54話 そしていざダンジョンへ 3
その後も俺達は森林型のダンジョンで魔物たちと遭遇しては戦っていった。複数のアーマービートルとスラッシュビートルの群れや、他にも角が砲身になって魔力弾を撃ち出すキャノンビートルにも出くわした。
正直飛んでくるのが実弾ではなく魔力弾だったため、実弾だと思って油断した俺の頭が吹き飛ばされたのは痛かった。頭自体はすぐに【無限増殖】で元に戻したから良かったものの、ギュスターヴに俺が人間じゃないって事がバレてしまったのだ。
今まで俺が腕なんかを変形させていたのは【変身】というユニークスキルのおかげだと言うことにしていたのだが、いくら体の形を変えられるからといって普通人間は頭を吹き飛ばされたら死ぬ。どんな英雄だって勇者だって頭がなくなったら死ぬ。完膚なきまでに。
仕方なくギュスターヴには事情を説明し、俺の本当のスキルが【融合】であること、そしてインフィニティスライムと融合したことによってヒューマノイドスライムという種族に変わってしまったことを説明した。
正直罵倒されて斬りかかられる覚悟はしていたが、ギュスターヴは笑いながら「それでも君が私の友であることには変わりない」とイケメンっぷりを発揮し受け入れてくれた。もうアレだね。俺が女だったら確実に惚れていたね。
そんな事もありながら俺達は次の階層へと向かう。
第6階層の次の第7階層。ここも変わらず全周囲が木々の乱立する森となっている。正直【標の光】がなければ速攻で遭難していただろう。
光の指す方向へと歩いていると、不意に左のほうから悲鳴のようなものが聞こえてきた。
「どうする?」
「あの絹を裂くような悲鳴……、あれは間違いなくレディのもの! ここで助けなくては男とはいえないさ!」
「確かにこのまま見捨てていくのも寝覚めが悪いよね」
「助けましょう! まだ助かるかもしれませんし!」
助ける方向で話がまとまり、俺達は周囲を警戒しつつ出せるだけの速度で悲鳴が聞こえてきた方向へと走る。なぜか他の魔物と遭遇しないことに一抹の不安を覚えながら走り続けると、俺の鼻へと微かに血の匂いが漂ってくる。
「近い」
俺の言葉に3人が更に警戒心を強めつつ、それでも走る速度は落とさない。
やがて前方に木の生えていない広場のようなものが見えてきて、そこには血だらけになりながらも大きな盾を構える大男と剣を構える青年。そしてその背後には杖を持った小さな女性も同じ様に満身創痍の状態になっており、さらにその小さな背に庇われるようにして倒れている血だらけの女性の姿があった。
そしてその4人と相対するのは2匹の巨大な百足。襲い掛かる前触れなのか体の半分を持ち上げただけでゆうに3mを超えている。
その口元やするどい牙には彼等の血であろうと思われる赤い液体が付着していた。
キチキチと鋭い牙を打ち鳴らす2匹の百足。圧倒的優位の立場から獲物を見下ろしその絶望に染まった顔を見て楽しんでいるのかは分からないが、まあ確実に碌な事を考えてはいないだろう。そこまでの知能があるのかは不明だけど。
そして血を流しすぎたためかついに大盾を持った大男がひざを突く。その様子を見た百足達はそろそろ頃合かと口を大きく開き鋭い牙をむき出しにして2匹同時に襲い掛かった。
「拙い、先に行く」
それだけ言うと俺は両足をアイアンゴーレムのものへと変化させ、即座にそれをバネ条へを変形させる。
そして力一杯踏み込み、バネの反発力を利用して一気に巨大な百足へと詰め寄り、アイアンゴーレムの拳で大百足の顔の側面を全力で殴りつけた。
「っしゃおらぁ!」
気合一閃。予想だにしていなかった一撃に不意を突かれた百足はもう1匹の百足を巻き込んで吹き飛び、2匹まとめて大木へと叩きつけられる。
2匹の百足は死んでこそいないものの混乱しているのかもがくばかりで起き上がれる様子も無く、俺が百足を警戒しているうちに愛梨たちが到着した。
「おまたせ融ちゃん」
「おまたせしましたユウお兄さん」
「お疲れ。着いて早々悪いんだけどウィオ、この人たちを治療してやってくれないか?」
「任せてください」
幼いウィオが結構な距離を走ったのに息一つ切らせていない姿に若干驚きながらも4人の冒険者達の治療をお願いする。素人判断ながらも倒れている女性は少々ヤバい感じがするし、他の面々も全員が多くの血を流している。このままでは失血死する可能性もあるだろう。
「大丈夫ですか? すぐに治療しますから動かないでくださいね」
「あ、ああ、頼む」
膝を突いた状態のまま事態が飲み込めず固まっていた大男が頷くと、ウィオはすぐに倒れた女性へと近寄り治癒魔法を行使した。
「『癒しの息吹よ、彼の者の傷を癒せ。上位回復魔法』」
ウィオの魔法により倒れ血の気を失い青褪めていた女性の顔に血色が戻ってくる。身体中の傷という傷も瞬く間に癒えていき、やがて傷一つ無い身体へと戻っていった。
「これでこの人はもう大丈夫ですね。この人程ではないですが皆さんもかなり怪我をされてるみたいですし、まとめて治しますね。『癒しの息吹よ、彼の者達に癒しの場を。範囲上位回復魔法』」
トン、をウィオが手に持った杖で地面を軽く突くと、突かれた地点を基点として淡い緑色の光が広がり癒しの場を形成する。
その中にいる冒険者達は己の傷が癒えていくのを感じながら、その魔法を行使したウィオへと目を向ける。
淡い緑色の光に包まれた幼くも可愛らしいウィオの姿に冒険者達は何を感じたのだろう。
「(若干男共の目に崇拝にも似た感情が見え隠れしている気がするようなしないような……)」
「ウィオくんに目が行ってしまうのは分かるがマイフレンド、百足が起き上がってきたぞ」
「ハッ! (ウィオが可愛すぎて)すっかり忘れてた。とっとと始末するとするか。愛梨、ギュスターヴ、俺が抑えるからトドメ頼む」
「任せたまえ!(てよ!)」
食事を邪魔されてだいぶお怒りなのか2匹の巨大な百足が我先にと自分達を叩き飛ばした犯人である俺へと殺到する。
思いっきり開かれた口からは殴られた際に怪我を負ったのか黒緑色をした血のような液体を周囲に飛ばしている。液体が付着した地面から薄く煙が上がっていることから毒が含まれていそうだ。
「正面から突っ込んできてくれるならありがたい」
俺は指先をクモの出糸突起へと変化させると同時にパラライズクロウラーの麻痺腺を作り出し、麻痺毒を絡ませた粘着性の蜘蛛糸をネット条にして大百足へと射出する。
怒り狂っていた百足は咄嗟の判断ができず、顔面から諸に麻痺毒べったりなネットを喰らうハメになってしまった。
とはいえ麻痺毒が効くまでには少し時間があり、ネットが顔に付着しただけでは百足の突進を緩めることはできないようだ。ここが広場になっている場所でさえなければ周囲の木々を利用して絡めとる事も出来たのだが……。
まあ考えていても仕方が無い。俺は迫る巨大な百足へと詰め寄り、俺を喰い殺そうと大きな顎を目一杯開く2匹の内の一方へと狙いを定め、百足が思い切り噛み付こうと迫った瞬間に跳躍してそれを避けるとその無防備になった頭目掛けてゴーレムの拳を振り下ろす。
金属同士がぶつかり合う様な音が周囲へと響き、百足は地面へと叩きつけられる。恐らく番なのかもう片方はさらに激高し、半狂乱状態で滅多矢鱈に襲ってきた。
先程よりも更に速度が増した攻撃に避けきることが出来ず、僅かにだが攻撃を喰らってしまう。
ただの物理攻撃なら俺にとって脅威になることはほぼないのだが、溶解系の毒を含んだ攻撃は俺の体をいとも容易く溶かしていく。とかされた分は【無限増殖】で修復すればいいのだが、それは俺の【無限胃袋】の中に食料などがあればの話。当然それが尽きれば俺の体は修復することが出来ずに溶かされきってしまうだろう。それで以前安倉の野郎に殺されかけたんだしな。
だが今の俺の胃袋の中にはウィオの【魔法の食材庫】から取り出した食材がたんまり詰め込まれている。よっぽどの事が無い限り尽きることは無いだろう。
そして依然猛攻を続ける百足の動きが若干鈍ってきた。それに動揺して隙ができた百足の横っ面を殴り飛ばす。
「愛梨、ギュスターヴ、いまだ!」
愛梨とギュスターヴが殴られた衝撃で動けなくなっている2匹の百足それぞれ斬りかかる。
「【武技:兜割り】!」
「【武技:ヘヴィースラッシュ】!」
ガキンッッ!!
「嘘っ!?」
前回の反省も踏まえ間接の隙間を狙った愛梨とギュスターヴの一撃が激しい金属音と共に弾かれた。
「無理だ! その百足は【フルアーマーセンチピード】と言って体のどの部位も非常に硬く並大抵の斬撃では傷1つつかないぞ!」
弾かれた衝撃で体勢を崩した愛梨とギュスターヴが体勢を立て直していると、大盾を持っていた大男が叫ぶ。どうやら彼等は身をもってあの百足の硬さを体験していたらしい。
だがそうと分かれば問題はない。どうやら百足たちも麻痺毒が完全に回ったらしく、ピクピクと痙攣している。
「『集え! 我が力は光となりて剣へ宿れ! 光剣』」
愛梨の魔法によって手に持つ剣が輝き始める。対するギュスターヴは懐から取り出した小瓶を己の剣へと振り掛けると、彼の剣も赤い炎に包まれた。
空になった小瓶を投げ捨てたギュスターヴは燃え盛る剣を握り、動けない大百足へと斬りかかる。斬りつけられた百足は先程までの強固な装甲が嘘のようにバターのように斬り裂かれ死亡し、ドロップアイテムを残して消えていった。
一方の愛梨も光の魔法を纏った剣で百足を一刀の元に斬り殺し、大百足をドロップアイテムへと変えていた。




