「この程度なんともないさ。それよりもウィオ君はまだ目を覚まさないのかい?」
「ええ、まだみたい――あら?」
「ん……んん……」
戦闘が終わり、安全を確認したことで愛梨に膝枕をされていたウィオが小さな声を上げながらゆっくりと目を覚まし始めた。
「……あれ……ここは……っ!? ユウお兄さん、敵は! 敵はどうなりました!!」
状況を思い出して一気に覚醒したウィオが俺に問いかけてくる。うん、焦り顔のウィオも可愛いね!
「大丈夫、もう階層主は倒したよ。そんな事よりもウィオ、体の方は大丈夫か?」
「え? はい、まだ少し痛みますけど大丈夫です。すみません……私役立たずで……」
かなり意気消沈した様子のウィオ。どうやら最初に気絶させられた所為で俺たちの足を引っ張ったと思っているんだろう。良くみれば太ももに涙が零れ落ちている。
「誰だって不意打ちを受けていた可能性はあった。それが今回はたまたまウィオだったってだけだ。だから落ち込むなウィオ。ウィオは絶対に役立たずなんかじゃないんだから」
「そうよ。ウィオちゃんにはウィオちゃんにしか出来ないことがあるんだから。役立たずになるなんて事は絶対にないよ」
「うむ、ウィオ君を役立たず呼ばわりする不届き者なんぞこの私の剣の錆びにしてくれるわ!」
「ユウお兄さん、愛梨お姉ちゃん、ギュスターヴさん……。ありがとうございます。私は私に出来ることを精一杯頑張りますね!」
目尻に少しの涙を溜めながらもウィオは力一杯に宣言する。焦った顔や消沈した顔も可愛いウィオだけど、やっぱり笑顔のほうが断然可愛い。
スケレオンの素材を回収した俺たちは笑顔が戻ったウィオと共にボス部屋の奥へと歩き出す。
さて、転送陣の先にはどんなダンジョンが待っているのやら……。楽しみなような不安なような……。まあなるようになるだろ。




