53話 そしていざダンジョンへ 2
第5階層まではいかにもダンジョンって感じの造りで攻略も簡単だった。だから第6階層からも同じ様な造りでそこまで難易度も上がってないんじゃないか、そう思ってた時期が俺にもありました。
「……何これ、ここダンジョンじゃなかったっけ?」
そう言葉が出てしまうのもしょうがない。現にウィオや愛梨、ギュスターヴも周囲の光景に固まっている。
そう、第5階層に下り階段は無く代わりに転送陣があった。それを使い第6階層へとやってきた俺達の周囲には今までのザ・迷宮なダンジョンは何処へ行ったと抗議したくなるレベルで様々な太さの木々が乱立している森と言うのも物足りない光景が広がっている。上を見上げれば無数の葉の隙間から辛うじて光が差し込んでいるのが分かる程度だ。これだけでもこの森がどれだけ深いか想像に難くない。
先程までのダンジョンと違いやや薄暗く、追い立つ木々は魔物達が隠れ潜むのにはうってつけだろう。
確かにこれまでの第5階層までも曲がり角での不意打ちを警戒する必要はあった。だけどここみたいに常時全周囲を警戒しなきゃいけないほどではない。
今までがダンジョンのチュートリアルだったとしても難易度上がりすぎだろう。
「こんな森の中でどうやって階段or転送陣を見つけりゃいいんだ」
「下手に歩いても同じ場所をぐるぐるしかねないもんね」
「安心したまえマイフレンド。こんな時のために必要なマジックアイテムがちゃんと存在しているのさ」
そう言ってギュスターヴが懐から取り出したのは、小さいウィオの手にも収まりそうなサイズの方位磁石とそっくりなもの。
違いがあるとすれば方位を示す文字の変わりに魔方陣が刻まれているぐらいだろうか。
「それって【標の光】ですか?」
「その通りだよウィオくん、博識だね。これは魔力を流し込むことによって使用者が求めるものへの方角を指し示してくれるというマジックアイテムさ。ただダンジョンの中でしか使えないし、対象に出来るのも階段や転送陣、パーティメンバーぐらいなんだけどね。でもあるとないとじゃ大違いさ」
確かに。迷宮型みたいに道があるわけじゃない広いフィールドだと闇雲に探しても見つかりっこないからな。まあ迷宮型はきちんとマッピングしないと迷子一直線だけど。
「それじゃあ早速【標の光】を起動させようか」
ギュスターヴがマジックアイテムに魔力を込め始める。魔力が流れてきて起動し始めてきたのかカタカタと方位をしめす針が振るえ回りだす。
しばらく回り続けた針はやがて1つの方向を指し示した。
「よし、進もうかみんな!」
ギュスターヴの号令で俺達は歩き始める。ギュスターヴを先頭に愛梨、ウィオ、俺の順に並んで木々の間を通り抜ける。
不意打ちを警戒してなるべく木と木の丁度真ん中辺りを通って木に寄り過ぎないように気をつけつつ、頭上へも意識を配る。
――――ゥゥゥン……
「ん? 何の音だ?」
「どうしたの融ちゃん」
――――ゥゥゥゥン……
「いや、なんか変な音が……羽音?」
「っ!? 拙い! みんな固まれ!」
俺の聞こえた音にギュスターヴが反応して指示を出す。それに従ってウィオを真ん中にその周囲を俺達3人がそれぞれの方向を警戒するべく構える。
――ブゥゥゥゥゥゥゥゥン
やがて羽音らしきものは徐々に大きくなっていき、薄暗い森の奥からその音の発信源が姿を現した。
「ユウお兄さん気をつけてください、【アーマービートル】です!」
俺の真正面からその姿を見せたのは巨大な、牛ほどの大きさを誇るカブトムシだった。カブトムシの外骨格をより堅固にしたその姿は砲弾が飛んできてると見紛う様ほどで、その巨体からは想像もできないような速度で俺へと突っ込んできた。
「ちっ! 散開してそれぞれ木を背に構えろ!」
そう言って俺は背後のウィオを抱えるとその場を飛びのく。ギュスターヴと愛梨もそれぞれ飛んで近くの大木を背に構える。アーマービートルは俺達がいた場所を速度を落とす事無く通過し、速度を落とす事無く上昇反転すると再び襲い掛かってきた。
「(腕を鉄に変えるだけじゃー……たぶん吹っ飛ばされそうだな……)」
俺は腕をアイアンゴーレムのものへと変化させると共に両足の裏からブレイドダンサーの剣身を生やして地面深くへと突き刺す。
そして両腕をクロスさせ構えた俺へとアーマービートルはその堅固な体で轢き殺すべく突進してきた。
―――ガキィィン!!
アーマービートルの体と俺の腕が激突し、金属同士がぶつかり合う音が周囲へと響き渡る。
「くそっ……おもっ……!」
やはりと言うべきかアーマービートルの突進の勢いを受け止めきれず、地面に突き刺した剣身ごと後退を余儀なくされる。 実際吹き飛ばされないように耐えるので精一杯なのだ。
相撲で言うところの電車道を強制的に作らされるがこちらもただやられるだけじゃない。全力で踏ん張り抵抗することによって後退のスピードも徐々に落ちていき、なんとかアーマービートルを受け止めることができた。
「いまだ愛梨!」
「任せて!」
俺の声に応えて愛梨がアーマービートルへと駆け寄り大上段から斬りかかる。
「【武技:兜割り】!」
気合一閃、武技によって強化された斬撃がアーマービートルの頭へと振り下ろされる。
倒したと思ったが予想以上にアーマービートルの装甲は硬かったらしい。ガギン! と音を立てて愛梨の振り下ろした刃を装甲が弾く。
「そんなっ!?」
「こういった手合いは装甲の隙間を狙うのだよアイリくん! 【武技:ヘヴィースラッシュ】!」
攻撃を弾かれ驚愕の表情を浮かべる愛梨の横から現れたギュスターヴがアーマービートルの装甲の継ぎ目を狙って武技による強力な斬撃を繰り出す。
大上段から振り下ろされた剣は狙い通りにアーマービートルの装甲の継ぎ目へと吸い込まれていき、その頭と胴を綺麗に斬り離した。
ぼとりとアーマービートルの頭と胴が地面へと落下する。頭から斬り離されたはずの胴はしばらく動いていたが、やがてその動きを止めるとドロップアイテムの魔石を残して消えていった。
「ごめんねギュスター。私が仕留めれれば良かったんだけど」
「何、気にすることは無いよアイリくん。レディーのサポートが出来て光栄の極みさ」
キラリと白い歯を光らせる太めな伊達男ギュスターヴ。なんだか初めて会ったときよりも痩せてきている気がするのは……気のせいではないのだろう。やはりあの【肥豚の呪い】があったから太っていたんだろうか。
「さて、魔石も回収したし先へ進もうか――ってウィオ、伏せろ!!」
ウィオが背にしている木の両脇から不意に現れた2本の刃。内側に鋭い棘のある湾曲した刃は突然掛けられた俺の声に反応しきれずに立ち尽くしているウィオを、その背にしている木ごと両断しようとしている。
「くそっ、間に合え!」
ウィオへと勢い良く両腕を伸ばし、寸でのところでなんとか凶刃からウィオを助け出す。あと一瞬遅ければウィオは背にしていた木と同じ末路を辿っていただろう。
両断され倒れる木の後ろから出てきたのは1匹のクワガタムシに似た魔物。さっきのアーマービートルといい今回のクワガタといい、日本で手に入れることが出来たらかなりの騒ぎになるだろう。前代未聞の大きさと言う点と死傷者の数と言う点で。
「あれは【スラッシュビートル】だ。生半可な鎧じゃそれごと真っ二つにされてしまうぞ!」
やっぱりクワガタムシだったらしい。スタッグビートルならぬスラッシュビートルだけど。
「ウィオ大丈夫か?」
「ありがとうございますユウお兄さん」
「下がってろ、すぐに片付ける」
「いえ、今回は私がやります。私だって戦えるんですから。ユウお兄さん達は見てて下さい」
そう言って前に出ようとした俺を止めてウィオが杖を構える。対するスラッシュビートルは取り逃がした獲物が逃げずに立ち向かってくるのが嬉しいのか、刃にも見える巨大な顎をガキンガキンと繰り返し開閉している。
「いきます! 『風よ! 刃と化して敵を裂け! 風刃!』」
ウィオの放つ鋭利な風の魔法はスラッシュビートルに直撃するも、その甲殻に僅かな傷を刻むだけであった。しかし当のスラッシュビートルは自分が狩るだけだった獲物に攻撃されたことに腹を立てたのか一直線にウィオへとその大きな顎を開いて突っ込んでくる。
「やっぱり甲殻が邪魔で切断するタイプの魔法は効きが悪いみたいですね。それなら……」
冷静に状況を分析し、向かってくるスラッシュビートルから目を離す事無く次の魔法を詠唱し始めた。
「『風よ! 集いて敵を打ち据えろ! 風鎚!』ならびに『風よ! 渦巻く螺旋の槍と化せ! 風槍!』」
連続して放たれるウィオの風魔法。通常振り下ろされるはずの風鎚がスラッシュビートルの頭を下から搗ち上げる。持ち上げられた頭によって思いがけない風の抵抗を受けたスラッシュビートルの体は大きく仰け反り、甲殻に覆われていない腹部を剥き出しにしてしまう。
放たれた風の槍は柔らかい腹部へと容赦なく突き刺さる。
「『爆裂!』」
スラッシュビートルの剥き出しの腹に突き刺さった風槍は、ウィオの力ある言葉に反応して自身に内包されている風の力を一気に炸裂させた。
炸裂した力はスラッシュビートルの体内で荒れ狂い、その内臓をズタズタに引き裂き、それでもなおも荒ぶる風は甲殻に覆われた体の内側で暴れ続ける。
やがて頑丈な外骨格を持つスラッシュビートルは内側からの力に耐え切れず、最後には自慢の体を爆発させ息絶えた。
あちこちに飛散するスラッシュビートルの各パーツ。それは地面に落ちる前に消えていき、爆発した地点には一対のスラッシュビートルの大顎と魔石が転がっていた。
「凄いなウィオ。あんなに硬かった魔物がバラバラだ!」
「ありがとうございますユウお兄さん。でもユウお兄さんが助けてくれなかったら私は今頃真っ二つになって死んでました」
「仕方ないよウィオちゃん。誰も索敵系のスキル持ってないんだし、私達はパーティなんだから助け合えば問題ないよ」
敵を倒すも自分の未熟さに軽く落ち込むウィオ。確かに俺が間に合わなかったらウィオは間違いなく死んでいた。でも今回は間に合ったんだから、愛梨の言うとおり問題は無いと思う。
その油断があの悲劇を齎す事になるなんて今の俺は知る由も無かった。
暑い夏がまだまだ続いています。皆さん体調管理だけはしっかりとして元気に夏を乗り越えましょう。
最後のフラグ的な何かが回収されるのはしばらく後です。




