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異世界転移の融合者  作者: ミジンコ
冒険者家業とダンジョンとドラゴンと
51/59

50話 そして弟は嫌な奴で

「がっははははは! いやーすまんすまん。儂の可愛い孫娘にちょっかいかける虫けらの声がまた聞こえたもんでのう。思わず持ってたハンマー投げちまったんじゃ!」


 そう言いながら頭を掻いて豪快に笑うこのおっさん。この人こそこの工房の主であり、俺達、そしてギュスターヴが剣を打ってもらおうとしていたドボルザク師である。ちなみに俺の顔面にハンマーを直撃させてくれたのもこのおっさんだ。

 ぶっちゃけ見た目はファンタジーでよく見かけるドワーフのそれ。煤で汚れたTシャツに同じく煤で汚れた紺のオーバーオールを着た体は小柄でずんぐりむっくりとした体型をしている。立派な髭をもち、鍛冶をする為に発達したと言わんばかりの筋肉質な腕は俺なんかじゃ十人集まっても力負けしそうだ。


「もうおじいちゃん、笑ってないでちゃんと謝って! このお客さんハンマー顔面に直撃したんだよ! 下手したら死んじゃってたんだからね!」


「お、おおうわかっとるわいアンナ。すまんかった坊主、この通りだ」


 すぐ傍で俺達全員にお茶を入れていた女の子に怒られると先程とは打って変わって居住まいを正し俺に頭を下げるドボルザク師。アンナと言う名の女の子は二つ結びにした髪の房の右だけを三つ編みにしている。祖父よりも小柄な体は白いTシャツにピンクのオーバーオールに包まれているものの、祖父とは違い細身の美少女である。もちろん髭は生えていない。


「で、そこの貴族のボンボンと坊主達の依頼は剣か?」


「もちろんさ! このゲオルギウス家の嫡男であるギュスターヴに見合う強力な剣を――」


「断る」


 ポーズを決めながら話すギュスターヴのセリフを遮るようにドボルザク師は彼の仕事の依頼を却下した。

 まさか断られると思っていなかったのか、ギュスターヴはポーズをきめたまま固まって動かない。


「坊主達の方は受けさせてもらおうかのう。冒険者にとって武器は相棒じゃ。自分の命を預けられる武器を求めるのは当然のことじゃて」


「お、おう。助かる」


「ありがとうございます」


「ちょっと待ちたまえ! 何で私はダメなのだ!」


 ようやく再起動したギュスターヴがドボルザク師に食って掛かる。鍛冶場の隣のこの部屋で背が低めながらもがっしりとした筋肉質なおっさんと、かたやデヴ。絵面が暑苦しいたらありゃしない。


「今さっき坊主たちに言ったのが答えじゃ。剣とは武器、自分の命を預ける相棒じゃ。決して貴族が己の見栄のために飾られるものではない」


「ちがう! 私は――」


 ギュスターヴが何かを言おうとした瞬間、バタンと音を立てて扉が開かれる。

 開いた扉から現れた人物は二人。当然ながら俺達の知らない人物。だが、ギュスターヴは入ってきた人物達を知っているようだ。


「ギュンター……シャルロット……」


 名前を呼ばれた二人の人物。ギュンターと呼ばれた男は言ってしまえばイケメン。それも全力で性格の悪そうな。

 貴族らしい華美な衣装を身に纏い、いかにも私はプライドが高いですと言わんばかりの視線をギュスターヴに向ける。

 一方シャルロットと呼ばれたの淡い水色のシンプルなドレスを着た女の子は愛理やウィオには及ばないものの、これまた美少女と言っても過言ではない。

 ウェーブのかかった金色の髪は腰辺りまで伸び、側頭部につけた真紅の花の髪留めは金色の髪と相まってより一層映えている。

 しかしなぜか彼女の表情は沈んでいるというか、何もかも諦めたような顔をしていた。


「おやおや、誰かと思えば兄上じゃないか。兄上もドボルザク師に剣を打ってもらいにきたのかい? 無駄だと言うのによくやるよ。いくら剣が良くても使うのが兄上じゃ剣が可愛そうだ。豚には剣なんてまともに扱えないからね」


「クッ……」


 どうやらギュンターはギュスターヴの弟らしかった。他にも人がいるのにも拘らず兄を嘲笑するって大分性格の悪い。


「ま、豚な兄上はどうでもいいか。そんな事よりもドボルザク、いい加減僕に剣を打ってくれる気になったかな? 伯爵家の次期当主である僕の剣を打つことが出来るのはとても名誉なことなんだよ?」


「何度も言わせるんじゃねぇよ洟垂れ小僧が。テメェみてぇな奴に振るってやる鎚を儂は持ち合わせちゃいねぇんだよ」


 ギュスターヴの時はやや諭すようにも聞こえたドボルザク師の声が今回はガラっと変わり、目つきも鋭く嫌悪感も混じった口調になっていた。


「おやおやそんな事を言ってもいいのかい? 僕がその気になればこんなちんけな工房の一つや二つすぐにでも――」


「ふん、自分の意に従わなければすぐ権力の乱用か? テメェは洟垂れ以下のクズだな。テメェみてぇな奴なんぞより、お前が豚呼ばわりした兄のほうがずっとまともだな」


「貴様! 言わせておけば……! ふん、まあいい。いくら名工の剣といえど豚が持っても高が知れている。どうせ決闘で勝つのは僕なのだ。その時にでも没収すれば問題は無いか」


 一瞬激高しかけたギュンターがすぐに冷静さを取り戻す。彼は見下していたギュスターヴからその護衛である二人へと顔を向けた。


「さて、カルロスにオスカー。君達もこんな豚の護衛などやってないで僕の元へ来ないか? 優秀な君達だ、豚の護衛などよりも有意義な仕事と報酬を約束するよ?」


 ギュンターの勧誘に今の今まで直立不動でギュスターヴの護衛をしていた二人が口を開く。


「我々の主はギュスターヴ様ただ1人」


「我等は決して主を裏切る真似はしない」


「「さっさと主の前から去れ、簒奪者」」


「ぐっ……、いいだろう。決闘の後お前達に我が家での仕事は無いと思え! その時になって後悔しても知らないからな! いくぞシャル!」


 護衛コンビの迫力にたじろぐギュンターは捨て台詞を残して去っていく。シャルロットも一緒に工房を後にしたが一瞬、ほんの一瞬だけ全てを諦めた瞳がギュスターヴへと向けられた時、その瞳は諦めではなく悲しみを湛えていた。


 ギュンター達が去った後、工房の中は静寂が訪れていた。中でもギュスターヴの消沈具合は酷い。目に見えて落ち込んでいるのがよく分かる。

 流石に見ていられなかった俺は口を開いた。


「事情を説明してくれないか?」


「ユウ……」


「そうね、私達でも力になれるかもしれないし」


「はい、さっきのお姉さんも悲しそうでした」


「レディ……、リトルレディ……」


「そうじゃな。剣を打つかは別として儂もあの洟垂れ小僧は気に食わん」


「ドボルザク師……。ありがとう……!」


 感極まったのかうつむくギュスターヴ。床には彼の瞳から流れた大粒の涙によって小さな水溜りが出来始めていた。

 それからしばらく、大量の涙を流し終えたギュスターヴが事情を話し始めた。


「さっきも言ったが我がゲオルギウス家はケルドミナンド帝国において伯爵の位を賜っている由緒正しき名家だ。そしてゲオルギウス家の当主である父、カルトロの正妻の子である私ギュスターヴと側室の子であり弟のギュンターは現在当主の座を争っている。……と言ってもほぼギュンターで決まりなのだがね。元来貴族家の当主は嫡男が継ぐのが基本なのだが、それは普通の貴族家での話しだ。我がゲオルギウス家はケルドミナンド帝国にある数ある貴族家の中でも武に重きを置く家なのだ。過去に神童と持て囃された私も今ではこのザマ。ギュンターにはある日を境に剣でまったく勝てなくなってね。それで父は当主の座を私からギュンターにすると言っているのだ。そして一ヵ月後、父の慈悲かは知らないが私はギュンターと当主の座を賭けて決闘することになったのさ」


「なるほど。それで、あのいけ好かない野郎と一緒にいた子は?」


「彼女はシャルロット。シャルロット・フォン・アスカロン。アスカロン子爵家の三女で私の幼馴染だ。元々は次期当主だった私の婚約者だったのだが、今ではほぼ弟の婚約者みたいなものだ。父曰く、彼女は私の婚約者ではなく、ゲオルギウス家の次期当主の婚約者だったというわけさ」


 見るからに気落ちした表情のギュスターヴ。沈んだその顔はつい先程愛梨やウィオに声を掛けていた人物と同じとは到底思えない。


「一ヵ月後の決闘も恐らく……いや、確実に負けるだろう。僅かな希望にかけて強力な魔剣を手に入れようと思ったのだが……な」


「それで、お前さんは諦めるのかの?」


「え……?」


「あのいけ好かない洟垂れ小僧に惚れた女を盗られてもいいのかと聞いているのじゃ」


「良い訳ない! 良い訳ないに決まってるだろ!! 彼女は私の大事な幼馴染であり私の最愛の人だ! 弟なんかに渡したいわけないだろう!!」


「なら、なんだってできるんじゃな?」


「当たり前だ!!」


 ギュスターヴの啖呵にドボルザク師が口角を上げる。先程までギュスターヴをただの貴族のボンボンとしか見てなかったドボルザク師だが、どうやら彼のことを多少なりと認めたように思える。


「いいだろう剣を打ってやる……が、条件が有る」


「条件?」


「ああ、この街にあるダンジョン、その二十階層の階層主を討伐してくるのじゃ。そうしたらお前さんに剣を打ってやる」


 剣を打ってやるという言葉に希望を見出したギュスターヴだが、その条件を聞いた途端困惑と絶望が混ぜ合わされた表情になった。


「二十階層!? そんな……そんな深部に私だけでは……」


「何でもやるんじゃなかったのかのう?」


「く……」


「だったら俺達が手伝ってやるよ」


 顔を下に向けて俯いたギュスターヴが顔を上げ俺を見る。


「俺もそのダンジョンに行ってみたいし、俺はあのクソ貴族は気にいらねぇ。それに、一人で討伐して来いとは一言も言ってないしな」


「ユウ……」


「愛梨とウィオはどうする? これは俺が個人的に手伝いたい事だから宿で待っててくれてもいいぞ」


「もちろん私も行くよ。女の子の敵は許せないからね」


「ユウお兄さんが行くのでしたら私はどこでも一緒に行きますよ」


 愛梨の答えはある程度予想できていたが、ウィオはその斜め上をいっている気がする。まあ可愛いウィオをお留守番させておくのもそれはそれで落ち着かないのでありがたいっちゃありがたいが。


「いいじゃろう。どの道一人で行かせて死なれても寝覚めが悪いからのう」


「決まりだな。ちゃっちゃか倒して剣手に入れて、あのむかつく弟ブッ倒して、幼馴染を取り戻すぞ」


「ああ……ああ! ありがとうユウ! アイリ! ウィオ! ドボルザク師! 本当にありがとう!!」


 絶望の中差し込んだ一筋の光明に涙を流しながら感謝するギュスターヴ。言ってしまえば平民である俺達(俺にいたっては人間を半分やめているが)に頭を下げるなんて態度を貴族である彼がとるのは若干違和感がないわけではないが……悪い気分ではない。むしろファーストコンタクトが悪かった分、俺の中のギュスターヴ株が急上昇中だ。


「(さて、やると決めたはいいが……どうするか……)」


 今のところ具体的な案は浮かんでいないが、どうにかしてやりたい。幼馴染を大事にする奴に悪い奴はいないと思うから。

 俺達は日が沈むまで話し合った後、ギュスターヴの好意で彼の住んでいるトレイズの街のゲオルギウス家別邸へと招待された。

長期間投稿が遅れて大変申し訳ありませんでした。リアルが忙しかったのもありますが、中々モチベが上がらなかったんです……。

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