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異世界転移の融合者  作者: ミジンコ
冒険者家業とダンジョンとドラゴンと
52/59

51話 そして本音は吐露されて

今回シャルロット視点になります。

 (わたくし)の名前はシャルロット・フォン・アスカロン。アスカロン子爵家の三女ですの。自分で言うのもなんですが上のお姉様方に劣らず整った容姿をしている自負はありますの。


「はぁ……」


 そんな私はギュンター様に誘われ、本日はトレイズの街のゲオルギウス家別邸へと泊まりに来ておりますの。婚約者に誘われ彼の住まう屋敷へと赴く、普通なら嬉しい出来事なのでしょう。

 しかし私がお慕い申し上げているのはギュンター様ではなくその兄のギュスターヴ様なのですの。

 幼い頃から共に頻繁に顔を合わせ、共に遊び、共に学び。彼に対する思慕の情は日に日に募っていきましたの。私自身両親から彼が私の婚約者である事を教えられた時は天にも舞い上がるような気分でしたの。

 ところがある日両親がゲオルギウス家の当主はギュンター様になるかもしれないから今から彼と仲良くしておけと、彼が当主になった場合は彼と結婚するのだと突然告げてきたのですの。

 確かに彼は成長するに従ってその……ふくよかになられました、けれどそれだけで、たったそれだけのことで彼の魅力がなくなったわけではありませんの。

 しかしゲオルギウス家は武を重んじる家系。歯痒い事にギュスターヴ様は、過去には神童と褒め称えられていましたがいつからかその剣技は鋭さがなくなってしまいましたの。

 そのためますます周囲はギュンター様を次期当主に推す様になってしまいましたの。

 そして今日屋敷に私を誘ったのも恐らく、いえ、ほぼ確実に私の操を散らすためでしょう。貴族間での婚前交渉は御法度とはいえ、ここはゲオルギウス家の屋敷。部屋の前で警護している兵ですらゲオルギウス家の者なのですから口裏合わせなど造作も無いでしょう。つまり私の味方はいないですの。

 ため息も吐きたくなりますの。私の操はギュスターヴ様のものでしたのに。


 キィ――


 私以外誰もいないはずの部屋に小さな音が響きましたの。音のした方へと目を向けると窓が片方開いてましたの。


「あら? 私窓なんて開けました――っ!?」


 突然何者かに口を塞がれてしまいましたの。私の口を覆う粘液の様なもの、間違いなく相手が人間ではないことを思い知らされます。


「(どうして!? なんで魔物が街の中に!?)」


 あまりに唐突で思いもよらぬ事態に、私は竦んで満足に動くことができませんの。恐らくスライムなのでしょうが私の体を細く伸ばした自身の体で拘束し、ゆっくりと動き出しますの。

 どこに行くのかと思いきやそこは開いている窓。ここは屋敷の三階、落下すれば最悪命はありませんの。

 死の恐怖から抜け出そうと竦んだ体を叱咤して抜け出そうともがきますが、元より粘体のスライムはもがく私に合わせて体を柔軟に変化させるため抜け出すことができませんですの。

 そして窓の外に出たスライム。私は死を覚悟してギュッと目を瞑り、最後の瞬間を待ちますの。

 しかしいつまで経っても墜落死の瞬間は訪れませんの。目を開けてみるとスライムは壁を這って階下の開いている窓へと向かっていきますの。

 やがて部屋の中へとスライムが入ると、部屋の中には昼間、ギュンター様に連れられドボルザク様の工房でギュスターヴ様と一緒にいた女性が二人。一人は私と同じヒューマンみたいですが、もう片方の小さな女の子は頭に二つ、ピンと立つ獣耳を持つ獣人の女の子ですの。

 どちらも女の私から見てもつい見とれてしまうほどの容姿をしていますの。でもなんでスライムがそんな二人のところに……?


「ウィオ、風の結界でこの部屋を覆って音を遮断してくれ」


「はい『風よ覆え、膜となりて振動を受け止めよ。風膜(エアフィルム)』」


「(!?)」


 突如スライムから男性の声が聞こえましたの。その声に従って少女が魔法を発動させますの。

 少女がスライムの命令に従ったのもアレですが、スライムが喋るなんて聞いたことがありませんの。というか音を遮断してどうするつもりですの!? も、もしかして私を――。


「よし、いきなり拘束して悪かったな。騒がれて人呼ばれんのはちょっと面倒なんだ」


 再びスライムから男の声が聞こえてくると、私の口を塞ぎ体を拘束していたスライムの体が離れていきますの。

 私から離れたスライムは二人の女の子の傍まで行くと不定形だった身体が人の形を取り始め、すぐに鍛冶場でギュスターヴ様と一緒にいた男性に変わってしまいましたの。極一部のスライムに変形する能力があるのは本で読んだことがありましたが、ここまで精密な変形――いえここまで来ると変身ですの――ができるスライムがいるなんて書いて無かったですの。


「あ、貴方達はいったい何者なんですの!? 私を拐かして一体何が目的なんですの!? というかスライムが人になるなんて聞いたことありませんの!!」


「あー、何から説明したらいいもんか……。愛梨、頼む」


「うん。こういうのは女の子同士のほうがいいだろうしね。シャルロットさん、いきなり連れてきてごめんなさい。私達、どうしてもあなたに聞きたいことがあったの」


 聞きたいこと? 一体初対面の私に一体何を聞きたいのですの。


「シャルロットさんは……このままでいいの?」


「このまま、ですの?」


「そう、このままギュンターって男と結婚してもいいのってこと。本当はイヤなんでしょう?」


 何を突然聞いてくるのかと思ったら……。良い訳ないですの。でも……


「私はアスカロンの娘ですの。お家の為にも私に否はありませんの」


「ん~、私が聞きたいのはそういう答えじゃなんだよね。私が聞きたいのはね、アスカロンの娘としてのあなたじゃなくて、一人の女としてどうかって事なのよ」


「一人の……女として……」


「そう、一人の女として。別にここには私達しかいないんだし、魔法で外に音も届かないんだからさ。吐き出しちゃいなよ。嘘偽りの無い本心を」


 本心……嘘偽りの無い私の本心……私の本心は……


「…………の」


「え?」


「嫌に決まってますの! 苦痛ですの!! 私がお慕いしているのはギュンター様じゃないですの! 小さな頃から、物心ついた頃から私がお慕いしているのはずっとずっと、ギュスターヴ様ただ一人ですの!!」


 はぁ、はぁ、言ってしまいましたの。婚約者がギュンター様に変わってから一度たりとも誰かに話したことのない本心を今日初めて会ったこの人達に言ってしまいましたの。恥ずかしくて顔から火が出そうですの。


「うん、今日工房で見たときよりも今のほうがずっといい表情してるよ。やっぱり結婚するなら好きな人が一番だもんね」


「こんなこと言わせてどうするんですの。どうせ私の結婚相手は覆りませんの。今更私を苦しめて一体何がしたいんですの」


 折角ギュスターヴ様への未練を無理矢理断ち切って、そこまで覚悟を決めてギュンター様に嫁ぐ決意を決めていたのに……。今のやり取りでギュスターヴ様への想いが再燃してしまいましたの。

 覚悟を決めるのに年単位で時間が掛かりましたですのに……。


「そこまでシャルロットさんが彼を想ってるなら問題ないね」


「何が問題ないですの? 私は苦しいだけですの」


「私達はね、ギュスターヴさんに協力することになったんだ。彼が決闘で弟に勝てるようにするためにね」


「協……力……?」


 何を言ってるんですのこの人は。あと一ヶ月しかないのにそんな事できる訳ないですの。ギュンター様は物理戦闘力がAと高い上に【剣豪】の称号まで持つ人ですの。レベルも魔物狩り等の実戦で鍛え、あの年齢で30と非常に高いですの。

 そんなギュンター様に一ヶ月やそこらの特訓で勝てるわけが無いですの。


「そ、協力。ギュスターヴさんはいい人だし、それにあんな権力を笠に着て人を見下すことしか出来ないような人、私達も嫌いだしね。それと、同じ女として結ばれるなら好きな人との方がいいでしょう?」


「本当に……協力してくださるんですの……? 私は辛い結婚をしなくてすむんですの……?」


「ええ、何が何でもギュスターヴさんには決闘に勝ってもらうわ。まあその過程でだいぶ苦労するとは思うけど、たった一ヶ月頑張れば最愛の人と結婚できるんだもの。きっと死ぬ気でやると思うよ。絶対死なせはしないけど」


「信じていいんですの……?」


「大丈夫、信じて……って初対面の私が言っても説得力はないからね。けど、期待しててって言っておくね」


 明るい笑顔で自信満々に言う彼女。その言葉に私の目から涙が零れ頬を伝いますの。

 絶望しかない未来に差した一筋の光明。私は恐らく彼女を信じてしまっているのだと思いますの。そう思わせてくれる何かが彼女にはあるように思えますの。


「はい……、はい……! よろしくお願いいたしますの」


「うん、必ずあの弟をギャフンと言わせてやるからね。それと、融ちゃん」


「ああ、わかってる。シャルロットさん」


「なんですの?」


 今まで私と彼女のやり取りを黙ってみていたスライムが変形した男性が声を掛けてきましたの。


「今日はこの部屋に泊まっていくと言い。あの下種野郎が今君の泊まる予定だった部屋で君の事を探してる」


 私は身の毛がよだつのを抑えられませんでしたの。彼の言っていることが本当だとしたら、私は彼にこの部屋へと連れて来られなかったら今頃ギュンター様……いえ、もうこの際ギュンターでいいですの……に犯されていたですの。

 さっきまでの私だったらお家の為と必死で我慢したでしょうが、今では絶対に無理ですの。あんな男に犯されるぐらいなら死んだほうがマシですの。

 幸い私がこの屋敷に泊まるのは一日だけ、明日になればアスカロンの屋敷に帰るのですから今日を乗り切ればしばらくは安全ですの。


「それじゃあ俺は自分の宛がわれた部屋に戻るな」


「うん、おやすみ融ちゃん」


「おやすみなさいユウお兄さん」


「お、おやすみなさいですの」


 そう言って彼は部屋を出て行きましたの。彼が部屋を出た後、二人はいそいそと寝る仕度を整えましたの。

 今日は私もこの部屋で寝ると言うことで三人でこの部屋に備え付けられている巨大なベッドに寝転がり、寝るのかと思いきや何故か始まったのは互いの好きな人についての話でしたの。

 寝ないのかと尋ねたら「やっぱりこういう時は恋バナだよね」とよく分からないことを口にしていましたの。

 まあ私のお慕い申し上げている……もう愛しているでいいですの……男性はギュスターヴ様だけですし、彼の良い所なんていくらでも話せますの。

 アイリさんとウィオさん……ついでに自己紹介してもらいましたの……はどうやらあのスライムが変形した男性……ユウさんといってましたの……が好きらしいですの。

 そんな話を延々としていると、徐々に眠さに負けて瞼が落ちてきましたの。


「私達もがんばります。だからあなたも頑張ってください」


 意識が落ちる寸前聞こえてきたのはウィオさんの小さくも頼もしい言葉でしたの。

 その言葉に安心した私が深い眠りに落ちていっても、それはしょうがない事ですの。

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